ナイト・エニグマティック・ナイト #2
(((夜の闇に身を浸す時…!)))レイジは窓を開けベランダに出る。防犯柵を解除し、危なっかしい足取りで隣の非常階段へと跳び渡った。夜が、闇が、影が、活力を与えてくれるような気がした。キョートの風に吹かれ、ざらざらとした焦血の香りが運ばれたが、彼にはそれが何か解らなかった。 24
2011-10-21 00:56:57レイジは隣のビルの屋上で正座し、懐から取り出したハイクセットを置く。殺戮を終え、彼の心は暗く美しい静けさに包まれていた。「インガオホー……」最初のセンテンスがすぐに湧き出してくる。「チョップで殺す……」セカンドセンテンスもよどみない。 25
2011-10-21 01:01:51「駄目だ!」レイジはショドーペーパーをぐちゃぐちゃに丸め、ブーツの底で何度も踏みつけた。彼の倦み疲れた心を満たす、暗く攻撃的でかつ美しいハイクは生まれないであろうことが、セカンドセンテンスの時点で解ったのだ。「全く駄目だ!」ヌンチャクで何度もショドーペーパーを殴りつける。 26
2011-10-21 01:05:52(((ニンジャセッションが足りないのか……?)))レイジは薄闇に浮かぶ五重塔を見た。危険だが、あそこまで跳躍すれば、あるいは。そうした自滅的な考えが生まれた直後、彼の携帯IRC端末が鳴った。特定条件にヒットするIRCメッセージが届いた時にのみ、通知を行う設定にしていたのだ。 27
2011-10-21 01:09:50彼は直ちに携帯IRC端末にLAN直結する。バイオLAN端子は、父親が彼に残した、数少ない有益な遺産だ。蛍光グリーン色の文字が、レイジのニューロンへと流れ込んでくる。「遂に!」レイジは小さく叫ぶ。彼のハイクを評価し、デビューさせたいという謎の人物から、メッセージが届いたのだ。 28
2011-10-21 01:13:39その男の名は、ドクター・ハイク。IRCメッセージの内容を信じるならば、かつてネオサイタマで芸能プロデューサーをしていたこの男は、現在アンダーガイオンでアンダーグラウンド的異才を発掘しており、すぐにでも会いたいという。指定場所は、レイジが足を踏み入れたことのない下層であった。 29
2011-10-21 01:17:07「行くぞ……アンダーガイオンへ……」レイジはヌンチャクを懐に隠し、希望とともに立ち上がる。ガイオンを囲むキョート山脈には、「ナ」「ム」「サ」「ン」の文字が赤々と暗示的に浮かび上がっていた。 30
2011-10-21 01:20:47(第2部「キョート殺伐都市」より 「ナイト・エニグマティック・ナイト」#2終わり #3へ続く)
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