「臨床心理の知識と技術があることがクライエントに役に立つというエビデンス」への疑問

斉藤清二先生が「臨床心理士試験により測れるもの」http://togetter.com/li/400005 のツイートの内容から、「エビデンス」という言葉の誤用と、治療者の養成のあり方について語ります。
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斎藤清二 @SaitoSeiji

「臨床心理の知識と技術があることがクライエントに役に立つというエビデンス」をめぐって、今日やや過激なツイートをしてしまったが、少し頭を冷やして勉強する必要があると思い直し、とりあえず、まだ読んでいなかったhttp://t.co/6sq0gGneを注文した。読んだ上で考えようと思う

2012-11-04 21:42:57
モエゾウ(もえぞう) @moe_zou

@SaitoSeiji 完全その通りだなと思うのですが、いくつか質問と要望をさせてください。①「倫理的に問題」ということですが、そこをもう少し詳しく教えて頂けませんか?先生のスタディの例えですが、倫理的・実際的に無理なのはなぜでしょうか?

2012-11-05 00:12:38
モエゾウ(もえぞう) @moe_zou

@SaitoSeiji 「優れた臨床心理士」と「そうでない臨床心理士」を分けることが問題なのでしょうか?それとも、効果がないかもしれない人が介入することが問題なのでしょうか?もし、後者だとしたら、それではプラセボ比較も出来ないことになると思います。

2012-11-05 00:14:16
斎藤清二 @SaitoSeiji

@moe_zou 。①「倫理的に問題」についてですが、RCTを行う前提条件として、「実験群と対照群への介入法が、すでに効果に差があることが分かっている場合は、ランダム化することは対照群の被験者に害を与えることになるので、研究そのものが非倫理的である」という原則があります(続)

2012-11-05 06:18:33
斎藤清二 @SaitoSeiji

@moe_zou ですから私が示した思考実験の場合、「知識・技術のある治療者の方がクライエントにより役に立つ」ということがすでに分かっている(と研究者が考えている)ならばRCTを行うこと自体が非倫理的ということになります。これは一種の矛盾になってしまいます。

2012-11-05 06:22:05
斎藤清二 @SaitoSeiji

@moe_zou 前者は、倫理的に問題ありません。むしろ実際的に難しい(不可能ではない)と考えます。後者は、プラセボ比較が許されるのは、実証すべき介入法が、プラセボより有効であることがまだ実証されていない場合、非倫理的ではありません。多くの臨床試験はそのような原則で行われます。

2012-11-05 06:26:11
斎藤清二 @SaitoSeiji

@moe_zou 追加です。前者(治療者を知識・技術によって2群にわける)が、実際上難しいと思うのは、この判別のためには、臨床心理士に必要とされる知識・技術の明確な操作的定義と、信頼性・妥当性のある判別法が必要になるからです。それらのこと自体がまだ議論の途中だと思います。

2012-11-05 06:30:00
斎藤清二 @SaitoSeiji

@moe_zou 心理療法の効果に対する実証的研究の場合、むしろ議論すべきは、対照群が本当の意味で対照群になっているか?ということです。多くの研究では「待機リストに登録された人」が対照群に設定されますが、これはある意味では「逆プラセボ」にさらされている集団であると思います。

2012-11-05 06:35:35
斎藤清二 @SaitoSeiji

@moe_zou 繰り返しになりますが、 プラセボには多くの場合明らかに「効果」があります。病態によっては、プラセボ群の効果は50%以上に認められることもあります。「介入効果」がプラセボよりも優れていることがすでに実証されているのでない限り、プラセボ比較は非倫理的ではありません。

2012-11-05 06:47:33
モエゾウ(もえぞう) @moe_zou

@SaitoSeiji 回答ありがとうございます!とてもクリアに説明していただき,私にもtweetを読んでいる他の方にも,よくわかったと思います。RCTを行おうと思った場合,発端となった議論の例だと,「臨床心理士資格試験合格者」と「不合格者」という二群間で比較するデザイン(続く

2012-11-05 09:25:45
モエゾウ(もえぞう) @moe_zou

@SaitoSeiji (妥当性・信頼性を確認した上で)で研究を行い,効果に違いが確認出来た時(効果量も含めて),「一つの研究がそれを支持した」と言えると言うことですね。そういった研究がいくつも積み上がっていくとさらに信頼できる証拠があることになる。

2012-11-05 09:30:52
モエゾウ(もえぞう) @moe_zou

@SaitoSeiji そこで追加の質問なのですが,例えば外科や内科などの分野ででも,「介入者の知識・技術によって効果は変わる。」事を実証しようとする研究はなされていることがあるのでしょうか?医師の場合だと,専門医などが一つの例として考えられると思いますが。

2012-11-05 09:33:09
モエゾウ(もえぞう) @moe_zou

@SaitoSeiji そういった研究がなされていないのだとしたら,それには理由があるのだと思うのです。「研究デザイン的に不可能」であったり,「政治的理由」かもしれませんが。そういった試みがこれまであった,今もあるのならば教えて下さい。

2012-11-05 09:35:13
モエゾウ(もえぞう) @moe_zou

昨日話していた(リアルで)ことともかぶるのだが,「エビデンス」が信仰の対象になるのはとても危険だと思うんだ。エビデンスは塗り替えられちゃうし,もともとそういう性質のもの。年月を経て(追試などをされて)洗練されていくもの。

2012-11-05 10:04:31
モエゾウ(もえぞう) @moe_zou

新しい薬は「効果も高いし,副作用も少ないですよ」って売り出されることがほとんどだけど,実は売り出された当初はそれを支持する知見の数は少ない。だって,試験的にしか使われていないんだもん。だから市販後調査はとても重要な研究。追試ってとても大切な研究。心理療法も同じ。

2012-11-05 10:09:31
斎藤清二 @SaitoSeiji

@moe_zou 専門医による医療と一般医による医療をRCTによって比較した最近の研究報告の例としては以下があります。記憶専門外来と一般医(GP)による認知症のフォローアップ効果の比較において両者に差は求められなかったというものです。http://t.co/lGOL3mQz

2012-11-05 16:57:38
斎藤清二 @SaitoSeiji

@moe_zou さすがにRCTの数は少ないと思いますが、観察研究も含めて、専門医が一般医よりも効果的な医療を市民に提供しているという仮説に対しては否定的な結果を報告している論文が多いです。ただし、欧米(特に米国)における一般医(総合医)は、一般医療という専門性をもった医師です。

2012-11-05 17:10:12
モエゾウ(もえぞう) @moe_zou

@SaitoSeiji ありがとうございます。専門医にとってはあまり嬉しくない結果ですね(笑)欧米のGPは日本の一般医とはまた違った位置づけだと聞きますので,そのまま日本に当てはめることはできないでしょうが,こう言う研究がなされているのは面白いですね。

2012-11-06 19:31:25
モエゾウ(もえぞう) @moe_zou

@SaitoSeiji 一方で,それは「知識や技術でアウトカムが変わる」ことを証明するのが難しいということの例かもしれませんね。私もスーパービジョンの研究をしていて,SVの効果研究というのがほとんどないのに驚きましたが,それは効果研究をすること自体が難しいのだと気づきました。

2012-11-06 19:35:10
斎藤清二 @SaitoSeiji

@moe_zou 専門医による医療と非専門医(一般医)による医療のどちらが効果的か?という研究を、私の同僚からいくつかさらに聞き出すことができたので、時間がある時にまた紹介したいと思います。例の岩崎学術出版社の本でも「セラピストの専門性は効果に影響するか?」のまとめがありますね。

2012-11-07 09:34:12
斎藤清二 @SaitoSeiji

@moe_zou ご指摘のとおり、効果研究のデザインにおいて、特に心理療法領域では、効果指標(エンドポイント)をどのように設定するかがまず難しいと思います。さらにそれをどう測定するか。むしろSVのありかたの改善については、質的研究のほうが情報量が多いでしょうね。

2012-11-07 09:37:12
斎藤清二 @SaitoSeiji

岩崎学術出版社の『エビデンスにもとづく カウンセリング効果の研究』を密林から手にいれた。とりあえず、まだ第一章を読んで、あとは拾い読みの段階だが、包括的、多元的な視点から書かれた、非常にすばらしい内容だと思う。http://t.co/6sq0gGne

2012-11-07 09:46:58
斎藤清二 @SaitoSeiji

2006年のAPAによるEBPPの新定義も十分に考慮されており、この領域の基本的な考え方は、これ一冊を読み込めばほとんど網羅できると思われるし、基本的な考え方は私の考え方と非常に近いものだと思う(まだ全部読んでいないのに早急すぎるが)ただ。問題は誤訳がかなりありそう(モゴモゴ・)

2012-11-07 09:55:29
斎藤清二 @SaitoSeiji

『エビデンスにもとづく カウンセリング効果の研究』(以下『エビ研』から、取り合えず引用。第5章『セラピストの要因』重要な研究知見のまとめ(p126):「トレーニング、スーパーヴィジョン、経験による専門的な成長はセラピーの結果に関係するが、その効果の量はそれほど大きなものではない」

2012-11-07 12:58:00
斎藤清二 @SaitoSeiji

『エビ研』からの引用(続)「そして準専門家の援助者は、専門家と同等の結果をもたらしているようである」(p126)。準専門家とは「収入を得る者であれボランティアであれ、精神的苦悩の心理的な治療において公的資格をもたないメンタルヘルス実践者」(p120)

2012-11-07 13:01:53