モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Spring XII~
- IngaSakimori
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「それじゃあ、行くか。お前が先行していいぞ。 道はわかるか?」 「あっ、はい。姉さんに聞いてきました。ここを出て、右に曲がって……バイパスが新しく出来たから、圏央道のあきる野インターまでいけるって」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:18:13「そうだ」 「慣らしも終わったので、できるだけ邪魔にならないようにきびきび走りますね」 「ああ……」 半分に切りとった輪のようなチンガードのついた、ジェットヘルメットをかぶるティックにうなずき返しつつも、志智はどこかほっとしていた。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:18:45(まあ、安全運転で……な。 こいつを前で走らせれば、大丈夫だろう……) セルの音につづいて、あわせて三気筒分のエギゾーストノート。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:19:02高架が連続する新滝山街道をティックのグロムと志智のスパーダが走る。休日であるにも関わらず、二人の目に映る交通量は決して多くない。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:19:06もともとは狭苦しい国道411号のパイパスとしてつくられたこの道路だが、なんといってもその利点は、信号がすくないことだった。くわえて片側二車線の高規格となれば、モーターサイクルにとっては飛ばし放題にも近い道である。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:19:20(そうそう……普通に走るっていうのは、こんなもんだよ、な) メーターの針はゼロと60の間をのんびりと往復している。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:20:00しばしば車にも追い越される。途中で白馬に補足されている犠牲者がいたが、いまの志智達には無縁と言えた。速度計測の光電管を道のわきに見つけても、平然と通り抜けられるだろう。
2013-06-30 10:20:15戸吹のトンネルをぬけると、左手には東京サマーランド。そのまま直進して、左折。睦橋通りに入る。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:20:32五日市の駅前で左へ曲がれば、その先は檜原村だった。住宅地がどこまでも続くような東京都下の匂いは一気にうすれ、地方の山中とほとんど変わらないたたずまいが見られるようになる。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:20:36檜原村役場の先にあるT字路をいったん右折して、豆腐屋のおから入りドーナツで腹ごしらえをする。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:20:54「おいしいですね、これ」 「だろ。 コンビニで売ってる大多磨わさび入りのおにぎりもいいんだが……こいつが一番かな」 ケータイのカメラにドーナツをおさめているティックを見て、そういえばこういう使い方もするんだよなと、志智は思う。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:21:08(千歳のやつにも1台くらい持たせてやった方がいいのかな……) バイク便の仕事中にしかケータイというものを使ったことのない志智にとっては、その便利さも楽しさもどこか遠い世界のものに見える。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:21:17「……バイクみたいなもん、か」 「はい?」 「いや、実際に使ってみたり乗ってみないと分からないことってあるよな」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:21:28出発。道を折り返して、先ほど曲がったT字路を直進。いよいよ檜原街道の本番だった。 見通しの比較的よい直進区間が思い出したようにあるかと思えば、厳しいコーナーが連続しつつ、集落を貫いている。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:21:37いきおい発生するのは、ファミリーカーやバスを先頭にした渋滞だった。 渋滞といっても、それなりの速度は出ているのだが、見通しのききにくい檜原街道で体感するいらだちは相当なものだ。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:21:45(さて……ここからは我慢だな) 志智の脳裏にはまだ、千歳の「安全運転で」という声がこびりついている。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:22:00が、そのときティックが何かを確認するように、後ろを振り向いた。 志智は手のひらを上へむけてみせる。先が詰まっているからお手上げだな。そんな思いを込めたつもりだった。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:22:10「ちょ……!?」 左手に蕎麦屋がみえる直線。数台の車とバスを一気に追い越そうとするティックのグロム。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:22:44125ccなりの加速ではあるものの、乗り手の軽さも効いているのだろうか。意外な機敏さで先頭へ出る。 志智もスパーダのスロットルをひねり、あわやというところで追従する。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:22:55「なんだなんだ……おい」 ハンドサインの意味を知らない志智は、自分の仕草が『もっとペースを上げろ』だったことなど想像だにしない。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:23:07コーナーが続く狭隘区間を、驚くほどのクイックさでグロムが駆け抜ける。しかし、そのバンク角は大したものではない。志智はティックに続きながら、自分がスパーダを想像以上に深く傾けていることに驚く。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:23:29ずいぶんエンジンが回っているな、と思いながらメーターを一瞥して、志智はさらに驚愕した。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:23:32(80km!? あいつ、こんなスピードで走れるのか?) 完全なブラインドコーナーと厳しい登りでは速度が落ちるものの、ティックのグロムは普段、志智が走るペースとほとんど変わらないレベルで、檜原街道を駆け抜けていく。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:23:52