斎藤清二先生による「医療におけるエビデンスとナラティブ」と「心理学におけるエビデンスに基づく実践」について

斉藤清二先生(@SaitoSeiji)による,エビデンスとナラティブに関する連続ツイートをまとめました
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斎藤清二 @SaitoSeiji

⑫2005年のAPAの声明は以下のように述べている。<EBPPの操作的定義は「患者の特徴、文化、意向という文脈において、その時点で手に入る最良の研究成果を、臨床技能に統合すること」である>。この定義はSackettらが2000年に公表したEBMの定義とほぼ同じ内容を示している。

2011-12-31 15:06:15
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑬APAの声明はEBPPの定義に加えて、EBPPについてのいくつかのポイントを強調しているので、主なものを列挙する。1)EBPPの目的は「実証的に支持された、心理学的評価の基準や、事例の定式化、治療的関係性、介入法を提供することによって、有効な心理学的実践を促進すること」である。

2011-12-31 15:11:50
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑭2)ESTsとは特定の心理治療法のことであり、EBPPは臨床判断のための方法である。ESTsは治療法から出発し「その治療法がある集団に対して有効であるかどうか?」を問う。EBPPは患者から出発し「その患者において、特定の効果を得ることに役立つ最良のエビデンスとは何か?」と問う。

2011-12-31 15:16:52
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑮3)心理治療法についてのメタアナリシスは、広く採用されている心理治療法のほとんどが、医学的治療法と同等かそれを超える効果量があることを示している。全ての心理治療法がRCTの対象となっているわけではないが、このことはそれらの治療法が効果的であるという可能性を否定するものではない。

2011-12-31 15:18:30
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑯3)実証的な研究法はRCTに限定されるものではなく、その研究目的に応じて複数の研究法があり得る。EBPPの実践者は各々の研究のタイプに応じた長所と限界を理解しなければならず、治療の方法、個々の治療者、治療関係、患者自身が治療に強い影響を与えることを理解しなければならない。

2011-12-31 15:21:37
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑰このようにして少なくとも2005年の時点で、EBPPにおける概念的混乱は払拭され、EBMとの概念のずれも修正された。EBPPが「臨床心理学的実践における個々のクライエントの臨床判断に適切にエビデンスを用いること」であるならば、ナラティブを重視するアプローチとも矛盾なく両立する。

2011-12-31 15:27:11
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑱一つだけ不思議に感じることがある。米国でのEBPP概念の変遷の歴史について本邦ではほとんど話題にされていないように見える。これまで「エビデンスに基づく臨床心理学」について精力的に論じてきた方々が沈黙しているように見えるのはなぜなのだろうか?・・以上で連続ツイートを終わります。

2011-12-31 15:38:46
切り取り線 @kiri_tori

✄------------ AM 2:00 ------------✄

2012-01-02 02:00:11
名郷直樹 @nnago

@SaitoSeiji あけましておめでとうございます。連続tweet興味深く拝見しました。せっかくですので私の実践上の実感を簡単に書きたいと思います。概念として、EBMはNBMに含まれますが、手法としてはNBMはEBMに含まれます。(続く)

2012-01-02 02:42:25
名郷直樹 @nnago

@SaitoSeiji 続き)EBMは言語化して語ることができるが、NBMとは何かを言語で語ることは困難で、1回きりの臨床上の出来事として示すことができるのみである、そういうところです。

2012-01-02 02:44:33
斎藤清二 @SaitoSeiji

まさにそこが肝要なところだと思います。NBMは明示化しすぎるとその本質を失いますが、EBMはできる限り明示的に語られるべきものだと思います。よって、両者を対称的に語ることには限界がありますね@nnago EBMは言語化して語ることができるが、NBMとは何かを言語で語ることは困難

2012-01-02 17:03:09
斎藤清二 @SaitoSeiji

実践的手法という観点から、私が一番しっくりくる表現は、「EBMは臨床判断のための手法」であり、「NBMは関係形成のための手法」である、というものです。この場合NBMはEBMを下支えするものとなります。@nnago 手法としてはNBMはEBMに含まれます。

2012-01-02 17:17:46
斎藤清二 @SaitoSeiji

EBMを「臨床判断のプロセス(技法)」と考え、NBMを「関係形成のプロセス(技法)」と考えれば、EBMが有効に実践されている時には、NBMのプロセスがそのバックグラウンドですでに機能しているに違いない。よって「EBMはNBMをすでに含んでいる」という表現は正当性をもっている。

2012-01-02 17:22:07
斎藤清二 @SaitoSeiji

医療実践において「臨床判断を行うこと」は必須のことであると考えるのが普通だが、必ずしもそうとは言えないかもしれない。そのプロセスにおいてエビデンスに基づく臨床判断が行われなくとも「関係による癒しとしての臨床プロセスが進行する」ことが、臨床現場にはまちがいなくある。

2012-01-02 17:32:58
斎藤清二 @SaitoSeiji

そうすると、「関係を形成するプロセス」としてのNBMは、「エビデンスに基づく臨床判断のプロセス=EBM」の前提になると同時に、NBMそれ自体はEBM抜きでも単独でも機能するということになるので、「NBMはEBMを包摂する(含んでいる)」という表現も正当性を持つことになる。

2012-01-02 17:40:11
斎藤清二 @SaitoSeiji

EBMはできる限り明示的に言語化されるべきものであり、そうすることが可能な体系である。NBMは本質的に明確には言語化できない側面を持っており、強引に明示化しようとするとその本質が失われる。よって両者の関係(EBMとNBMとの関係)も、全てを言語的に明示化することはできない。

2012-01-02 17:43:24
名郷直樹 @nnago

@SaitoSeiji 私にとってはEBMも「関係形成のための手法」です。関係形成を基盤にエビデンスを利用すると考えがちですが、それはEBMの危険なあり方の一つです。むしろエビデンスを媒介にして関係を構築するということの方がEBMにおいてもより実践的な側面です。

2012-01-03 00:45:47
斎藤清二 @SaitoSeiji

了解しました!100%先生の見解に同意します。私がエビデンスを対話の話題として用いる時は、まさにそれを目指していると思います(下手ですが・・w)@nnago エビデンスを媒介にして関係を構築するということの方がEBMにおいてもより実践的な側面

2012-01-03 09:08:08
斎藤清二 @SaitoSeiji

@nnago 確かに、私の場合、他人に説明する時には「関係を形成してからエビデンスを利用する」という表現を用いていましたが、実際に自分が行っている時の実感は、「エビデンスを参照したり話題にしたり」ということは「関係形成のプロセス」そのものですね。少なくとも両者は循環しています。

2012-01-03 09:20:01
切り取り線 @kiri_tori

✄------------ PM 1:00 ------------✄

2012-01-06 13:00:03
斎藤清二 @SaitoSeiji

EBM(科学的根拠に基づく医療)とEBPs(科学的根拠に基づく〔複数の〕実践)についての追加考察を連続ツイートしてみます。

2012-01-06 13:53:53
斎藤清二 @SaitoSeiji

①私の理解によれば、EBMの歴史は「臨床疫学的な情報をいかにして個別の医療実践に役に立つものとして応用するか」というモチーフから出発した。しかし、初期のEBMがそれまでの伝統的医学の世界に展開する時に、多くの誤解や曲解が生じた。

2012-01-06 13:55:33
斎藤清二 @SaitoSeiji

②その代表的なものは「エビデンス(臨床判断に役立つ情報)とEBM(個別の臨床実践の過程)とを混同すること」「EBMとは医療をレシピ(料理本)化することであると誤解すること」「エビデンスの質の階層を無視すること」「RCTだけがエビデンスであると誤解すること」などであった。

2012-01-06 14:00:58
斎藤清二 @SaitoSeiji

③本家のEBMがそのような誤解を払拭しようと苦闘し、自らの概念的定義をさらに洗練させるための努力を続けていた頃、EBMの概念はEBPと名前を変えて、様々な混乱を伴いつつ周辺の医療領域、医療関連領域へと広がっていった。

2012-01-06 17:31:44
斎藤清二 @SaitoSeiji

④EBPPの初期の歴史において明瞭に認められるように、その典型的なパターンは、EBPを「主観的なもの、非科学的なもの、実証されていないもの」を排除するための強力な武器として用いる姿勢であった。そのためには「科学的に実証されたものを選別するための基準」を確立することが必要とされた。

2012-01-06 17:33:55