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〔AR〕その23

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その22(http://togetter.com/li/395383) 続きを読む
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BIONET @BIONET_

是非曲直庁からの仕事も、資産の管理も、今までは全てさとりが一人でやってきたことだ。いづれ、誰かがそれを引き継がなければならない。 「……さ、もうお昼だし、食堂に行って何か食べよう」

2012-11-07 22:14:49
BIONET @BIONET_

考え込んでしまう前に、こいしは抱擁を解いて、さとりの手を取った。朝から部屋の片づけをしていたので、こいしは空腹だった。さとりも、ここ一週間以上満足に食事をとっていない。 「うん……そうだね……あ」 こいしに手を引かれて歩きだしたさとりは、何かに気づいて、角の先を指さした。

2012-11-07 22:15:16
BIONET @BIONET_

「チャッキー、チャッキーだわ。もう、どこに行っていたのかしら」 「チャッキー……」 こいしはその名前をつぶやきながら、さとりの指さす方を見た。通路を壁よりに駆ける、シマリスが居た。 居た。というのは間違ってはいない。だが、正確にはそれは。

2012-11-07 22:15:56
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(……また、増えてる) こいしは背筋が冷えるのを感じた。 シマリスのチャッキーは、五年ほど前に寿命で死んでいる。 にもかかわらず、今、姉妹の目には、壁際を這いつくばるシマリスの姿が見える。 さとりはこいしの手を引っ張って、チャッキーに近づく。すると今度は。

2012-11-07 22:16:31
BIONET @BIONET_

「あら、ヘイヘとライデンね。今日も仲良しさん」 角を曲がった通路の先から、四つ足でのしのしと歩くグリズリーのライデン、その背中でふらふら揺れるケワタガモのヘイヘが現れた。 その二匹のペットも、それぞれ数年前に、地霊殿の住人と死に別れたはずだった。

2012-11-07 22:17:15
BIONET @BIONET_

「ライデン、足下にチャッキーがいるから気をつけてね。こいしも、注意して」 「う、うん、そうだね」(どうなってるんだろう、本当に) はじめは、さとりが精神的ショックのあまり幻覚を見ているのかと思った。仮にそうだったとしたら、それはそれで深刻な事態であったが、実際はまた別の話だった。

2012-11-07 22:17:59
BIONET @BIONET_

さとりが過去に死んだペットの幻影を見るとき、こいしもまた、おそらくさとりと同じものを見ている。 こいしは、祭りの数日前に自室で見た、アルフレッドの幻を思い出さずにはいられなかった。あれは一度きりであったが、強烈に印象に残っている。

2012-11-07 22:18:41
BIONET @BIONET_

さらに奇怪なことに、彼らの幻影は、あの青白いアルフレッドの幻影と比べると、格段にリアリティが増していた。姿形はおろか、色合いや質感までが生前そのままの生き写しであり、目をこらして僅かな不自然さを見抜くか、触れようとして実体がないことを確認しなければ、幻影だと判断できないほどだ。

2012-11-07 22:19:01
BIONET @BIONET_

これらは、アルフレッドの時と同じ現象なのか? だとすれば、よりリアルに現れているこの状況は、一体何を意味するのか。 考えるこいしをよそに、さとりが手を伸ばすと、チャッキーは優れた跳躍力で手のひらにのり、腕伝いにさとりの肩にまで移動した。

2012-11-07 22:19:26
BIONET @BIONET_

一方歩み寄ってきたライデンとヘイヘは、さとりとこいしの目の前で立ち止まり、二人のために道を空けるかのように壁際へと退いた。 「みんないい子ね。それじゃあ、一緒に行きましょう」 「……そうだね」 こいしは、改めてさとりの手を引いて歩みを進めた。

2012-11-07 22:19:58
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しかしこいしは疑問に思う。今、自分は本当に姉を先導しているのか? 実は、姉の方に引き寄せられているのでないか? 今のような幻覚を共有しているとき、こいしにはそのような錯覚が拭えない。

2012-11-07 22:20:28
BIONET @BIONET_

一度だけ、こいしはこのような死んだペット達の姿を幻であるとさとりに指摘したことはある。だが、さとりは力ない一笑でそれを伏した。 ――みんな、いるじゃない。

2012-11-07 22:20:59
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その一言で、こいしは言及をやめた。あまりしつこく訂正しようとすれば姉がまた泣き出すかもしれないし、なにより、こいし自身も幻影を認識してしまっているのだ。躍起に否定して、得るものはなにもなかった。 だが。 (何なんだろう。この胸騒ぎは)

2012-11-07 22:21:36
BIONET @BIONET_

この一週間、度々こいしの心に去来するもの。姉が傷ついていることとは別に、こいしには言いしれぬ不安感があった。 幻のペット達は、何も語らない。元よりこいしは心が読めない。

2012-11-07 22:21:56
BIONET @BIONET_

心が読めるはずの姉は、このペット達に、何を感じているのだろう。 こいしは、解決する糸口のない疑念と、ひたすら格闘するのだった。

2012-11-07 22:22:31
BIONET @BIONET_

「いらっしゃーい――あ、阿求!」 鈴奈庵の扉が開かれた瞬間、店番をしていた小鈴は来客に驚いた。 「こんにちは。久しぶりね」 「もー、どうしたのよ、祭りの日からずっと見かけなかったから、何か重い病気になったのかと」 「ごめんごめん。珍しく体調を崩しちゃってね」

2012-11-07 22:24:05
BIONET @BIONET_

阿求は気恥ずかしげに小鈴へ微笑んだ。まだどことなくぎこちないため、小鈴は心配そうに聞く。 「ほんとに大丈夫? 掃除しているとはいえ、家はごらんの通りこういう店だから、あんまり空気がいいとは言えないし」

2012-11-07 22:25:38
BIONET @BIONET_

小鈴は両手を広げて鈴奈庵の店内を示す。彼女の言うとおり、清掃は行き届いているが、店内は薄暗く、古い本独特の臭いが立ちこめている。人によっては雰囲気に酔ってしまうかもしれない。 「うちの書庫だってにたようなものよ。むしろ、本に囲まれてる方が落ち着くわ」

2012-11-07 22:25:59
BIONET @BIONET_

「まー、ならいいんだけどさ。あ、あとで麟のところにも顔出しなよ? 確か、何度か見舞いの花を寄越してるとか言ってたし」 「うん、そのつもりよ」 阿求は、ソファーに座って息を吐いた。やはり、思ったよりも引きこもりのツケがきているようで、家からここまで歩いてくるだけでも疲労を感じる。

2012-11-07 22:26:57
BIONET @BIONET_

「さて、うちに来たということは、本が目当てなんだろうけど――残念ながら、今のところ新刊は入ってないのよねぇ。バイオネットも休止しちゃって、印刷の仕事も減ったしね」 小鈴は阿求から薦められてバイオネットを利用するようになり主にバイオネット上で公開されている文学作品を収集していた。

2012-11-07 22:28:19
BIONET @BIONET_

また、小鈴は家族に頼み込んで、バイオネット関係の印刷と印刷物の販売を鈴奈庵で行うようにした。バイオネットがサービスを行っていた約四ヶ月間、鈴奈庵は本業の貸本よりも印刷業の方がはかどっていたほどだった。

2012-11-07 22:29:02
BIONET @BIONET_

「忙しかった反動か、バイオネットが休みに入ってからというもの、退屈でねぇ。それで新しい本もないとなると、もう暇で暇で」 「もう冬が間近だし、紅魔館で本でも借りてきたら?」 「うーん、それもありな気がするけど、流石に霊夢さんでも捕まえないことにはちょっと怖いなぁ」

2012-11-07 22:29:52
BIONET @BIONET_

ぐたり、と小鈴は番台に突っ伏した。小鈴は忙しくない時の店番が主で、その間の暇つぶしに本を読んでいるのが日常である。何も手についていないところを見ると、本当に読む本がないのだろう。 「じゃあ、少しの間私がおしゃべりにつきあってあげるわ。麟はまだ寺子屋に行ってる時間だしね」

2012-11-07 22:30:29
BIONET @BIONET_

「病み上がりの割には気が利くじゃない――あ、そうだそうだ」 小鈴は布がずり落ちるように体を番台の下に沈めた。数秒、ごそごそとした音がしたかと思うと、本の束を抱えて立ち上がった。 「ほんとは、そのうち見舞いがてら持っていくつもりだったんだけど――」

2012-11-07 22:32:49