◆自分のためのスケッチ：in　Twitter　「リブート（その十一）」◆

真上犬太 @plumpdog

◆『名前は本山健二、宇都宮在住で、株やFXを手広くやっていた小規模経営の金融業……という触れ込みだが、実情は違ったわけだ』スポーツドリンクをチューブですすりつつ、クイはヒュープの情報を端末に流しっぱなしにする。『登記上ではNBCを一体所有しているが、売買記録は一切無い』◆

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◆「太平天国の線は？」遠山の声を送波すると、ヒュープの意思が苦笑交じりに返ってくる。『勘違いしてもらっちゃ困るが、あそこは日本であって日本じゃない。俺たちだって立派な輸出品だぜ』「分かってる。ただ、裏を取りたかっただけだ」『他の二人は？』『本山ファンドの社員、だ』◆

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◆「つまりこいつらは、違法な脳改造を施して、NBC抜きで株式市場に介入してたってことか」『そうだろうな。現にこいつらはそこそこの成果を上げていた……人間一人の脳じゃ敵わないから、三人分の脳力を使ってたんだろう。ご苦労なことだぜ』◆

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◆実際、こうした《脳改造手術》の使い方は珍しくない。NBCを入手するのは認可制で、違法な手段で入手・使用したものは国家反逆罪を初めとするさまざまな罪状で、確定有罪の上終身刑となる。しかし、脳改造によって擬似的なNBC能力を持てば、NBCを介さずデータ干渉が可能となる。◆

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◆それを複数人の脳改造者でフォローし合い、NBCと同格の能力に持っていく。NBCをもてない小規模の犯罪組織や、違法なテクノロジーにあこがれる人間が、こうしたコミュニティを築き、外部からの干渉に抗しきれなくなって《イン-セイン》化する。22世紀に生まれた新たな犯罪の型だ。◆

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◆「妙だな」支給された装備パックの中から、嫌そうにピルケースを取り出したクイは、データを瞥見しつつ呟いた。「なにがだ」「《イン-セイン》手術はさまざまなリスクを背負い込む。外部からの干渉には特に神経質で、無菌室みたいな部屋に閉じこもっているのが普通のはずだぜ」◆

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◆「ここ一週間は中国との外相会談で、どこもかしこもテロ屋が横行中だ。『ニューフロンティア』に『維新志士の会』、それ以外にも数え切れないほどのクズがうろついてる」『そいつらが一斉に電波ジャック、そのアオリを受けてこいつらのささやかな防壁が破れたって所だな』『じゃあ、この武器は？』◆

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◆交わされる言葉と、受け取った情報を端末に流しながら、ピルケースからミネラル錠を取り出し、飲み込んだ。『軽機関銃は、護身用の武器にしちゃごつ過ぎるぜ』クイの中で推論が走る。《イン-セイン》、外相会談の妨害工作、所持していた銃器、同時に過去の犯罪事例を参照する。◆

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◆『ヒュープ、現在の犯罪発生件数をネットテロ、イン-セイン、銃器で絞ってくれ』『もうやってある。というか、さっきから俺の神経にびんびん、キモチ悪い波が襲い掛かってるんでな、自然とソートしてたよ』気持ちの悪さ、そんなフィーリングを軸に、完璧にまとめられたデータが送信される。◆

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◆人間の『勘』を装備した生体コンピュータのなせる技。多角的なワードで綴られた情報のセルが目の前に浮かび上がる。『全部で37件……武装して暴走したのはここを含めて6件か』「同一犯だな、この6件は」「武装した《イン-セイン》を使って、直接暗殺を試みたってことですか？」◆

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◆井垣の問いかけに、遠山が腕組みをして唸る。クイは密封された人口蛋白キューブを取り出し、口に運んだ。『おそらくそうだろうな。で、そいつらは計画実行前に潜伏先で暴走した』『と考えるのが筋だが、おい兄弟。お前さんはいまや刑事だぜ？　なら、結論を出す前にやることがあるだろ』◆

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◆「現場検証、それとこいつらのアジトの捜索か」栄養補給を終えると、クイは手早く片づけを終え、立ち上がる。「遠山警部、今後の方針は？」言うべき言葉を先に言われ、嫌そうに顔をしかめた遠山は、端末から視線を上げた。「現場検証、それからアジトの捜索だ。だが、その前に」◆

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◆「俺たちのメシがまだだ。それを先に仕入れてから仕事に掛かるぞ」「了解」◆

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◆「リブート：その十二」へ続く◆