#twnovel 『無惨歳時記―春夏禾―』

花のやうな少年乃慾望の歳時記 『無惨歳時記―火冬―』 http://togetter.com/li/574314
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♍≠様♍ @XavierCohen

「…土地には土地の仕来りゆうもんがおますが、小さいお子さんの事やで知らんも道理、せやのに牛頭はんもえげつない事しやはった。まぁ、大人気無いんが神さんちゅうもんで。おや、もうこんな時間や。一本奥の筋入ったら真っ暗なとこもおますよってな、あんじょう気ぃ付けてお帰り」 #twnovel

2013-07-16 17:56:27
♍≠様♍ @XavierCohen

「俺としちゃあお前ぇさんをこんな目に遭わせる心算じゃ無かったんだが、誰にだって生活ってもんが在る。お前ぇさんは、ちょいとばかり他人様の生活に鼻を突っ込み過ぎたって訳さ。其処は判って呉れるよな」―屍は応えず、扇風機が低く唸って首を横に振る。生温かい風が吹き抜けた。 #twnovel

2013-07-19 17:22:22
♍≠様♍ @XavierCohen

「うちが抑え付けてる間も伊代ちゃんずっと泣き喚いとった。すっごい大きな声で。可笑しいやん、うちあんだけ力いっぱい伊代ちゃんの喉絞めててんで。誰かに聞こえたらどないしょうって、そればっかり考えとってん」―少女ひとり、朽ち果てて土に返る。叫びは蝉時雨の壁に阻まれて。 #twnovel

2013-07-19 17:27:01
♍≠様♍ @XavierCohen

「短い間だつたけど楽しかつたよ」「亦何時か何処かで屹度会へるね」色取り取りのサインペンでびつしり寄せ書きされたお皿をぺこりと下げて、太郎くんは刹那に心細さうな顔をしたけれど、それでも毅然と言つたんだ。「揖斐川は綺麗な水の流れるところ、みんなぜひ遊びに来て下さい」 #twnovel

2013-07-24 13:01:32
♍≠様♍ @XavierCohen

砂漠の行軍は続く。渇きは刻一刻と耐へ難いものに為つた。深夜とうとう驢馬の腹を裂き頭から血を浴びた。翌朝日も昇らぬ内から招集が在つた。驢馬殺しの追及だつた。容赦無い尋問を受ける朋友達を見ながら私の心は痛んだ。自ら名乗り出る可きかとも思つた。でも言へなかつた。今更河童でしたなんて。

2013-07-10 17:42:51
♍≠様♍ @XavierCohen

河童だつた。忌忌しい事に。戦は長引き兵站線は延び切つてゐた。河童共は駱駝の背を割り腹を裂いては首を突つ込んで皿を潤ほしてゐた。六日後に辿り着ひたルクソウルの城砦はさしたる戦闘も無く数刻で陥落する。勇敢な砂漠の戦士でさへ恐ろしかつたのだらう。乾いた血の瘡蓋を纏う河童の群れの異様が。

2013-07-11 17:47:16
♍≠様♍ @XavierCohen

彼の皿は連隊長から小隊長へ、そして兵卒へと手渡されて行つた。皆の名が、或いは惜別の様なものが、粛粛と書き連ねられる。最後にカップ一杯の酒が注がれて、墨書の白い皿は極めて丁寧に砂に埋められた。私には遠吠えにしか聞こえぬ声は、祈りか、其れとも歌であつたのか。河童の葬送は夜通し続いた。

2013-07-24 17:16:05
♍≠様♍ @XavierCohen

浜辺に浮き輪が揺れてゐた。黄色いビニイルで何やら判らぬ生き物が描いてある。童心に返つて首にかけてみた。ひんやり冷たかつた。うつとりしてゐると腰まで波に洗はれてゐた。何やら判らぬ生き物は何やら済まなさうな目で私を… ―アラ、浮き輪よ。黄色くつて何だか可愛らしいわ! #twnovel

2013-07-12 17:39:00
♍≠様♍ @XavierCohen

「鏑矢ッ!ていッ!」「第一から第四矢命中ッ!」「やったかッ?」「敵影に変化無しッ!」「飛梅接近ッ!数多数ッ!」「催太鼓大破ッ!御迎船沈没ッ!」「回頭ッ!後退ッ!此の御鳳輦奉安船だけは護れッ!」「飛梅第二波来ますッ!」「ええい、菅公は化物かッ?」「ええ、化物です」 #twnovel

2013-07-25 17:31:59
♍≠様♍ @XavierCohen

それでも僕たちは勝利した。大川を覆つてゐた禍禍しひ気は次第に衰退し、雨雲さへすつかり消え失せて仕舞つた。青白ひ満月に照らされて、神官や弓取りや何だか判らないものが浮かんでゐた。「終わつたね」さう笑つて、僕たちはキスをした。スタアマインが彼女の頬を紅く染めてゐる。 #twnovel

2013-07-25 17:39:22
♍≠様♍ @XavierCohen

新しい朝が来た夢遊病者みたいに腕を前から上に上げて夢見る様に柔らかく2度曲げて正面で胸反らし夢見る頃を両足を揃えて4回跳躍開いて閉じて夢の中へ深く息を吸って吐く一連の運動はインプラントによって制御され一連の成果が町役場保険課のPCに記録される斉藤さん他3名が居残りを命じられ夢(略

2013-08-12 08:44:14
♍≠様♍ @XavierCohen

七回表、三塁側の南無妙法蓮華経は銀傘に増幅し、鬱陶しくグラウンドを満たしてゐた。「此れだから厭やなのよ」泥塗れの俺達に冷やした麦茶を配り乍ら、マネージャーはふうと呪詛を吐く。「異教徒共は地獄に堕ちれば善いのだわ」玉の汗が彼女の薄い胸を伝つて、ロザリオから滴つた。 #twnovel

2013-07-29 12:50:35
♍≠様♍ @XavierCohen

「此れを預かつて下さい」佐山は瑪瑙の数珠を俺に差し出した。「おい、莫迦な事を言ふな」「僕は少しでも速く駆け抜け無ければ為らないのです」浅いフライに飛び出した佐山は矢張り莫迦だつた。サイレンも無慈悲に嘲笑つてゐた。信仰を捨てた佐山にはもう声を掛ける者さへ無かつた。 #twnovel

2013-07-29 17:25:57
♍≠様♍ @XavierCohen

カタストロフの匂いに惹き寄せられて鬼灯提燈が聚つて来る。一つ、二つ、三つ、何十、何百、何千、何万。沸き上がる熱に煽られ鬼灯提燈が燃焼する。一つ、二つ、三つ、何十、何百、何千、何万。夜が紅く膨脹し、白く輝き、黒く収縮する。赤子が泣いてゐた。母は血と煤に汚れてゐる。 #twnovel

2013-08-06 18:06:35
♍≠様♍ @XavierCohen

蒸し暑い夜に清んだ琴の音きこへ鬼の心震へり。奏じ手を喰らひ其のわざ我がものにせんと座敷の障子蹴破れば、怯へて後退る娘の袖さつと灯籠を薙ぐ。座敷たちまち虚しく焼け落ちた。気味の悪い慟哭の三日三晩続いた後、真白に磨き上げられた御骨の眩しく曙に晒されてゐるを見付けた。 #twnovel

2013-08-08 08:53:45
♍≠様♍ @XavierCohen

「2組の恵理ちゃんな」知らないけど、こういう女お子の水面下の誹謗中傷に耳を傾けるのがボーイフレンドなので、僕は黙って頷く。「水曜日H&M行かへん?」女の子の話はくるくる変わる。「うちが夢やったら蜻蛉の夢になりたいわ」これは今朝の補習。「何や、しゅっとしてるやん」 #twnovel

2013-08-13 12:58:55
♍≠様♍ @XavierCohen

縁側のお爺ちゃんのラジオから流れる勇ましい吹奏楽。カキーンと金属音。がたたたたっと電車が通る。びりびりと空が軋む。つるつるの白い硝子板の様な庭に夕日の色で焼き付けられる、僕と、苛立たしげにラジオを揺さぶるお爺ちゃんと、飛び交う蜻蛉の群れと、ホワイトノイズの波紋。 #twnovel

2013-08-13 17:34:08
♍≠様♍ @XavierCohen

―そのうへ焼け爛れた膚に辛ぁい味噌を塗つたくられ ―御痛ましや ―賀茂殿は更に気の毒で在つた ―天麩羅は長く苦しむと云ふからのぉ ―あなおそろしや ―落ち落ちはして居れぬ  盆が過ぎれば一目散に逃げよ  達者で在らば何れ亦逢はん  皆さらばじゃ 楊枝の音てんでにちきちき走り去る

2013-08-23 17:19:23
♍≠様♍ @XavierCohen

成程此奴は非道悪逆の輩にて候へども 魂持たざるものにて候へば吾裁きの及ぶ可き処にや非ず いざ何処へなりとも棄て遣つて参れとの仰せであつた かあらからから 閻魔殿とて手出し能はずと為れば愈愈儂は神仏の如きであらうよ 木偶の傲岸不遜振りの可笑しさに蟋蟀転げて腹を抱へる こうろころころ

2013-08-20 17:21:41
♍≠様♍ @XavierCohen

しゃああん ―お父はん 遊環の音に妻が怯へる ―家は貧しいよつて他人様に施しする余裕なんぞあらしまへん ―判つとるが源蔵はんがどない為つたかは聞いとるやろ  黙つて餅と水菓子持つてきい 恃まうと先頭の小僧が野太く口上を述べる ―菓子をば頂戴に参つた  呉れぬと云ふなら祟りを為さん

2013-08-22 17:52:29
♍≠様♍ @XavierCohen

「まあかわいい。あのえのひとはだあれ?」「あれはジゾウだよ。子供達を守る神様さ」「ジゾウはアンをまもってくれる?」「うん、そうだね」僧侶の祈祷が高まる。次々と射出され虚空を漂うピンクやブルーの棺が、キャンディの箱をひっくり返したみたいに見えた。微笑むジゾウはどんどん小さくなって…

2013-08-23 17:50:24
♍≠様♍ @XavierCohen

「以上のことからカブトムシの魂の重さは0.3グラムと推測されます」「それは誤差の範囲…」先生は動揺してる。「違います」守谷君は別の甲虫を秤に載せ「10.7グラム」同じ様に頭を捥いで秤に戻す。「10.4グラム」女の子達は目を背けていたけれど、あの時の守谷君ってすげえクールに見えた。

2013-08-29 08:45:15
♍≠様♍ @XavierCohen

星太の耳の穴から小人がひょこっと顔を出す。鼾をかく鼻の穴からも(星太はくしゃみをする)、涎を垂らす口からも。小人達は手際良く足場を築き、ウインチでクレヨンを吊り上げた。「あいつだ!」と棟梁が号令を発する。「ネズミか!」と若衆が応える。「ネズミならお手のもんよ!」 #twnovel

2013-08-30 08:55:42
♍≠様♍ @XavierCohen

妾、懸命に土を掻きましたン。何ヶ月も何年も。マァ、痴情の縺れとか色色御座居まして。で、やうやう畑から這出でますと薄紅の花が陽溜りに揺れてゐましたン。思はず見蕩れてゐたら犬めが吠え付きましてネ。慌てて畦道を駆け乍ら御母様の口癖を思ひ出してゐましたン。苦労はしたかて何れ笑ひ話やッて。

2013-09-10 17:32:53
♍≠様♍ @XavierCohen

僕達は周到に準備してきた。この瞬間のために。今度こそいける、そう確信した瞬間ぐらりと傾いて角の煙草屋に突っ込む。今日まで数知れぬ壇尻を呑み込んできた死のカーブ。そこだけ何時でも真新しい煙草屋と何時までも若々しい店番のお姐さん。六丁目の交差点には魔物が棲んでいる。 #twnovel

2013-09-11 17:48:19