◆自分のためのスケッチ:in Twitter 「リブート(その十一)」◆
◆『宇都宮駅北通りの雑居ビル前にて、事件発生。犯人は拳銃を所持、発砲し付近住民に被害が出ているもよう。また、犯人は重篤な《イン-セイン》である可能性が高い。各NBCは電子防御装備のまま別命あるまで待機!』◆
2012-11-13 22:53:38◆雑居ビルと商店が混在する白鷺(はくろ)通り。アーケードに日差しを仕切られた現場を、幾重にもパトカーがさえぎっている。包囲陣の外周に車を止めると、クイはすばやく車両から降りた。◆
2012-11-13 23:02:29◆「話聞いてなかったのか!? 対抗電子装備を着けろ!」がぼっという音、荒々しく被せられるヘルメットで視界がふさがれる。「いきなり何すんだ!」「《イン-セイン》が出てるんだ、ネットのアクセスも禁止だからね!」◆
2012-11-13 23:06:09◆「……了解」自分の頭よりも大きく、不恰好なそれを叩き付けたい衝動を押し殺したクイは、緊張する集団の向こうの景色に目を凝らす。「ア、アイイイイイイッ!」途端に大気をどよもし、神経を掻く絶叫がほとばしる。◆
2012-11-13 23:09:59◆「イイイアアアアアアアアッ」「ヒグッ、イギッ、イイヒイイイイッツ」「アヒャアアアアアアアアッ、モヒャ、ヒャアアアアッ」声、というにはおぞましい鳴動。アーケードの下、全ての注目を浴びるのは三人の男だ。◆
2012-11-13 23:14:47◆「ヒギッ、イグギグウウウウウウ」骨が折れるほどに首を振り回し、口から泡を吹く。「ヘギャ、アグウウウウッ」それぞれの手には銃や包丁、鉄の棒のようなものを持ち、焦点の定まらない視線をさ迷わせる。◆
2012-11-13 23:20:19◆着ている衣服には血が点々と付き、ところどころが破れていた。はだし、あるいはでたらめに履物を突っ掛けているが、それがいかなるものであったかの意味すら、本人たちの思考から抜けているのは明らかだ。◆
2012-11-13 23:23:37◆その周囲には血まみれで倒れ付す人々。肉塊と化したそれらからむっとする血の匂いが立ち上り、その中で酔った様に体を揺らす様は、魔の住む地より降り立った、名指しがたき化物の様相を呈していた。◆
2012-11-13 23:26:26◆「くそったれのシリコンヘッドどもがっ!」社内から持ち出したショットガンを片手に、遠山が睨む。その目には彼らと比較しても遜色ない濁りが満ちている。「あ……あれが、《イン-セイン》ですか」逆に相棒は青ざめた顔で呟く。◆
2012-11-13 23:29:45◆「《イン-セイン》……か」完全に『人間ではないモノ』と化した人間を見ながら、クイは自分の知識と移動中に入手した警察情報を高速で付き合わせ始める。明らかになる異常の正体、それは『電脳化』だ。◆
2012-11-13 23:36:43◆二世紀も前、SFエンターティンメントでもてはやされた概念。人間の脳を機械と直結させる『電脳化』は、サイボーグと並び、長らく人類の中でもてあそばれ、もてはやされた『超人化技術』の代表格だ。◆
2012-11-13 23:39:53◆外部からの電気信号や電波、音波などを脳で受信、あるいは機械化を施した脳核で操作する電脳化は、マイクロマシニングや人間の神経網、脳神経マップの解析により、二十一世紀末には、あと少しで実現するところまで行っていた。◆
2012-11-13 23:47:57◆だが、その道はNBCという存在が現れたことで、半永久的に実現化しなくなった。なぜなら、神経細胞の閃きで電脳支配を可能とする彼らに対し、機械の仲立ちを必要とした人間は抵抗することもできなかったからだ。◆
2012-11-13 23:53:24◆僅かコンマ数秒の差で、人間はNBCに差をつけられる。そして、電脳化をした人間は、人造の生命によって干渉され、操られるだけの木偶人形と化するしかない。人間の生み出した技術により駆逐された電脳化は、サイボークと並び、忌まれる存在となっていた。◆
2012-11-13 23:57:46◆「おいネズミ! 本庁からの最終指示は?」「連中を中継して、いくつかの官庁に自壊ウィルステロが仕掛けられてる。処理が終了次第通信回復させるから、それまで待機だ」クイの報告に刑事の苛立ちが歯軋りに変換される。◆
2012-11-14 00:01:44◆「外務省に回ってる連中の非常呼集はしたんだろうな!」「やったけど当てにはならない! これだって、今回の外相会談を狙ったテロで間違いな――」ドンッ、大口径の銃器が手近なパトカーを貫き、防弾された車体を派手にへこませた。◆
2012-11-14 00:04:33◆「ギヒッ、アヒヒヒイイ!」「音紋照合。45口径、低速炸薬弾か。連中、人を殺したくてしょうがないって感じだぜ?」銃の音におびえた井垣が、気弱に問いかける。「ここからあいつらにハッキング仕掛けられるかい?」◆
2012-11-14 00:07:22◆「やめろ井垣。ロブがどうなったのか聞いているだろ」「でも……」《イン-セイン》は生きたアンテナとして、違法なハッキングポイントとして使われるのと同時に、周囲のNBCを汚染する汚染源でもあった。異常な精神を垂れ流す彼らに接するのは、NBCに多大なダメージをもたらすことになる。◆
2012-11-14 00:13:38◆場合によっては衝撃で死に至る場合もあった。「行けと言うなら行きますよ、井垣警部」「いや……その」「やめろ、無駄死にさせる気は」ドンッ! 重い音が言い合いを打ち切らせる。こちらに注目しないことに我慢ならないといった風で。◆
2012-11-14 00:16:02◆「ウギィイイ」白煙を上げる拳銃が遮蔽物立て続けに叩き込まれる。「け……さ……つ」狂気に犯された、おぼつかない言葉。「けい、さつ」それが明確な殺意に変わる。「シ、ネ!」死体の間に置かれたバッグに狂人の手が伸びた。◆
2012-11-14 00:19:08◆「伏せろ!」誰かの叫びを鋼の咆哮が吹き飛ばす! ドドドッ! ドドドッ! ドドドッ! 抱えられた自動小銃が、銃火を散らした。薄暗いアーケード内に閃光が咲き、立て続けにショーウィンドウが、車のガラスが吹き飛ぶ。◆
2012-11-14 00:22:16◆ドドドッ、ドドドッ、ドドドッ、銃火は重なり、でたらめに吼える。ドドドッドドドッドドッドドドドッドドドッドドドドドドドッドドドドドドッ「「「アーヒャヒャヒャヒャヒャヒャハヒャヒャアアアアッ!」」」◆
2012-11-14 00:25:27◆三人が放つ圧倒的銃火、ばら撒かれた弾丸がでたらめに跳ね回る! 「全員頭を低くグァッ!?」「うわぁあああっ!」「ひいいいっ!」三人一組となり回る狂人の射手。魔弾が荒れ狂い、木霊する悲鳴と怒号。その威力はアスファルトを削り、天井のアーケードを砕き、車両を穴あきチーズに変える。◆
2012-11-14 00:27:43