「フー・クゥド・イート・ソーリー?」

秋だ!北の海だ!秋刀魚漁だ! マグロもあるよ!
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪はオジギをしてアイサツする。「ドーモ、艦娘・吹雪です。ゴブサタシテオリマス、五十鈴=サン。浜風=サン」「ドーモ、陽炎型13番艦・浜風です」「長良型2番艦・五十鈴です……ここでアンタに出会うなんて不吉極まりないわね」五十鈴が冷や汗をかきながら吹雪を見た。吹雪は首を傾げる。 7

2016-12-11 16:29:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ちょっと五十鈴=サン。それは失礼ですよ」綾波が唇を尖らせて五十鈴に抗議した。「いや、だって、ね…」五十鈴は両人差し指を突き合わせて曖昧に返事をする。「アー…気持ちは分からない訳ではないけど…」浜風も曖昧に五十鈴を擁護する。「もう、浜風ちゃんも」綾波はぷくぅと頬を膨らませた。 8

2016-12-11 16:41:13
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「嗚呼、成程」吹雪は納得したように頷いた。そしてわざとらしく溜息を吐く。「困りましたね。あの程度の演習がトラウマになられてはこちらも困るのですが」「……何ですって?」五十鈴は低い声で唸り、吹雪を睨む。吹雪はカタナめいて鋭い視線で睨み返した。 9

2016-12-11 16:43:20
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「見たところ、貴女達も秋刀魚漁支援任務に従事するようですが…」吹雪は出撃ドックに視線を巡らせる。吹雪の目は魚群探知に特化した五十鈴と浜風の艤装を見つけていた。「敵が出れば私は戦います。カラテを封じていたあの演習とは違って、全力で…敵の目を抉り、手足を折り、首を刎ねる為に」 10

2016-12-11 16:48:11
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ごくり、と固唾を飲みこむ音は、果たして五十鈴と浜風どちらのものだったのだろうか。吹雪は挑発的に言葉を続けた。「私のカラテは敵を殺すカラテです。惨いイクサです。生半な覚悟で見ては、失禁しますよ?」「……上等じゃないの」五十鈴は虚勢を張って、眼前の死神に対した。 11

2016-12-11 16:52:27
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「こっちはあの後格闘技のセンセイの下で修業したのよ。アンタこそ、こっちの成長ぶりに度肝抜かれるんじゃないわよ?」「そうでしたか」吹雪は薄く笑って頷く。「では、頼りにさせていただきましょう」「そうよ、せいぜい頼りにしなさい!行くわよ浜風!」「わ、ちょ、ちょっと待って!」 12

2016-12-11 17:16:31
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

五十鈴は威風堂々と踵を返して歩き出した。浜風は吹雪に一礼して五十鈴の後を追う。「発破になったようですね」「えっ、あれ発破だったんですか?」綾波はギョッとした表情で吹雪を見た。「なんか悪役の脅しに見えましたけど」「実際脅しましたからね」吹雪は朗らかに笑った。 13

2016-12-11 17:39:38
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ですが、あの程度の虚仮脅しで屈するようではなくて何よりです。どうやら、いいセンセイに恵まれたようですね」「…そうですね」「頼もしい限りです」吹雪は綾波に手を伸ばした。「また共に戦えるようで、嬉しいですよ。綾波=サン」「…はい!」綾波は吹雪の手を取り、握手を交わした。 14

2016-12-11 17:56:55
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「網下せー!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」SPRAAASH!北方海域、日の沈んだ極寒のこの海域で、10数隻の漁船が悠々と海を往く。深海棲艦が世に現れて10数年。絶えて久しかった光景であった。深海棲艦の脅威がまず齎したのは、漁業の壊滅であった。 16

2016-12-11 19:13:29
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

深海棲艦は海を往くものを無差別に攻撃した。それに軍艦も輸送船も、客船も漁船も一切の区別は無かった。一時期では沿岸漁業すら自殺行為の代名詞となったこともあった。それほどに深海棲艦は脅威であった。艦娘の実装から、徐々に制海権を押し上げたことで、漁業が再開されたのが1年前のこと。 17

2016-12-11 19:19:32
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

とはいえ、深海棲艦の脅威が去ったわけではない。所謂「はぐれ」と呼ばれる個体が日本近海に近づく事も珍しくはない。よって、漁業の保護も艦娘の任務の一つとして加えられた。この秋刀魚漁は鎮守府総出で行われる調査漁業のひとつ。この海でどれほどの資源が残っているかの調査であった。 18

2016-12-11 19:25:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ!」「AGRRRR!サヨナラ!」遠い闇の向こうで、爆発四散による紅い炎が夜空を赤く染める。「やってるわね…」五十鈴は探信儀と探照灯を構えてその光景を見た。そこで戦っていたであろうカラテの怪物を思い浮かべる。バルルルル…!やがて爆炎が消え、エンジン音が轟いた。 19

2016-12-11 19:31:48
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

闇の向こう側から、白い水上バギーが躍り出た。その側面には禍々しい「焔矢」のショドーが威圧的だ。「お疲れ様です」乗り手が五十鈴に一礼した。その体は青黒い血で汚れていた。五十鈴は僅かに顔を顰め、一礼を返す。「お疲れ。敵は?」「駆逐3に重巡1、全て殲滅してきました」 20

2016-12-11 19:47:22
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「そ、報告はしておくわ」五十鈴は通信装置を立ち上げて報告を飛ばす。今回の秋刀魚漁は、リカルド率いる艦隊を基幹として、監獄島特務艦隊「鳶」を加えた変則的な艦隊だ。メンバーは鹿屋の吹雪と磯風、宿毛湾の天龍、「鳶」の綾波、浜風、五十鈴の6名。 21

2016-12-11 19:54:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「けど、雲龍はどこに行ったのかしら」報告を送り、五十鈴は溜息を吐いた。「先ほど、センセイでしたか?」五十鈴の独り言に、吹雪が反応した。「ええ、そうよ。幌筵までは一緒だったんだけど…道にでも迷ったのかしら?」「どちらにしろ、今回は居ても居なくても関係なかったのでは?」 22

2016-12-11 20:06:26
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪は空を見上げた、月が照らし、星が瞬く夜空を。「この夜空では、艦載機はうまく飛ばせないでしょう」「それもそうよね」五十鈴は納得がいったかのように頷いた。吹雪は焔矢のエンジンを吹かし、リカルドのいる漁船へと進む。 23

2016-12-11 20:16:44
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

探照灯を照らして魚群を引き寄せている雲龍や磯風に一礼し、漁船団の中心部に悠々と座す北竜丸を目指す。やがて北竜丸の側面に辿り着くと、吹雪は焔矢のコンソールを操作して、自動操縦に切り替えた。『速度同調重点、重点な』「イヤーッ!」吹雪は回転ジャンプで北竜丸へと飛び移る。 24

2016-12-11 20:39:43
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「おう、戻って来たか」飛び移ってきた吹雪を見て、甲板上で指揮を執っていたリカルドが笑う。その姿は平時の甲冑姿ではなく、青い法被に紅い褌の伝統的な漁師姿であった。リカルドは吹雪に白いタオルを投げ渡す。「敵は?」「始末してきました。これで滞りなく漁を続けられるかと」「そうか」 25

2016-12-11 20:58:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪は手足や顔にへばりついた青黒い血を拭い、北竜丸から漁船団を見た。眩い照明が黒い海を照らし、網の中で大量の秋刀魚がパニック状態になって身を躍らせる。「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」漁師達は雄々しいシャウトを上げて網を引き揚げ、船内の冷凍室に秋刀魚を流し込む。 26

2016-12-11 21:08:39
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「活気がありますね」吹雪は率直な感想を呟いた。「そりゃそうだ」リカルドは珍しく朗らかに笑った。「あれは人の生業。生きる為の行いだ。あれに活気が無かったら、何に活気を見出せばいいのかって話だ」「生きる為の…」吹雪はもう一度漁師達を見た。彼らは皆笑顔だった。喜びの笑顔であった。 27

2016-12-11 21:17:05
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「よく、戦いの意味を問う奴がいるが」リカルドは船首の縁に足を掛けて、漁の様を見た。「意味なんざ終わった後で見つけるもんだ。少なくとも、漁師は生業を再開できた。人は飢えから逃れられる。なら戦いに意味はあった。俺はそう言うね」「そうですね」吹雪が同意した。「そうだと、思います」 28

2016-12-11 21:21:49
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪はただ立って漁の光景を見続けた。それは彼女にとっては美しい光景であった。リカルドは笑って吹雪の頭を撫でた。「リカルド大将!」不意に、操舵室から声が響いた。「何だ!」リカルドは吹雪の頭から手を退けて、操舵室へと歩を進める。総舵手が機材を指差して言った。「救難信号です!」 29

2016-12-11 21:26:58
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「救難?」「艦娘のものと思われます」「位置分かるか?」操舵手は機材を操作して救難信号の発信源を液晶画面に表示させる。「ここから西に4キロの…」「小島が多いな…」リカルドの脳裏に、幌筵で依頼された行方不明艦娘のことが過る。生きてはいまいと思っていたが…「案外生きてるもんだな」 30

2016-12-11 21:37:13
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「吹雪!」「ここに」吹雪は既に出撃準備を終え、焔矢に跨っていた。「話は聞いてたな!」「ええ、艦娘からの救難信号。西に4キロですね?」「そうだ。詳細情報は後で焔矢のUNIXに送っておく。こっちも頼まれた仕事だ。行ってくれ」「了解しました」バルルルルルル!焔矢のエンジンが唸る。 31

2016-12-11 21:43:58
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