ヘイル・トゥ・ザ・シェード・オブ・ブッダスピード #6
「……やれ」「ヘイヘイ!ヘイヘイ!」「キング!」「キング!」夜空に掲げた大漁旗の先端には、ナムアミダブツ!松明めいて燃え盛る死体!「キング」側近ライダーが不安げに振り返る。視線の先、巨大なタイヤを備えた謎めいたモーターサイクルに跨る、ハイ・テック・ライダースーツ姿の……カケル!1
2012-11-21 14:49:21「戦争……終わらせるかよ」フルフェイスUNIXヘルメットの中でカケルはブツブツと呟いた。松明めいて焼かれるキマリテ・レンゴウの哀れなスクーターチーム隊長。炎を受けるカケルの姿は、ハイ・テックなスーツの洗練とは裏腹、アケチ殺戮騎馬軍団のごとく禍々しいアトモスフィアを放っていた。 2
2012-11-21 14:53:16「キング……?」「終わらせるかよ……ふざけるんじゃねえよ……」「キング?」ウォルルルルルルル!ハイ・テック・モーターサイクル「守衛」のエンジンが悲鳴を上げ、液晶パネルに「おなたかみ」の文字が灯った。耳後ろのLANジャックを通じ、直結データがカケルのニューロンに流れ込む! 3
2012-11-21 14:59:20「キング……その……大丈夫なんですか」「ナメんのか。俺を」フルフェイスヘルメットの隙間から赤い光がさした。側近は震え上がった。「とんでもないですカケル=サン」「テメェ、ナメんのか」「とんでもないです!やっちゃって下さい!」「ついて来れんのか。命燃やせるかテメェら」「ハイ!」 4
2012-11-21 15:06:29「クソが」カケルは呟く。HUD表示が煩わしい。「火炎」「戦闘状態」「停止車両」「正規ルート」……。「クソだ」「え」「テメェらクソばっかりだよ!」KBAM!金色のロケット噴射とともに、カケルの「守衛」はフルスロットル発進した。KBAM!再噴射!「アバーッ!」側近が炎に呑まれ転倒!5
2012-11-21 15:12:44チキュキュキュキュキュイキュイキュイキュイ、進行ルートのアスファルト表面に四角い記号が結ばれ、「最適」「ここが速い」の文字が躍る。カケルは顔をしかめた。だが、その提示ルートに従った。彼は風を感じていた。道の左右には破壊されたキマリテ・レンゴウの武装バイク達。炎。鎌バット。 6
2012-11-21 15:20:21ゴウ。ゴウゴウ。路側灯が風を切り、ガードレールの奥には不夜ネオン光景。あれは星々だ。夜空の星々と同じぐらい、カケルとは縁の無い世界だ。キュイキュイキュイ……前方に四角形が結ばれ、キマリテ・レンゴウ首領の後ろ姿が見えてくる。あっという間だ。そして「スリップストリーム」の文字。 7
2012-11-21 15:29:42カケルは風を感じている。キマリテ首領が作り出す風のトンネルを。カケルはその中を加速し、猛追する。キマリテ首領は落ち着かない様子で何度も後方を確認する。カケルは目を細める。「おせェ……遅過ぎンだよ!」その時。キマリテ首領が何かを後ろに投げ捨てた。……HUD「手榴弾」の表示が追随!8
2012-11-21 15:40:21だがカケルは加速を弛めない。ZAPZAPZAP!緑のガイド光線が瞬いたかと思うと、手榴弾は撃ち落とされて消滅した。「守衛」に備えつけられた迎撃システムだ!ウォルルルルルルル!「オオオオーッ!」カケルは吠えた。「アイ……アイエエエ!」キマリテ首領の悲鳴をヘルメットが拾う! 9
2012-11-21 15:44:24「ア、アイッ」KABOOOOM!キマリテ首領のバイクが爆炎に包まれ、後方の闇に呑まれた。カーブで横腹にカケルの蹴りを受け、転倒爆発したのだ。「畜生……畜生……」カケルは前方を睨んだ。彼は歯を食いしばった。サイバネティクス置換された両脚が痛んだ。「スピード……ちくしょう……」 10
2012-11-21 16:11:23これで、キマリテ・レンゴウは壊滅だ。だが、ワンダリングマンモス・レンゴウすらも遥か後ろだ。今のカケルに追いすがる者は無い。一人だ。スピードだ。スピードが何もかも、流し去った。(((……スピード?何がスピードだ?)))カケルは思考をさまよわせた。(((俺は、何だ?))) 11
2012-11-21 16:16:22HUD上に「殴り薬?」の表示が瞬く。サイバネ接合に伴う幻肢痛を心拍数の乱れから察知すると、すぐにこれだ。「要らねえッつってんだよ」カケルは退け、不確かな自問自答も捨て去る。それは弱さだからだ。スピードに全て委ねろ。そうすればシンプルだ。自己実現?ニンジャ?現実?どうでもいい!12
2012-11-21 16:38:02引き離せ、何もかも引き離せ。怯えた顔で命令をうかがう奴ら。逃げる奴ら。反抗してくる奴ら。抑えつけにくる奴ら。みんな後ろだ。スピードだ。スピードが自由にする。スピードを疑うな。カカカカ、液晶パネルに文字列が走り、HUDに「接近体」の表示が点滅。そしてカタカナ。「イルカクロイ」。13
2012-11-21 16:46:01どこからともなく合流してきた鋭角流線形の機体を、カケルは横目で一瞥する。正真正銘、この前のあいつ、ハイウェイの都市伝説、クロームの死神、カケルの血は瞬時に憤怒を滾らせる、「ザッケンナコラー!」加速!イルカクロイも加速!併走する両者を路側灯がチカチカと照らす! 14
2012-11-21 16:51:56ウォン!カンオケ・トレーラーの横をすり抜ける。イルカクロイは真後ろだ。「守衛」がオート攻撃シーケンスに入り、ネット弾を散布する。スポポポ……ZAPZAPZAP!イルカクロイの迎撃機構は問題無くそれらを展開前に迎撃する。カケルは口の端を歪めて笑い、ミラー越しに乗り手を睨んだ。 15
2012-11-21 17:01:28チカチカチカ、乗り手のフルフェイスヘルムの切れ目が青い眼光をモールス信号めいて放つ。カケルにその言語がわかるはずも無い。だが彼は容易にそれを解釈する。「ナメんじゃねぇ」カケルは加速した。さらに……KBAM!金色のロケット噴射により前方に飛び出す!「ナメんじゃねえ!」 16
2012-11-21 17:04:21イルカクロイは光に呑まれ……否!ゆらゆらと左右に揺れたかと思うと、再びカケルの左横に滑り出たのだ!間一髪で爆風を避けたのである!ドウ、ドウドウ!イルカクロイも何らかの強制加速を行い、カケルの「守衛」に食いついてくる!フィフィフィフィ……嘲笑的なサウンドと共に! 17
2012-11-21 17:08:56「ヘッ……ヘヘッ!ふざけるンじゃねえよ!」カケルは喉を鳴らして笑った。KBAM!さらに強制加速!カケルはコンマ数秒失神した。即座にスーツが薬物を供給し、彼の意識を揺り戻した。右カーブ!バンク!「オオオオーッ!」走行痕が火を吹く! 18
2012-11-21 17:19:20フィフィフィ……フィフィフィフィ……イルカクロイが追う。カケルの「守衛」が切り込む。前方に数台のカンオケ・トレーラー。キュイキュイキュイ……走行ルートガイドが表示される。だが極度のスピード・ハイにあるカケルは白い風の道を見ていた。カケルは風の道を追った。カケルは笑っていた。 19
2012-11-21 17:24:02トレーラーとトレーラーの隙間にカケルは飛び込んだ。左右ワン・インチに死がある。カケルは笑い続けた。隙間から抜け出し、さらに加速した。……カケルは背後の夜空にクロームのイルカを見た。それはカケルのすぐ後ろに滑らかに着地した。飛び越えたのだ。だが、もはやカケルは頓着しなかった。20
2012-11-21 17:33:26次なる急カーブを、ほとんど道路に寝るようにして難なく切り抜け、カケルは再び加速する。前方にゲート。ゲートを越えて、その先、どうする。カケルには知った事ではない。カケルはスピードだ。それだけだ。もっと。もっと加速しろ。推進剤がもう無い。構わない。前へ。前へ。 21
2012-11-21 17:36:04「ああ」カケルは呻いた。彼は風の中にいた。……フィフィフィフィ。フィフィフィフィ。音が回り込む。カケルは閉じかけた目を見開く。斜め後ろに。横に。斜め前に。……前に。前に。前にイルカクロイ。カケルを振り返り、立てた親指を下に向ける。青い眼光。「あああ」イルカクロイが。去る。 22
2012-11-21 17:39:47カケルの眼前にゲートの支柱コンクリートが迫る。「ああ」カケルは呻いた。イルカクロイが彼の視界から消えた。「ああ……」 23
2012-11-21 17:43:27……ゴウ!ゲートを通過したクロームドルフィンを、上空からの漢字サーチライトが照らし出す。鬼瓦ツェッペリン……否!鬼瓦フライングパンケーキである!その直後、イルカクロイめがけ、すぐさま激烈な十字砲火が開始された。BRATATATAT!さらに進行方向に複数のバリケードが展開! 24
2012-11-21 18:00:25