あみだくじと群論(あるいは一刻館に関する考察)

数学の専門家、@yon_ichiro さんによる連続ツィート。「元の木阿弥となる『あみだくじ』は可能か」という問いかけから始まった話は、なぜか『めぞん一刻』を経由しつつ、最終的には群論の話へと向かいます。
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四一郎 @yon_ichiro

(14)さて、「(45)→(56)は一二三四五六を一二三五六四にする」のですが、では(56)→(45)はどうでしょう。これは結果が違う一二三四五六が一二三六四五になる順番は大事なんですねー。あの話も、ちょっとした順序の違いでずいぶん大変だった。って、何の話でしょう。

2013-02-15 23:52:47
四一郎 @yon_ichiro

(15)ただし、そういった直後で何ですが、いつでも順序が大切なわけではない(12)と(56)は、どっちが先でも同じことです。つまり、(12)→(56)と(56)→(12)の効果は同じです。離れている部屋の引越しは、こちらの先にあろうが後にあろうが関係ないんですね。

2013-02-15 23:55:10
四一郎 @yon_ichiro

@pascal_api @maruX @swkk だーっ! いろいろ目に入りつつも数学だけツイートしてましたが、『人魚の森』はいけません! あれは読んでしまっていまだにつらい思いが消えません......名作ですね。ううう。

2013-02-15 23:59:53
四一郎 @yon_ichiro

@pascal_api @maruX @swkk あの、なりそこねにされてしまうお嬢さんがかわいそうでかわいそうで......あの、千切れてしまった指輪......ううう。

2013-02-16 01:46:26
四一郎 @yon_ichiro

(16)さて、ここまでは、隣接した部屋同士の引越ししか考えていませんでしたが、それでは、離れた部屋同士の引越しはどうでしょうか? たとえば、1号室の一の瀬さんと、5号室の五代さんが部屋を取り替えたい(transpositionといいます)として、これはあみだくじで可能でしょうか

2013-02-15 23:58:23
四一郎 @yon_ichiro

(17)これが可能だ、というところがポイントです。まず、(12)→(23)→(34)→(45)とやります。一の瀬さんが一部屋ずつ住人を押しのけていって、5号室に到達します。この時点で、一二三四五六だったのが、二三四五一六になっていますね。ご確認ください。

2013-02-16 00:02:22
四一郎 @yon_ichiro

(18)そこで今度は、(34)→(23)→(12)とやるわけです。無理やりの引越しに納得していなかった五代君以外の住人が、気の弱そうな五代君に「そこ俺の部屋だろ替われよ」と迫った感じ? これで、二三四五一六だったのが五二三四一六になったはずです。一と五が入れ替わり、あとは不変

2013-02-16 00:05:37
四一郎 @yon_ichiro

(19)まとめると、(12)→(23)→(34)→(45)→(34)→(23)→(12)によって、1号室と5号室の住人入れ替えは可能、ということ。どんな二つの部屋でも、こういう感じでやれば、あみだくじで-つまり、隣接部屋間での引越しの組み合わせだけでできることがわかりました。

2013-02-16 00:09:26
四一郎 @yon_ichiro

(19番外)アホみたいなたとえ話で説明していますが、これも立派な数学的結果です。象牙の塔から宣告すれば「n次対称群の任意の互換は、いくつかの隣接互換の合成で表される」ということになります。でも、内容はなんにも変わってないんですよ。むやみにありがたがったり敬遠したりしないでいいよ。

2013-02-16 00:11:57
四一郎 @yon_ichiro

(20)さてこれで、【1】に答える準備が完了です。どんな結果でもあみだくじは作れるか? ですが、某木造アパートのたとえでいうと「隣同士の引越しだけで、住人の好き勝手な希望通りの配置換えは可能か?」ということです。たとえば、「三六四一五二」にしたい、ということになったとしましょう。

2013-02-16 00:15:09
四一郎 @yon_ichiro

(21)まず必要な分析は、引越しする上で、互いに関係のある住人そうでない住人を見分けることです。「」が目標ならば、『二が6へ、六が2へ』、『一が4へ、四が3へ、三が1へ』の二グループの引越しが実態です。え、五? オフィシャルには5にいるんだろうね。でもきっと0だよ!

2013-02-16 00:18:17
四一郎 @yon_ichiro

(五代君が、本当のバイト先がばれたのに、変わらずお弁当を作ってもらっていたのが、うらやましかった18歳のわたくし......)

2013-02-16 00:19:30
四一郎 @yon_ichiro

(22)この分析をすれば、どういうあみだくじを作ればよいかがわかります。今の場合、まず二と六を入れ替えるべく、(23)→(34)→(45)→(56)→(45)→(34)→(23)とやります。

2013-02-16 00:21:48
四一郎 @yon_ichiro

(23)そのあと『一が4へ、四が3へ、三が1へ』を実行します。少々めんどくさいですが、これはたとえば『1号室と4号室の入れ替え』をまずやって、それに引き続いて『1号室と3号室の入れ替え』をやるとよい。それぞれの入れ替えは、さっき説明したように、間の部屋を全部巻き込んで断行します。

2013-02-16 00:24:25
四一郎 @yon_ichiro

(24)これで、一二三四五六を、三六四一五二に変換できました。そのほかのパターンも、同じように考えればあみだくじ(隣り合った部屋どうしの引越しの組み合わせ)で実現できることは納得していただけるでしょうか。これで、疑問【1】に対してYESと答えました!

2013-02-16 00:26:52
四一郎 @yon_ichiro

(25)この結果、数学の言葉で言うと「n次対称群は隣接互換で生成される」っていう、けっこう重大な結果なんですよ。対称群ってのは、数学をやる以上一生付き合うべき神器なんですが、それが本質的にはあみだくじだよ、っていうんですから。あみだくじの内包する数学的内容は実に深いのです。

2013-02-16 00:28:58
四一郎 @yon_ichiro

(26)なお、ここまでの【1】の答え方、野崎昭弘先生の名著『数学的センス』にある考え方とまったく同じです......言い訳すると、これ以外に自然な考え方はないでしょう、ってことなんですが、クレジットはしとかないとね。なお、この本にもか、かわいいよな......は出てきます!

2013-02-16 00:30:52
四一郎 @yon_ichiro

(27)さあ、でもここからは『数学的センス』にも書いてないことをツイートするぞ。いよいよ @ikkn さんのもともとの疑問【2】を考えましょう。これはたとえ話で言うと「さんざん隣同士の引越しを繰り返したのに、結局、みんなもとの部屋にいる、ってストーリーはあるか?」ってことですね。

2013-02-16 00:33:15
四一郎 @yon_ichiro

(28)直感的には、というか、あのマンガ(どのマンガ?)の世界観からすると、いかにもそういうことありそうですね。大騒動の末、あれっはじめと何にも変わっていない、と気づく。ありそうですが、では具体的に、どんなストーリーだとそうなるのでしょう

2013-02-16 00:34:41
四一郎 @yon_ichiro

(29)まず、[A]同一の「隣部屋同士の引越し」を2回繰り返すと、元に戻ってしまう。これは当たり前ですよねえ。(45)→(45)は、何の変化もないことと同じだってことですが、これを「(45)→(45)=id」と書きましょう。idは"identicalだ"くらいの感じでご理解を。

2013-02-16 00:37:32
四一郎 @yon_ichiro

(30)そしてもう一種類、元の木阿弥になる引越しの組み合わせがあります:たとえば(12)→(23)→(12)→(23)→(12)→(23)。いやあ、これは気づきにくいですよねー。勝手なお願いですが、できればぜひ、ご自分で確認していただきたいです。はじめてだとちょっと感動しますよ。

2013-02-16 00:40:04
四一郎 @yon_ichiro

(31)もっともこれを当たり前だと思う方法もあります:(12)→(23)→(12)も、(23)→(12)→(23)も、(19)までの考え方でとどちらも「1号室と3号室の入れ替え」だと見て取れます。だからこの2つをつなげると、結局同じ入れ替えを2回繰り返したことになるから、idだ。

2013-02-16 00:44:49
四一郎 @yon_ichiro

(32)ともあれ、[B]どの部屋についても、左との置換と右との置換を交互に3回繰り返すと、それはidと等しい。ですから、(12)→(23)→(12)→(23)→(12)→(23)のような横線のセットをたくさん書いても、実はあみだくじとしては何もやっていないのと同じです。

2013-02-16 00:50:23
四一郎 @yon_ichiro

(33)これは次のようにもいえます:[B']どの部屋についても、隣部屋との置換を左右左とやるのと右左右とやるのは同じこと。たとえば、あるあみだくじにパーツとして(34)→(45)→(34)があるならば、その部分を(45)→(34)→(45)に取り替えても、結果は同じです。

2013-02-16 00:52:37
四一郎 @yon_ichiro

(34)というわけで、@ikkn さんが昔ほしかった「複雑に見えても実は何もしていないあみだくじ」は、次のようにすれば得られます。記述を簡単にするために、aとbが隣り合う縦線のとき、(ab)→(ab)という2本の横線の組をAタイプといい、a,b,cが隣り合う縦線のとき、(続く)

2013-02-16 00:56:08