「キョート・ヘル・オン・アース」破「ライジング・タイド」#5
第2部「キョート殺伐都市」より:「キョート:ヘル・オン・アース」 破「ライジング・タイド」 #5
2012-08-05 22:27:43かつてこの医療エリアはサージョンによって取り仕切られていたが、現在では彼の下で修行を積んでいた2名のアデプトニンジャと、数十人の奴隷オイラン看護婦によって運営されている。ニンジャスレイヤーとの戦いで片脚を失い重傷を負ったニーズヘグは、パープルタコによってここに担ぎ込まれた。 2
2012-08-05 22:38:14止血と義肢化のための基礎手術だけを受けたニーズヘグは、八畳トコノマで豪快な寝息を立てていた。部屋の名はアヤメ。このような閑静な造りの医療トコノマが、集中治療室の周囲に1ダースほど並んでいる。フスマの外には、眠る前に彼が食べたオーガニック・ウナギスシの容器が積み重なっていた。 3
2012-08-05 22:47:58くつろぎ感を重点するため、電子医療機器や点滴台など、見苦しい無機物は全て、見事な鶴の金箔装飾が施された押し入れの中に隠されている。押入れの隙間からフートンに伸びる何本もの赤いケーブルを不安そうに撫でながら、ニーズヘグの横に正座し、カケジク型ディスプレイを凝視するパープルタコ。 4
2012-08-05 23:01:06医療ニンジャたちは皆、琥珀ニンジャの間へ行ってしまった。城内の各所に配置されたモニタ群から漏れる儀式の中継音声だけが、医療エリアの廊下に静かに響き渡る。パラゴンの演説とチャントの狂熱が、医療機器の定期的ビープ音と消毒アルコール臭に漂白され、グロテスクな異様さを醸し出していた。 5
2012-08-05 23:10:53数分前に激しい揺れが起こり、キョート城が浮上した。彼女はそれを、このトコノマで知った。一時電源が不安定になったが、城内のジェネレータに完全に切り替わったようで、現在は安定している。カケジク型モニタには時折、儀式映像に混じって、地上の地獄絵図が激しいノイズ交じりで映し出された。 6
2012-08-05 23:15:35パープルタコの息は粗い。不安感が背中から圧し掛かってくるようだ。ヘル・オン・アースは遥か先の事と思っていた。自分が死んだ後の、もっと先の世界のこと。それが今まさに到来し、かつキョート城内は不気味な奥ゆかしさに包まれている。自分はひとり、熱狂の蚊帳の外。師父もシテンノもいない。 7
2012-08-05 23:21:24「ファハハ……」パープルタコは自嘲気味に笑う。彼女のバストは豊満であった。額から伝った汗粒が、ボンテージから露出した上胸に滴る。息はますます荒くなる。体温が上がってきた。彼女は視線をニーズヘグに落とした。豪壮な男。フートンを剥がす。包帯の巻かれた厚い胸板に、そっと指を這わす。 8
2012-08-05 23:28:19「何じゃ?」ニーズヘグは鎮痛剤の眠りから目覚め、覚束ない視界で豊満なバストを見上げた。「ハァーッ、ハァーッ……」パープルタコはもどかしそうにメンポを外し、紫色の覆い布から粘液の滴る触手を覗かせる。(((そうだ、ファックしよう)))彼女はニーズヘグの腰の上に這うように移動した。 9
2012-08-05 23:37:01「我々の死の行軍は終わらない!永遠にだ!付いてこれない者は切り捨てる!」ヴィジランスは戦略チャブから熱烈なブリーフィングを行っていた。クセモノダ報告にやってきたアデプトとアプレンティスも生体LAN端子を持っていたため、未経験ではあるが急遽プロジェクトチームに編入されていた。 12
2012-08-05 23:56:22「君たちは、永遠の存在になりたくないか!?」ヴィジランスがおかしな目つきで四方の奴隷ハッカーやクローンヤクザや並列直結ニンジャを見渡す。「なりたいです」何度かの失敗の後、全員が声を揃えて返す。ストーカーは騎乗鞭を持って歩き回り、声を出していない者の顔をヒステリックに殴った。 13
2012-08-06 00:03:08「ここにはニンジャならぬ卑しい常人もいる。だが君たちはいわば、ノアの方舟のために選び抜かれた上等なアニマルだ!下界で死んでゆく人間達とは違う!その誇りを!その誇りを持って戦って欲しい!その気持ちがあれば、我々は勝利できる!」彼は自我の破壊された奴隷達の横を歩きながら叫んだ。 14
2012-08-06 00:13:03「我々の戦闘目的は変わった!キョート市場は忘れろ!戦争は常に流動的だ!」ヴィジランスは持ち前の高い交渉能力を発揮し、両手をドラマチックに振りながら戦略チャブ上のホログラフィ画面を指差す。LAN直結を続けるストーカーが目を閉じて集中し、映像や文字情報や折れ線グラフを映し出す。 15
2012-08-06 00:19:11「城内のいずこかに敵のハッカーが潜伏!我々が築いた無敵のUNIX電子要塞に戦いを挑む愚か者だ!」凶悪そうなナンシーの電子イメージが映し出される。「これの排除が第1!第2に下界の情報操作だ!共和国防衛軍やメディア緊急放送等に電子攻撃を仕掛け、ロードの偉大なるジツを支援する!」 16
2012-08-06 00:29:13「現在、ガイオン周辺に強力な磁気嵐とノイズが発生し、UNIXネットワークとIRC通信を妨害している!これを味方につければ、我々は勝利するだろう!主戦力である私とストーカー=サンの足を絶対に引っ張らないことだ!タイピングだけに集中しろ!無慈悲なるタイピング・マシーンとなれ!」 17
2012-08-06 00:34:08「ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!」奴隷ハッカーやクローンヤクザや直結アデプトたちは、バンザイチャントを行う。ヴィジランスが腕を振って突撃サインを出すと、彼らは一斉にタイピング作業へと戻った。「ストーカー=サン、頼りにしているぞ」ヴィジランスは部下の肩を叩く。 18
2012-08-06 00:39:52「ヨロコンデー」ストーカーは整った前歯を微かに覗かせ、冷たい眼の奥に殺意の炎を燃やした「あの売女ハッカーのニューロンを焼き切って、必ず始末します。……しかし、IPが何故あの時守られたのか……・。電算機室が把握していないLAN端子があるとは」「それについては、私に考えがある」 19
2012-08-06 00:46:54「イヤーッ!」ヴィジランスは回転ジャンプで天井の穴へと消えた。パタンと蓋が閉じ、電算機室とのコミュニケーションが完全遮断される。プレジデントルームめいた上質な安らぎ空間がそこにあり、壁には様々なエコノミクス・ショドーが貼られていた。電算機室の上に隠された、彼の居室である。 20
2012-08-06 00:55:09彼は壁と一体化した漆塗りの小型冷蔵庫から、スシとコールド・マッチャを取る。心身の疲れをリラックスさせるサイバー・エルゴノミクスチェアに深く腰掛け、高級一枚板のデスクに向かい、卓上ボンボリの穏やかな光のもとでそれを咀嚼した。「フゥー……」マッチャを啜り、息をつき、眼を閉じる。 21
2012-08-06 01:00:45それから彼は小型モニタで下界のジゴクを鑑賞してから、ゆっくりと引き出しを開け、紙とスズリと筆を取り出して、いくつかハイクをしたためた。そしてまたチャを啜る。指揮官は常に、体力と精神力を温存せねばならない。彼はブリーフィングで昂ぶったニューロンを、意図的にザゼンしているのだ。 22
2012-08-06 01:11:02ヴィジランスは机のボタンを押し、小粋なジャズを静かに室内に鳴り響かせると、思い立ったようにバーカウンターに向かった。「やはりそういう事になるか……」そして上等なアンコ・ラムをグラスに注ぐ。その匂いを嗅ぎながら端末を操作し、パラゴンと自分とを結ぶIRCホットラインを開いた。 23
2012-08-06 01:16:44「ドーモ、ヴィジランスです……儀式の最中の再インタラプトをご容赦いただきたい……ハイ、ハイ……ええ、我々の攻撃精神は全く衰えておりません……感動しております、このヘル・オン・アースに。……ハイ、ハイ……例の件ですが、私の前任者が何らかのシステム抜け穴を作っていたとしか……」 24
2012-08-06 01:23:12