ヘイル・トゥ・ザ・シェード・オブ・ブッダスピード #5

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「来訪者ドスエ」UNIX画面が瞬き、監視モニタ映像を映し出した。彼は息を呑んだ。ケンザ=サン?違う。長髪の……女?いや、男だ。一人だ。カメラ方向に手を振っている。知らぬ相手だ!「……!」彼は……イノエは慌てて立ち上がり、ブルゾンを引っ掛けた。「マズイ……ヤバイ……」 25

2012-11-13 17:17:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

何故ここが?誰だ?どこの者だ?彼の心を「何故」が満たす!応対するか?いや、留守だ、居留守だ。裏口から逃げるべし。しばらくカンオケ・ホテルにでも潜伏だ。彼は目に付いたディスク類を掻き集め、リュックサックに投げ込んだ。そしてバタバタとガレージを横切り、裏口のドア「アイエエエエ!」26

2012-11-13 17:19:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ドーモ。イノエ・オカサマ=サン」ハンチング帽にトレンチコートの男が、後ろ手に裏口のドアを閉めた。彼の手には破壊されたチェーンロックがあった。「イチロー・モリタです。話をうかがいたい」「アーイーエー!」 27

2012-11-13 17:22:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ドーモ。イノエ・オカサマ=サン」ハンチング帽にトレンチコートの男が、後ろ手に裏口のドアを閉めた。彼の手には破壊されたチェーンロックがあった。「イチロー・モリタです。話をうかがいたい」「アーイーエー!」 27

2012-11-14 12:15:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……ケンザ・キシオミ。オムラ・インダストリ社員であり、イノエ・オカサマをチーフエンジニアとする開発チームに属するテストパイロット。元カーレーサー、スタントマン、オムラに引き抜かれて以来、強靭な身体と熟練の走行テクニックで、戦術ビークル類の進歩革新を陰ながら支えてきた。 28

2012-11-14 12:27:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

暴徒殲滅八輪走行車両「モーターヘイワ」のテスト時、爆発炎上事故に巻き込まれた彼は、生死の淵を彷徨い、その折にニンジャソウルを憑依させた。数日で職場復帰した彼のニンジャ化とニンジャネームはオムラにおいて秘匿事項とされ、ケンザの名は職務遂行上の都合もあって、そのまま存続された。 29

2012-11-14 12:33:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

パイロット適性に秀でたケンザのニンジャ化は、オムラにとって僥倖だった。近年のニンジャソウル憑依現象の増加傾向を把握するオムラが「ニンジャに最適化したカスタムモービル」にビジネス可能性を見出したのは当然の事だ。ケンザに用意されたのは、雇われニンジャ戦闘員には不可能な仕事だった。30

2012-11-14 12:41:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……実際、ケンザ=サンはモーター理念における憧れの矢だった。強さ、重さ、ベクトル。俺たちの夢を載せた……あんたらにはわからないだろうけど」イノエは肩をすくめた。ニンジャスレイヤーとフィルギア、そしてイノエ。向かい合う三者を照らすのは、UNIXモニタの陰気な電子光だ。 31

2012-11-14 12:47:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「モーター理念」ニンジャスレイヤーは呟いた。やつれたイノエの血走った眼光には、どこか無邪気なアトモスフィアがあった。科学、進歩、発展を信じ、鉄の質量を、実行力を疑わない無邪気さだ。ニンジャスレイヤーはそれが産み出してきた無数の悲劇を知る。それは邪悪な無邪気さである。 32

2012-11-14 12:52:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ケンザ=サンの貢献は素晴らしかった。ニンジャは……すごい。反射神経、重力への耐性……不可能を可能にするんだ。ロボットとビークルのその先に広がるあらたな原野だ。我々はそれを拓こうとした……でも結局は……POW!さ」泡が弾けるさまを手振りで示し、「知っての通り、オムラは解体」 33

2012-11-14 13:09:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

倒産・解体・吸収。オムラ社員のある者は他社へ引き抜かれ、ある者は新たな環境、新たな社風に適合できず、路頭に迷う事となった……イノエのように。「ケンザ=サンは、オムラから、どこに?」「……」イノエは弱々しく瞬きし、漠然と答えた。「彼は……彼は優秀だし、ニンジャだしね」 34

2012-11-14 13:20:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「一ヶ月前、彼は死んだ。ルート808上で」ニンジャスレイヤーが告げた。「婚約者もだ」「……」イノエの瞳に何かがよぎった。「……そうでしたか。彼のこと、探していたのに……」「……」ニンジャスレイヤーはパイプ椅子から、やおら立ち上がった。「何を隠している?」「アイエエッ……」35

2012-11-14 13:31:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「わかっちまうんだよ、そういうの」フィルギアはニヤニヤと笑った。「婚約者サンの親も必死、この男も必死、俺も疑いを晴らすのに必死さ……アンタも必死にならなきゃ……」「アイエエ……」「事件の後……生きてるんじゃねえの……どうなの……知ってるんじゃねえの……仲良しなんだろ……」36

2012-11-14 13:36:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

イノエは椅子ごと後ずさった「死んだと今言ったじゃないですか」「手足は残ってたが、肝心の部分が無い」フィルギアは言った。「アンタのほうが詳しいンでしょ」「……」ニンジャスレイヤーはガレージの奥の闇、手術台めいたものを見出し、そちらへ歩いた。「それは!」イノエが制止しようとした。37

2012-11-14 13:42:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

心電図、ドリル、レーザーカッター、無数のチューブ類、薬品群、専用のUNIXデッキ……「単なる車いじりにしては、ちとオーガニックのようだが」ニンジャスレイヤーはイノエを振り返った。フィルギアがイノエの肩を抱いた「盗品かい?倒産の時かい?ヒヒヒ、どうせ辞めちまう会社だし、ッて?」38

2012-11-14 13:50:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはわななくイノエを見据えた。「真相を欲している者がいる。あの時、何があった。ここで何があった。今、何が起こっている?」「う……」イノエはその場にがっくりと膝をついた。「何もかも、何もかも」床にポタポタと涙が落ちた。「何もかも失敗だ。何もかもダメだった」 39

2012-11-14 14:14:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……オムラから「引き揚げて」きた備品とともに秘密のガレージに引きこもり、失意のままに暮らすイノエに謎めいたIRCメッセージが届いたのは、いつの事だったろうか。「復活のノロシを上げよう。雷神はモーター理念のもとでふたたび蘇る。集え!」……送信者の名はタイサ・ルニヨシ。 40

2012-11-14 14:31:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

面識は無いが、その名前は記憶にあった。タイサはオムラにおいてイノエよりもずっと上の役職者であり、微かにオムラ本家の血を引いてもいたはずだ。「確かな後ろ盾、確かな資金。オナタカミ社から失地回復する時が訪れた。諸君の情熱が是非とも必要だ。連絡を求めています!」 41

2012-11-14 14:35:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

当然イノエはこれに応えた。何を迷うことがあろう?そしてイノエにケンザが応えた。彼らだけでは無かった。トコロ・スズキ。シムカギ・ジチロー。様々に散ったオムラの遺伝子たち。オムラ復活……不本意な断絶を乗り越え、再び歴史を前に進める時がきたのだ。我々の手で! 42

2012-11-14 14:45:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「でも、アンタはいまだに、ここが住処かい」フィルギアは言った。イノエは据わった目で虚空を見つめた。「夢。夢を見たかった。……そしてケンザ=サンは決断的に行動した。盗み出した。いや断じて違う!盗んだんじゃない!オナタカミに奪われたイルカクロイの開発計画を奪還した……」 43

2012-11-14 14:53:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「彼はニンジャだ。彼は信頼を得ていた。オムラ亡き後もだ。私のようなトラッシュと違うぞ。地位も名誉もあったんだ。それをあえて捨てたんだ。雷神の夢の為に捨てたんだ。自分自身とイルカクロイを手土産に、戻ってきたのだ!」イノエは涙ぐんだ。「……シャボン玉めいた夢だった……」 44

2012-11-14 14:58:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それで」ニンジャスレイヤーが促した。「婚約者もろともに消されたのか」「ケンザ=サンは……おお……追っ手によって無惨な有様に……だがイルカクロイはインテリジェントだ。自動走行。私のもとに彼を届けた」イノエは両手を握ったり開いたりした。「婚約者」の単語にはまるで反応しない。 45

2012-11-14 15:10:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あン?待てよ。イルカクロイ、イルカ、イルカ(原注:ドルフィン)……」フィルギアが話に割り込んだ。「それさァ!タイヤの無い、シュッとしたイカレたバイクで、イルカ、おい、そのケンザ=サンのニンジャの名前って、クロームドルフィンだろ?クロームドルフィンだァ!」彼は煩く手を叩いた。46

2012-11-14 15:19:48