第一回大罪大戦《負-5の狭間》【戦闘フェーズ02】

黒(ノワール)は暴食、グラ[ @meiji_sin ] 虚(ゼロ)は暴食、イストリーブ[ @gomokumame_sin ]
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【暴食の雛】 @gomokumame_sin

糸を掴みなおし、絡めるためにさらに跳躍。右腕が無い状態では着地のバランスを取るのもままならないが、それで転んでも即座に起き上がって駆ける。 細糸の圧力で、四肢を、身体のすべてをちぎれさせられれば。

2013-07-03 01:57:35
【暴食の雛】 @meiji_sin

糸を千切ろうとしても魔力が込められているらしく離れない。 まるで蜘蛛、さしずめ自分は食われるのを待つ餌だろうか。 そんなことを許す自分はないと駆けまわるイストリーブを見て 繋がる端を強く引いてみた。 細い糸が身体に食い込み逃れていた左腕も絡められて痛みが強い。

2013-07-03 20:57:42
【暴食の雛】 @meiji_sin

そうでなくても、停滞の水晶が途切れて呪いが噴出しそうだ。 ここまで呪いの威力が強いことと、自分の力の無さを悔やむ。 もう、残された時間は少ない。 焦る気持ちを感づかれないように気遣いながら、 それでも引き倒されないよう四肢に力を込める。

2013-07-03 20:58:31
【暴食の雛】 @meiji_sin

大人だった姿が少し揺らいだ。 内側から侵食する毒と、先代の枯渇。 成長を妨げるものは多くて困ったものだ。 まさか自分が食われるなど思っていない。 暴食としてそれだけは、認めたくなかったから。

2013-07-03 20:59:02
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

手から抜けないよう左手に絡めていた糸を引っ張られ、またバランスを崩しかけた所を、今度は転ぶことなく踏みとどまる。力任せに引き寄せさらに糸を食い込ませながら、取り出すのは小さな赤い珠。 『傲慢』の血から生成された魔力の塊は、秘めた力の気配を周囲に放っている。

2013-07-03 22:16:59
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

口に入れ奥歯で噛み砕けば、自分のものではない魔力が弾けて消耗した身体に染み渡った。それでも、血を失い身体の一部を欠いた俺は限界に近い。 「獲物は、獲物らしく、おとなしくしてろ!」 糸を持った手を握りしめる。『傲慢』の力がエダクスの内部を起点に、内側に引きずり込む引力を生み出した。

2013-07-03 22:17:19
【暴食の雛】 @meiji_sin

イストリーブが転ぶ事はなかったが、彼が取り出す何かは 明らかに別の気配が濃厚で嫌な予感しかしない。 「……チッ」 無理に引きちぎろうとすると食い込む糸が肉をきつく絞め、 ともすれば裂けてしまいそうなほど。 「獲物はッ、貴様の方だイストリーブ!!」

2013-07-04 00:11:35
【暴食の雛】 @meiji_sin

妙な気配と共に魔力が爆発する。 体内から引っ張られる知らない感覚、停滞とぶつかって 無いはずの内臓がかき混ぜられるような嫌悪感が込み上がる。 「……ッ、ぐぅ」 低く呻く、鎖に繋がれた獣は立っているので精一杯だ。

2013-07-04 00:11:57
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

視界が薄暗い。まだ駄目だ。まだ仕留めていない。意識を失ってしまったら、この糸は形を失くして消えるだろう。 意識を繋ぎとめ、精一杯口端をつり上げ笑みを作る。 「網にかかった時点で、お前はもう俺の獲物なんだよ」 ぎりぎり、と音を立てながら、糸は締めつけを強くしていく。

2013-07-04 01:52:51
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

引力が何か別の力とぶつかり合っている。予想より力が弱い。使える力は限られている。俺は焦っていた。 潰れろ、潰れろ、潰れろ!!! 「いいかげん、潰れやがれぇぇえええええええええ!!!!」

2013-07-04 01:53:03
【暴食の雛】 @meiji_sin

誰が獲物だと、反撃の声も掠れる。 締め付け《暴食》だけでも危ういのに毒《色欲》と引力《傲慢》 さらに先代『枯渇』による退化、成長を妨害するものが多すぎる。 大人だった身体に限界が生じ、水晶『停滞』が壊れる音がした。 途端、巻き戻りが起こり糸に締め付けられたまま身体は縮む。

2013-07-04 02:36:09
【暴食の雛】 @meiji_sin

子供に戻った所で、身体にかかる圧力は変わらない。 「ぅあ、ああああああ!!!!!」 ぎちりと肉が歪み骨が軋んでゆく、嫌だ、まだ死にたくない。 食うのは自分で、あいつではない。 嫌だ、嫌だ、嫌だ――!

2013-07-04 02:36:31
【暴食の雛】 @meiji_sin

それでも金色は獲物の姿を逃すまいと瞬きもせずに イストリーブを睨んだまま溢れる血が涙のように頬を伝い落ちる。 喰われたくない、喰うのは自分だという強い想いだけがいま、 自分を辛うじて事切らせないでいた。

2013-07-04 02:37:11
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

何かが割れるような音と共に、唐突にエダクスが『縮んだ』。糸の先には絡め取られ悲鳴をあげる、小さな子供の姿がある。 俺はもう子供の姿が仮初のものであり、こいつが『化物』であると知っている。けれど視覚というのは影響が大きいもので、睨みつける小粒の金が、糸のように俺の胸を苛んだ。

2013-07-04 03:00:03
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

昔の俺が、俺を見ている。飢えて、飢えて、それでも喰う事ができずにただ喰えている誰かを睨んでいた俺が、俺を、見ている。 「……エダクス。喰うのは、俺だ」 朦朧とする意識が生み出す妄想を振り払い、白糸が、締まる。

2013-07-04 03:00:22
【暴食の雛】 @meiji_sin

「くう、のは……われ、だ」 目の前に最上があるのに、腹が減っているのに食えないのは 拷問をされるよりもひどい仕打ちだ。 僅かに動かせた左腕を思いきりイストリーブへ伸ばす。 届くはずも無いのに。

2013-07-04 03:23:06
【暴食の雛】 @meiji_sin

喰う、食いに来たのだこれを。 腕だけでは足りない、先代の時のように脚も内臓も全部だ。 食への執着、枯れ無い欲求、縛り付けられた暴食の名が 意識を繋ぎ止める唯一となる。

2013-07-04 03:23:35
【暴食の雛】 @meiji_sin

――その糸が、ぷつりと切れた。 締め付けられて細切れになる速さよりも、勝るスピードで 退化が加速し、子供からこれまで取った動物の姿、そして…… 思い出すのは最初にグラと呼んだアーチェディアの姿。 エダクスの名をくれたルクスーリアの姿。 それから黒の仲間《罪》たちの姿。

2013-07-04 03:24:36
【暴食の雛】 @meiji_sin

約束を、果たせなかった。 「ごめ ん」 肉声にはならなかっただろうけれど、最後に一言残して ただの概念、物質として存在しないモノへと還った。

2013-07-04 03:24:59
【暴食の雛】 @meiji_sin

「……はらへった」           「くっていい?」 「これは?」         「えーだめなのか」 「はらへったー」 もう聞こえないはずの子供の声が、木霊する。

2013-07-04 03:36:12
【暴食の雛】 @meiji_sin

「なあ、イストリーブ、腹減ったよなあ」 それは枯渇とは違う呪いの形。 彼が暴食であるかぎり、常に空腹感として付き纏う子供の声。 元の姿、人々の欲求という原始的なのカタチ。

2013-07-04 03:39:12
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

糸が霧散した。跡形もなくなったエダクスのいた場所を、激痛も忘れて呆然と眺めやる。 聞こえていた。吐息にも似た、誰かに向けた謝罪の言葉。 響いていた。腹が減ったと無邪気に笑う、子供の声が。 「あ……あ、ぁ」 役目を終えて崩れだす、甘く残酷な世界の中で絶叫する。

2013-07-04 04:12:49
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

「あぁああぁぁあぁあああぁあッッッッ!!!!」 とめどなく頬を伝う雫は『罪』となったあの時の雨だろうか。 錯乱し絶叫する俺の耳元で、あるはずのない声が囁いていた。 俺の名を呼ぶエダクスの幻想の声が、皮肉にも俺を現実へ引き戻す。

2013-07-04 04:12:56
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

「……あぁ、そうだな……」 曖昧な笑みを浮かべて、涙の跡の残る顔を上げる。その先には、勝者にしか開かない扉が浮かんでいた。 虚ろの色に染まったそれを、隻腕で押し開く。 「一緒に何か喰いに行こう、<暴食>(エダクス)」 幼い弟の手を引くように。 慈しむように、俺はその名を呼んだ。

2013-07-04 04:13:04
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