第一回大罪大戦《負-5の狭間》【戦闘フェーズ02】

黒(ノワール)は暴食、グラ[ @meiji_sin ] 虚(ゼロ)は暴食、イストリーブ[ @gomokumame_sin ]
0
【暴食の雛】 @meiji_sin

獣が獲物を待ちぶせするようにじっと扉が開くのを息を殺して待っていた。 ギ、と開く音とともに軽い身体を滑り込ませる。其処は先日のそれと違って不安定な足元と甘ったるい匂いに包まれた世界。 そして同時に、もう居ない姿を思い出させる香ばしい香りもさせていた。あのクッキーを食べたい。

2013-06-28 00:50:28
【暴食の雛】 @meiji_sin

叶わないと知っていてなお、似たようなものを探してふらりと歩いていた。 食べるのはダメだけどと何度も念を押す声、身長に合わせて覗きこむ視線。 柔らかい表情と穏やかな口調、それから髪を撫でる手つき。二度と叶わない幻想。 それも一つばかりではなく、二つもだ。

2013-06-28 00:51:47
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

すとん、扉から降りた瞬間やわらかなものを踏んで、思わず足元を見た。黄色い。それに、甘ったるい匂いがそこらじゅうに満ちている。胃を直撃する香りだ、腹が減る。 「っはは、こりゃまたかわいらしいとこに出たな」 視界は、柔らかな色彩を帯びた、色とりどりのお菓子で満ち溢れていた。

2013-06-28 00:53:25
【暴食の雛】 @meiji_sin

どちらにももう、噛み付いて怒られる事はない。 名前を呼ばれることも無い、あの屋敷の席に並ぶことも―― それでもまだ自分を黒に縛り付けている存在は強い。 覚えていないが体内にその刺は残ったまま。 小さい体を精一杯伸ばして、獣は吠えた。

2013-06-28 00:54:47
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

可愛らしい世界に似つかわしくない獣の咆哮。ついに相手は人間じゃなくなったかと、声の方へ向かう。 その過程で、走りながら手の届く範囲のお菓子を拾い上げて食べる。甘い物は、実はほとんど食べたことがなかった。そんな機会はなかったから。 「……甘いもんって美味いんだな」 ぽつり、零して。

2013-06-28 00:59:37
【暴食の雛】 @meiji_sin

此処にどんな相手が居るのかわからないが、それは関係なかった。 誰でも食い尽くして帰る。……戻るべき場所が未だあるのならば、だけど。 ふかふかの床、これはスペルビアが出してくれるケーキに似ている。 あそこに見えるのは、やはりスペルビアが出してくれるでざーとに見える。

2013-06-28 01:20:13
【暴食の雛】 @meiji_sin

つまり食べて良いものだと確信した。此処には怒るものはおそらく居ない、持っていたフォークで熱心に口へと運んでゆく。 近づいている気配には取り敢えず気づいていないまま、無いはずの穴を埋めるように夢中で。

2013-06-28 01:23:18
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

咆哮の恐らく大元へたどり着くと、ちっこいガキが熱心にフォークで足元のスポンジを貪っていた。一般人から見たらすさまじいスピードで食っているうえ、フォークに刺された食物は手のひらにぽっかり開いた口に吸い込まれている。 「……また『暴食』か?」 子供と戦うのは、正直勘弁願いたいが。

2013-06-28 01:33:28
【暴食の雛】 @meiji_sin

右手に持ったフォークで突き刺して左の手のひらの口へ運ぶ。その繰り返しで手の届く場所にある甘味は大方姿を消した。 それでも成長には足りないのは、これがただのモノだからだろう。 「うまい」 のに、物足りないのは他に食べるべき物があるから。

2013-06-28 01:34:08
【暴食の雛】 @meiji_sin

「う?」 暴食、と呼ばれた気がして声の方へ振り返る。フォークに刺さったケーキはそのままだ。 その姿は見たことのないような色、姿。罪の匂い、これは旨そうな予感がする。 にんまりと笑みを浮かべて獲物を見つけた獣は目的へ向かい駆け出した。

2013-06-28 01:37:31
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

にたりと笑んだその顔にただならぬものを感じる。あ、こいつやばい。ガキなら多少の意思疎通は図れると思ったがやっぱり俺は甘かった。 即座に『フォークを持った腕を食うために』魔力を集束させチェーンソーを顕現させる。それを目の前に突き立て、駆け寄ってくる子供の影に備えた。

2013-06-28 01:41:19
【暴食の雛】 @meiji_sin

相手が何かを作り出すのを見る、前回と似ている感じがした。これも何らかの座だろうから遠慮無く間を詰める。少なくとも弾が飛んでくる形状では無いからだ。 「お前も《食べ放題》?」 幸いにも甘いソースはたっぷりある場所。

2013-06-28 01:50:42
【暴食の雛】 @meiji_sin

これはどんな味だろうと期待を込めて誘うような味を匂わす相手へと突撃せんばかりの勢いで突っ込んだ。 物を構えるなら狙うは手首、そうでなければ腕の何処かへとフォークを突き刺そうと振りかぶる。 「どんな味?」

2013-06-28 01:53:08
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

「あ?食べ放題?」 予想外の言葉に思わずオウム返しに問い返しつつ、驚異の速度でフォークが迫って来たのでチェーンソーを置き去りにその場から後退。ガキの様子を観察する。こいつは――相性が悪そうだ。 「悪ィけど俺は自前の身体ひとつしかない。ついでに食われる気もねぇんだ」

2013-06-28 02:04:02
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

とりあえずこれでも喰ってろとばかりに、模擬戦でばらけたままだった長い後ろ髪の一房を切り落とす。傍らの生クリームのひと塊にショッキングピンクをトッピングし、ガキの頭にぶん投げた。 生クリームに気を取られるようならさらに距離を取り、それでも追いかけてきたら……まあ、その時に考えよう。

2013-06-28 02:05:17
【暴食の雛】 @meiji_sin

近づいたらピンク色は離れてしまった、残念だ。美味しそうな匂いがする、懐かしいような、でも知らない味のような。 だから食べてみたいんだ、そしたら殺せるし何より成長もできる。 「増えないの?」 例えばでくすんは食べてもまた作っていた、ああいう類では内容だ。

2013-06-28 23:11:08
【暴食の雛】 @meiji_sin

切り落とされた髪をクリームごと、投げられるそのままに口を開いた。その仕草はまるで似ていないのに、アヴァリーティアの癖を思い出させるようなものだった。 よく食べ終えたりんごをくれた。もう、二度と同じものは貰えない。 それがとても嫌だった。手作りのクッキーも、りんごも食べれない。

2013-06-28 23:13:28
【暴食の雛】 @meiji_sin

――自分は暴食なのに、だ。

2013-06-28 23:13:38
【暴食の雛】 @meiji_sin

咀嚼して取り込んだ髪からは、やはり懐かしいけれど新しい味がした。 そして彼は暴食だとはっきり解る。同じだけど、暴食は一人でいい。 だって、自分の食べる分が減ってしまうから。 人懐こい笑顔を、イストリーブへと向けた。

2013-06-28 23:18:01
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

生クリームを口に運ぶガキを視界に入れつつ、どう『食ってやる』ものかと考えた。考えるのは苦手だが、考えなければ生き残れない。とりあえず、獣のような早さは純粋に驚異だ。動きを止めないと。 人懐っこいはずの笑顔に、狂気と、そこにひとしずくだけ垂らしたような哀しみを見る。

2013-06-28 23:27:22
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

「……お前、なんでそんな悲しそうな顔してるんだ」 対策も忘れて思わず、問うていた。戦場で、間違いなく俺はあのガキの敵であいつにとっては『捕食対象』だろうに、その表情から哀しみが消えない。奥底に秘めた昔を思い出しそうで、子供の悲しむ顔は見たくない。

2013-06-28 23:28:02
【暴食の雛】 @meiji_sin

にへーと笑いながらも見えない刺は身体の奥深くをじくじくと膿ませている。 それでも今は純粋に目の前の相手を食べたらどんな味かという好奇心が勝っている。 僅かな髪だけでも、座であるからだろう成長の糧にできるくらいには強い力があった。

2013-06-28 23:41:17
【暴食の雛】 @meiji_sin

その身体、体液、感情、悲鳴、全部食べつくしたら先代を食べた時よりも大きくなれる? きっとそうだし今度も持ち帰ったらまた怒られてしまう。面倒もみきれない。放ったらかして来ていたでくすんはどうだろうか。 約束しているから、大丈夫だろう。

2013-06-28 23:41:29
【暴食の雛】 @meiji_sin

「かなしそう?」 どんな顔だろう、初めて言われた言葉だ。自分は今はいつもの顔をしているはずなのにと、手の平で頬をむにむにつまんだ。 変な処から口が出ているのかと思ったがそうでもないようだ、この身体は制御出来ている。

2013-06-28 23:41:48
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

――ああ、見れば見るほど、こいつは正体はどうであれ中身は未成熟なガキなんだと思い知らされてしまう。だからガキとは戦いたくないんだ。子供だから許される、無知ゆえの無邪気さは大切にしなければならないと知っている。幼い俺が失ってしまったものを、このガキは、まだ持っている。

2013-06-29 00:01:04
1 ・・ 5 次へ