モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Spring VI~
- IngaSakimori
- 2003
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ナンバーの縁は白のまま。車検はいらない。つまり、志智のスパーダと排気量は変わらない250ccなのだ。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:10:08(速い……!!) 驚いたようにドゥカティの乗り手が振り向き、わずかにスロットルを緩めた。黒い2stマシンがさらに加速する。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:10:26身震いするように車体をふるわせ、僅かに━━そう、僅かにフロントタイヤが浮く。 そして、矢のように遠くへ消えていく。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:10:45「……すっげー……」 戦意を喪失したドゥカティを続けてパスすると、志智はその背中を追ったが、 月夜見第一駐車場へ到着する頃には、テールランプすらも見えなくなっていた。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:11:42「━━ってことが、さっきあってさ」 「ああ、確かにそれは2stのバイクですわね。 その話だけでは、車種まではわからないですけれど」 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:12:59月夜見第一駐車場で折り返して小河内湖のほとり、川野駐車場。 ツーリングの途中で立ち寄った者。走りにきた者。雰囲気だけ楽しみにきた者。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:13:30そんな集団の中で、きょうも日原院亞璃須(にっぱらいん ありす)は人目を引きつけるゴシックロリータ姿に、フリルをたっぷりとあしらった日傘を手にしていた。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:13:54当たり前の仕草で、執事の吉脇が二人分のティーカップを運んでくる。会釈してそれを受け取る志智。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:14:07「おっ、冷たい」 「今日はずいぶんと気温が高いですからな。あいにくと、グラスを持ってきておりませんで。 奇妙なアイスティーになってしまいましたが、よろしいですかな?」 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:14:57「いや、これで十分ですよ。ありがとう、吉脇さん」 「どういたしまして」 「……確かに冷たいものがほしい気分ですわね」 淡々と呟きつつも、亞璃須(ありす)の額には汗の粒が浮かんでいる。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:15:41そんな格好をしていたら暑いのは当たり前だろうという言葉は、志智の口から出てこない。 彼女が愛機にまたがる際のウェアはもっと暑そうなのだから。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:16:08「でもその2st、気になりますわね。 志智。カウルはついていまして?」 「カウル?」 「あーゆーのですわ」 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:16:52亞璃須が指さした先には、ぴかぴかに磨かれ、傷一つないスーパースポーツの群れが並んでいる。 もっとも、そのうちの半分ほどはタイヤの端もぴかぴかであり、使用した形跡がない。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:17:19「ああ、ああいう周りにいろいろついてるやつか」 「正確にはシートカウルもカウルですけど」 「シート? まあ、二人乗りはできそうな感じだったけどな」 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:17:54「……バイクの知識はこんなレベルなのに、どうしてあんなに速いのでしょう……」 「なんだよ、頭抱えて……とりあえず、ああいう飾りみたいなのはついてなかったぜ。 あ、そうだ。ネイキッドっていうんだよな。思い出した」 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:19:49「ふぅむ。ネイキッドで黒の車体━━しかもトラスフレームの2stですか」 と、そのとき微かに目を笑わせて吉脇が言った。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:20:15「なるほどなるほど。それはそれは」 「吉脇。あなたはもう答えがわかったみたいですけど、言ったらダメですからね」 「もちろんです、お嬢様。せっかくのお楽しみを邪魔することは致しません」 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:21:09「別に車種まで突き止めなくてもいいだろ……250ccって言っても、たくさんあるわけだし」 「そうでもありません。250ccで2stのオンロードバイクといったら、かなり絞られますわ。 とりあえずカワサキはほぼ除外できますし」 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:22:28「ふーん、そんなものなのか。 でも、こんなふうにごちゃごちゃ言ってるより、ケータイで調べればいいんじゃないかな」 「志智はケータイ持ってないでしょう」 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:23:14「そりゃあ、仕事のたびに借りるだけだけど、亞璃須は持ってるじゃないか」 「わたくしの私物をアテにしないでくださいな。 それに自分の頭で考えるから、意味があるんです」 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:24:11「志智様、そのバイクの排気音はどんな具合でしたか」 答えを言わないなりに、助け船を出したいのだろう。吉脇が答えを誘導するマスメディアの声で訊ねる。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:24:29「排気音って言われてもな……こう、俺のスパーダとか、亞璃須のXRとはぜんぜん違うよ。 2stってあんな音なんだな。甲高くてさ」 「ふぅん、いかにも2stですわね」 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:25:58「いえいえ、2stといってもいろいろです。 どんな甲高さでしたか? パーンとかドリューンとかギュルーンとかペロォーンとかケロケロケロ……とか」 「……吉脇さん、たとえが変だよ」 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:26:18「志智様、これは重要なことです。 この三つでエンジンの形式がわかります」 「そ、そうなんだ」 真顔で吉脇に言い切られて、志智は思わずひるんでしまう。 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:28:17「まあ……その中だと……パーン、って……感じかな。 パァァァァァァァァァーン、ってさ」 「なるほどなるほど。お嬢様、これはパラツインエンジンのようですな」 #mor_cy_dar
2013-05-17 20:28:38