『この世界の片隅に』弾薬雑考その2(機銃掃射の弾薬)

『この世界の片隅に』に登場する日米の弾薬についての解説です。第ニ回目は機銃掃射で撃ち込まれた弾薬と作中での表現について。
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たまや @tamaya8901

今日は、すずさんが狙われた機銃掃射の弾薬について解説してみたい。 #この世界の片隅に pic.twitter.com/8SKzTmiF2A

2016-11-24 18:55:54
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たまや @tamaya8901

米軍機に銃撃を受けた後、側溝に退避したシーンで、路面に空いた大きないくつもの穴に気が付いただろうか?「鉄砲のタマごときでそんなオーバーな・・・」と思われた方もいるかもしれない。

2016-11-24 18:56:25
たまや @tamaya8901

だが、米軍機の機銃掃射で撃ち込まれた銃弾は、多くが12.7mm機銃弾で、弾丸はこのような大きさがある。長さ約6cm、直径約13mm。重さはM2徹甲弾なら46gくらい。人間に当たれば、痛いじゃ済まない。 pic.twitter.com/jy9k2vNV56

2016-11-24 18:57:14
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たまや @tamaya8901

撃つ前の薬莢と組み合わされている状態はこんな感じ。上段が普通弾、中段が徹甲弾、下段がこれらを連結してベルト状にするための鉄の連環。銃撃直後は、薬莢や連環も空からバラバラ降ってくる。瓦屋根だと、それで破損することもある。 pic.twitter.com/0IldOBAleC

2016-11-24 18:58:12
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たまや @tamaya8901

そして、当時米軍が使っていた12.7mm弾にはこれだけ種類がある。外形はほとんど同じなので、先端に塗った色で弾種を識別する。 pic.twitter.com/XgcIxOI7L3

2016-11-24 18:59:52
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たまや @tamaya8901

M2徹甲弾は装甲目標に対して使用し、芯にタングステンクロム鋼又はマンガンモリブデン鋼製の弾身があって、頭部に硬鉛填実物を入れ、丹銅被甲で被った構造となっている。装甲貫通能力は、500mで19mm、1200mで10mm。 pic.twitter.com/Nqm6Kc6mow

2016-11-24 19:05:56
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たまや @tamaya8901

M2普通弾は、芯が鋼鉄であるため、徹甲弾ほどではないが、やはりそれなりに貫通力があって、普通の家や自動車くらいなら難なく撃ち抜く。人体など、言うまでもない。 pic.twitter.com/VEtwJrTupQ

2016-11-24 19:06:43
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たまや @tamaya8901

曳光弾は弾道の修正用で、5発に1発くらいの割合で入っている。実例を見ると、空襲で使われたのはM10曳光弾が多いようだ。 pic.twitter.com/zx20ozopBm

2016-11-24 19:11:45
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たまや @tamaya8901

さらに厄介なのは、M1焼夷弾やM8徹甲焼夷弾などの炸裂弾だ。これらは、標的命中時の衝撃で中に入っている焼夷剤が爆裂発火し、可燃物を燃焼させるもので、空襲ではかなりの頻度で使われている。 pic.twitter.com/yXuWALEhnq

2016-11-24 19:14:33
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たまや @tamaya8901

参考の例をあげると、茨城県小美玉市での発掘調査で見つかった12.7mm機銃弾を識別したら、このように半数強がM1焼夷弾とM8徹甲焼夷弾だった。 pic.twitter.com/EUXo6Kyu7C

2016-11-24 19:15:19
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たまや @tamaya8901

信管もついていないのに爆発?と思われるかもしれないが、花火の一種のカンシャク玉などは硬い所に叩きつければ爆発する。大雑把に言えば、あれの極めて強力かつ凶悪なものだと思ってもらえばいい。

2016-11-24 19:15:48
たまや @tamaya8901

これら焼夷系の弾は、特に航空機を狙う場合に燃料タンクに着火させることができるので、大きな威力を発揮する。

2016-11-24 19:16:14
たまや @tamaya8901

硬い地面に当たって爆発すれば当然大きな穴が開くし、非炸裂弾だとしてもかなりの運動エネルギーがあるので、やっぱり大きな穴が開く。なので、あの表現は決して誇張ではない。

2016-11-24 19:17:08
たまや @tamaya8901

さらにもう一つ。炸裂弾が爆発すると、強烈な閃光を発する。よくある米軍機のガンカメラの映像でも着弾点でチカチカ白っぽい点滅が映っているが、それがまさにその爆発の瞬間をとらえている。 pic.twitter.com/OZ3UrryvfX

2016-11-24 19:18:22
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たまや @tamaya8901

例えばこの映像の6:48~7:15あたりが分かりやすい。8:15では命中して日本軍機が発火する瞬間が映っており、その効果が確認できる。youtube.com/watch?v=826XI0…

2016-11-24 19:18:52
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たまや @tamaya8901

そして爆発した後の弾丸は、こんなふうに被甲がべろんと外側に向かってめくれたようになる。(長野県立歴史館展示のM8徹甲焼夷弾の例) pic.twitter.com/htH6tng1OO

2016-11-24 19:20:41
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たまや @tamaya8901

そこで、今一度「この世界の片隅に」の銃撃シーンを見なおしてほしい。パイロットの視点から見える着弾点のカット。お分かりになっただろうか・・・?いくつもの土煙が上がっている中に焼夷系弾丸の爆発閃光が描き込まれているのが。

2016-11-24 19:21:21
たまや @tamaya8901

土煙は薄茶色、閃光は黄橙色なのでなかなか分かりにくいのだが、これから見る人はぜひ目を凝らしてほしい。

2016-11-24 19:21:52
たまや @tamaya8901

なお、M8徹甲焼夷弾やM1焼夷弾に入っているIM11焼夷剤は、硝酸バリウム50%・マグナリウム(マグネシウム50%・アルミ50%合金)50%の混合物なので、マグネシウムの炎色反応により、実際は少し紫がかって見えるのだが、土煙を透過して色調が変わって見えたと理解したい。

2016-11-24 19:22:39
たまや @tamaya8901

焼夷系の弾の閃光が紫がかっていると書いたけど、 動画を見ると殆ど橙だな・・・。 どうも、あれでいいっぽいです。 youtube.com/watch?v=YG0kLv…

2016-11-25 02:06:48
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メラーノ@竹の会 @samuhara

祖父が昔よく地元の空襲の話をしてくれたのだが、それがこの機銃掃射に使われた焼夷弾の効果によるもので、1、2発食らった民家が燃え出し、火災が燃えうつり三軒ほど全焼したというのだ。なんのことはない、商店街沿いの普通の民家である。このようにして呆気なく日常生活は失われていった。

2016-11-24 19:24:15
たまや @tamaya8901

焼夷系弾丸が実際に呉空襲で使われたことが分かる実物資料としては、大和ミュージアムに展示されているM1焼夷弾の例がある。これは、昭和20年7月28日、呉在泊艦艇を襲撃したB24爆撃機が撃墜され、その予備弾倉から回収されたもので、先端の水色の識別色がよく残っている。 pic.twitter.com/G71Ep4jGKW

2016-11-24 19:23:27
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たまや @tamaya8901

大和ミュージアムに展示中の、12,7mm M1焼夷弾。 以前撮ったカラーの写真をようやく見つけた。 pic.twitter.com/4gounwOcDw

2016-11-25 21:25:12
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たまや @tamaya8901

このように、実際の機銃掃射の遺物として焼夷系弾丸が伝えられている事例は全国に多いが、気を付けてほしいのは、取り扱いを誤ると今でも爆発するおそれがあるということ。

2016-11-24 19:24:12
たまや @tamaya8901

特に、ハンマーなどで強打したり、切断して中を調べたり、火で炙ったりすることは、大変危険だ。戦後、機銃弾で遊んでいて手指を吹っ飛ばした子供の話があるが、それは十中八九こうした弾丸によるものだと考えられる。

2016-11-24 19:24:50