モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Spring XII~
- IngaSakimori
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猛烈な減速。そして、消えない。ブレーキランプの点灯が消えない。 フロントをぐっと沈め、ブレーキをかけ続けたまま、YZF-R1にまたがる谷川は大きく体をずらしてハングオン。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:13:56路面に膝のバンクセンサーをすりつけながら、コーナーを尋常でないスピードでクリアしていく。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:14:08「今っ……な、なんだ、それ!? なにやった!?」 ほとんど本能的に志智はそのテールを追いかけることを選んだ。コーナリング自体はついていけた。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:14:16だが、その後の加速は次元が違う。あっという間に差が開く。 そして、川野駐車場前。二本控えたロングストレート、一本目。 こちらが停止状態にあるのではないかと錯覚するほどの勢いで、谷川のYZF-R1は遠くなっていく。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:14:33「ふざけっ……こ、こんなに違うのかよ!?」 『おやっさん』のZRX1200と走ったときでも、これほどパワーの違いを味わったことはなかった。 右へ大きく旋回し、小河内湖にかかる香蘭橋を渡り終えるころ、YZF-R1の姿は志智の視界から消えていた。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:14:57「そんな……馬鹿……な……」 思わずスロットルから手を離す。 するするとエンジンブレーキで減速していくスパーダの車体が、エンジンが、まるで玩具のように頼りないものに思えた。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:15:10ォン、と。 YZF-R1が放つエンジン音の最大値が川野駐車場を駆け抜けたとき、日原院亞璃須はゴシックロリータ姿で、吉脇の用意したアイスティーのカップに口をつけたところだった。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:15:29「あの色……」 「ええ、見事な深紫でしたな、お嬢様」 「あなたが言っていたマシンですわね。志智とは何秒差がついたかしら」 「さあ、何しろスタートの時点で2kmほどの差がありますから……まあ、私が知る全盛期の彼であれば、1分は差をつけるでしょうな」 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:15:39「わたくしの運命の人も、ずいぶん安く見積もられたものですわね」 「お嬢様、決して志智様を過小評価しているわけではありません」 姿勢を正してそう言った吉脇の目は、真摯そのものであった。 「たとえ才能があっても、彼はまだ若い……」 「………………」 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:15:49「伝説という表現は、それにふさわしい実績を残した者に対して送られるのです。残念ながら、彼はまだ谷川淳と比べられるような存在ではありません」#mor_cy_dar
2013-06-30 21:16:08「……一つ興味本位で聞きますけれど。 わたくしのXRとあのYZF-R1。今日みたいに下り限定なら、どう転ぶと思いますか?」 「その答えはお嬢様のご機嫌を損ねる恐れがありますな」 「正直に言いなさい。これは命令ですわ」 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:16:18「では━━申し上げます」 谷川は笑った。 顔にはしわがあり、頭髪には白いものが混じっている。 しかし、その笑顔は少年のそれだった。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:16:30「到底、谷川淳に及ぶものではありませんな。手も足もでないと言ったところではないでしょうか」 「……素直でよろしい」 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:16:43日原院亞璃須はそっぽを向く。 その表情は、程なくして川野駐車場へ戻ってきた三鳥栖志智が、ヘルメット脱いだときのそれと、驚くほどよく似ていた。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:16:51続いて太多のNSF100が、ティックのグロムが。かなり遅れてやってきたKSR110とゴリラは止まらずにそのまま通り過ぎていってしまった。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:16:59「なにやってんだあいつら……はは、負けたよ。 お前、大したもんだな。あーあ、ちょっとは自信あったんだがなあ……おい。もうちょっとうれしそうな顔していいんだぜ?」 「いや……俺は」 肩を叩かれても、志智の顔色は曇ったままだ。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:17:12「ま、あの二人に負けるとは思っていませんでしたけど……それにしてもレーサーを投入するなんて、ちょっとずるいんじゃありません?」 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:17:47「なんだ、嬢ちゃん。……ああ、XRで走ってた金髪の子ってのはあんたか。 エンデューロレーサーだって十分反則だろ。ま、俺らまとめてSSの敵じゃなかったわけだけどな」 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:17:52「………………っ」 ぎり、と鳴った歯の音は、しかし二つある。 理解しがたいほどの悔しさを全身から発散させている学生二人に、太多は不思議そうな顔で肩をすくめた。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:18:14「あの~……ね、姉さん」 「ティック! 明日の晩までごはん抜き!!」 「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! よ、吉脇さんっ!」 「申し訳ありませんが、お嬢様の命令には……」 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:18:30「そ、そんなっ……あの、お兄さん! 僕、健闘しましたよね! 結構頑張りましたよね! そういうわけなので、明日までお兄さんの家に通いますから、千歳ちゃんの手作り料理を━━」 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:18:45「死・ね」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! か、かつてないほど痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! ほっ、ほんとに僕の頭蓋骨ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」 「お前ら……変な奴らだな……」 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:18:54遠くから見るなら、その光景は。 少々乱暴ではあっても。ドン引きしている太多が異様ではあっても。 楽しく、愉快そうな日常の一ページであるかもしれない。 #mor_cy_dar
2013-06-30 21:19:03