◆自分のためのスケッチ:in Twitter 「リブート(その十ニ)」◆

真上犬太氏(@plumpdog)によるtwitter連載小説 第13回目 第1回目はこちら http://togetter.com/li/372910
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真上犬太 @plumpdog

◆自分のためのスケッチ:in Twitter 「リブート(その十二)」◆

2012-12-10 14:03:53
真上犬太 @plumpdog

◆閉じていた瞳を開けると、クイは首を振った。目の前に立ちふさがるのは、何の変哲もないアパートの扉。だが、その単純さこそが曲者だった。外部からの透過を一切受け付けず、ネットワークへの接続すら拒んだ防壁。「鍵なしで開けるなら、叩き壊したほうが早いぜ」「まぁ、ここまでは予想通りか」◆

2012-12-10 14:07:55
真上犬太 @plumpdog

◆遠山は鼻白み、クイに蒼いシートを突きつける。「ネコとリンクを取れ。あとはあいつの指示を受けろ」「なんでヒートが出て来るんだよ?」「やればわかる、さっさとしろ」意味不明な指示にこみ上げる文句を抑え、次の現場に向かう同僚に意識を飛ばす。『そっちの調子はどうだ?』◆

2012-12-10 14:10:03
真上犬太 @plumpdog

◆『うん。こっちも大変なんだねー。さっきほどじゃないけど、暴れてるニンゲンさんが居るから、しっかり働かないと』『で、オヤジから意味不明の指令』発言と一緒に、遠山との会話がイメージになって送られる。思考速度のままに意思伝達できるNBCは、半ばテレパスのような交感を可能にしていた。◆

2012-12-10 14:11:32
真上犬太 @plumpdog

◆『ああ。ボクの腕前が必要なんだね。じゃあ、クイと20秒だけリンクするから、許可貰って欲しいんだね』「警部、20秒リンク許可申請」「好きにしろ」ぞんざいな許可をシートと共に突きつけられ、クイはネコの意思に自分の身体を預ける。その途端、自分の指先に、ヒートの感覚が宿った。◆

2012-12-10 14:12:47
真上犬太 @plumpdog

◆移動する車にちょこんと座り、制御を一手に引き受けるネコの視界がクイの感覚を支配する。『それじゃこっちはお願いするんだね』『はいよ』。宇都宮市内のマップが脳に広がり、指定された誘導位置の情報が染み込んでくる。その制動を一手に引き受けながら、外部からの干渉をヒートのみに絞った。◆

2012-12-10 14:15:01
真上犬太 @plumpdog

◆自分の指が支給された機材に伸び、十センチほどの長さの金属棒や針金のような物を取り出す。『なるほど。このぐらいの物理錠なら……』どこか遠いところでネコの指が虚空で踊り、動きにあわせてクイの指が扉をこじ開けていく。『お前、ピッキングなんて出来るのか』『錠前士って知ってるかな?』◆

2012-12-10 14:17:58
真上犬太 @plumpdog

◆少し誇らしげな言葉と共に、ヒートの経歴が開陳される。警察に来る前、彼が暮らしていた場所。この時代において、最も価値のある腕を持つ職人達の集団。電子機器を一切使わず、物理的な仕掛けのみで複雑かつ堅牢な錠を作り上げるものたち。『ボクはそこで色々仕込まれたんだね』◆

2012-12-10 14:20:11
真上犬太 @plumpdog

◆『手先が器用、ってのはこういうことか』『そういうことなんだね。っと開いたよ』そう言っている間に錠前はあっさりと抵抗をやめていた。「終わったらリンクを切れよ」「はいはい『んじゃまた後でな』切りましたよ」肉体が二重になったような感覚が消え、クイはノブに手を掛ける。◆

2012-12-10 14:26:40
真上犬太 @plumpdog

◆左手を挙げて三本指を突き出す。指が端から順に倒れ――「宇都宮市警だ! 動くな!」開け放たれるドア、射撃姿勢、威嚇、そして状況確認。僅かに安堵した遠山が、視線を外さずに指示を飛ばす。「玄関前クリア、そっちは」「磁殺用トラップ解除、室内LANの制御は確保したぜ」◆

2012-12-10 14:26:49
真上犬太 @plumpdog

◆クイの目に映るのはきわめて簡素で単純な銀のライン。外部との接続ポートは一箇所のみで、そこも電磁遮断素材の中に収納できる仕組みになっている。きわめて機密性の高い、特殊な研究施設を思わせた。「とんだ違法建築だな。不動産屋から貰った見取り図の二倍は壁を厚くしてるぜ」◆

2012-12-10 14:31:58
真上犬太 @plumpdog

◆「よし、全員中に入れ」指示を受けて、なだれ込む捜査員に混じり、クイも部屋を巡る。「警部殿ー、これ俺が見てもいいか?」冷蔵庫とクローゼット、いくつかの調度品以外は何も無い部屋、その奥まった場所に、一メートル強の黒い箱が置いてあった。◆

2012-12-10 14:34:33
真上犬太 @plumpdog

◆今もファンを回転させて中へ新鮮な外気を送り込んでいる、タワー型のサーバ。だが、キーボードやタブレットどころか、モニターすらない。インターフェイスレスモデルと呼ばれるタイプの代物を前に、中年刑事は嫌そうに顔をしかめる。◆

2012-12-10 14:39:09
真上犬太 @plumpdog

◆「しかたねぇ、本署に繋ぎっぱなしでやれ。隠し事なんぞしたら、脳を引っこ抜くからな」相変わらずの嫌味節に口元が歪む。こいつの脳みそは自分たちのへの嫌悪で煮しめられいるに違いない。「心配ならゲッシュでも掛ければいいだろ。さっさと『カドケウス』の使用許可よこせよ」◆

2012-12-10 14:44:46
真上犬太 @plumpdog

◆「……『能力限定解除:電子機器侵入許可』」碧の板を一瞥し、クイは両手に厚みのある指貫手袋をつける。その感触を確かめる、と体の筋肉、後背筋と上腕筋の一部に軽く力を入れた。途端に指先に走るちりちりとした刺激。NBCに備わったもう一つの能力、生体電流の発生が起動する。◆

2012-12-10 14:48:37
真上犬太 @plumpdog

◆グローブに電流が加わり、電磁界が発生する。目には見えないが、確かにそこにある感覚を頼りに、サーバに『触れた』。ファンの回転が僅かに上がり、電子機器の漏らす電磁界が揺らいだ。「外部からの制圧は難しいな。集積回路に、一定以上の干渉を行うと磁殺する仕掛がしてある」◆

2012-12-10 14:54:23
真上犬太 @plumpdog

◆「持ち帰るしかないか」「設置された場所が変わると不具合が出るかもな?」「なら、ここで出来ることはしておけ」頷き、小麦色の小さな姿はサーバの正面に座り込む。表面には外部記憶装置挿入用のスリットと、いくつかの小窓、そしてスピーカーがはまり込んでいるだけの面を、仔細に観察する。◆

2012-12-10 15:00:08
真上犬太 @plumpdog

◆「網膜投影認識に音声入出力によるデータ送信か。そういや、犯人の検死データがまだ」『そう言うと思って用意しておいたぞ、兄弟』コアラの顔と一緒に犯人のデータが割り込んだ。『虹彩紋はコンタクトでごまかせそうだな。可視光範囲のバフは?』◆

2012-12-10 15:00:46
真上犬太 @plumpdog

◆『無いな。脳以外は普通のスペックだ』『それなら、なんとかなりそうだ』。両目にコンタクトを嵌めると、窓の一つに視線を合わせる。ケモノのようだった細い虹彩が、瞬く間に人間の、正確には犯人のそれと同じに変わる。◆

2012-12-10 15:04:33
真上犬太 @plumpdog

◆そして、クイの口吻がぽかりと開いた。「――――――っ」濁り、耳障りな発声。口唇と声帯で合成した、異質な音。電子音のようなそれが黒い塊に吸い込まれていく。途端に、見つめる箱表面に光がちらつき、鼓膜の中に響き渡るハム音。それらは瞬時に統合され、形を取る。『パスコード入力』◆

2012-12-10 15:09:49
真上犬太 @plumpdog

◆「そんなの分かるかよ……っと」箱表面を和毛の生えた手がすべるように動く。内部を奔る電流と、そこから発生する磁界、その微細な脈動が箱の中に構築された電子の地図を構成する。集積回路とそれを支えるROM構造物、冷却用のファンや電源ボックスの結線が浮かび上がった。◆

2012-12-10 15:10:22
真上犬太 @plumpdog

◆「表がダメなら裏口からってね。井垣警部」「へあっ!?」入り口辺りでうろうろしていた青年が、唐突な呼びかけに目を白黒させる。「ブレーカを一度落として、またすぐに上げてくれ」「……何か意味あるの、それ?」「さっさとやれ、井垣。時間が惜しい」◆

2012-12-10 15:12:07
真上犬太 @plumpdog

◆「それじゃ、やるよ?」声が掛けられた途端、サーバの電源が落ちる。数秒間をおいて供給が戻り、爆発のように磁界が皮膚感をなぶった。「そこだっ」掠める力線の流れ、その内側にこめられた意味を読み取り、クイの意識が機械構造の奥へと吸い込まれた。◆

2012-12-10 15:19:47

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