第一回大罪大戦《負-5の狭間》【戦闘フェーズ02】
- sinlite_ohari
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「どんなジジイか、知らないお前は可哀想だなァ」 「あの味」「あの感覚」「あの枯渇」「あの――絶望」 「なあ、イストリーブ」 「お前は若いなァ」「本当に若い」
2013-07-01 23:32:35老獪したような笑顔で、駆け寄るイストリーブを迎え撃ち 叩きつけられるチェーンソーを舐めるように触れる。 それだけで一つの口がぽかりと浮かぶ右手は消すように《喰った》 正確には吸収はしていない、どこかに飛ばしただけ。 突っ込まれた袋も決して噛まないでいる。
2013-07-01 23:33:03用心しているものあるが、噛むのは罪の肉だけと決めているから。 「若い暴食は、そんな力しか持っていないのか?」 ぺっと欠片を吐き出すと右手を直接身体に向ける。 どこでも良いからその新しい罪の肉を味わいたくて。 あの味を超えるモノを渇望して。
2013-07-01 23:33:25魔力をのせた脚力で自分でも驚くほど遠くまで飛び退る。袋ごと刃を奪われてしまったチェーンソーは残された柄の部分だけ食べ、身体の内に魔力として戻した。 第一印象とはあまりにも違う『化物』を見据え、息を吸う。前の戦いのときのような、脳内でスイッチの入るような音は、しなかった。
2013-07-02 00:33:38「……あぁ、若いさ。お前みたいな『化物』からしたら若いんだろうよ」 『大罪』とはいえたかだか二十年と少ししか生きていない身だ。人でも若いと言われるだろう。 エダクスの言う『ジジイ』、死んだ『暴食』、長く続いているのであろう『暴食』を、俺は知らない。
2013-07-02 00:33:50「けどな、俺は、若いからこそ力を持ってる」 若い俺が、魔法の存在すら知らなかった痩せこけたちっぽけなゴミが、『大罪』となれた力を。 ゴミがゴミ溜めでゴミとして死ぬことを拒み、生きるために「食う」ことを渇望した醜い人間の執着の力を。 「その力を、お前に、理解されてたまるか」
2013-07-02 00:34:05武器は出しても食われてしまうなら意味を成さない。使える魔力も魔力を取り込める物が多くない今、限られている。より少ない消費で効果的に。 ひとまずは時間稼ぎをしなければならない。ケーキの影に隠れるように、エダクスに背を向け俺はスポンジの地面を蹴った。
2013-07-02 00:34:28何年生きているという概念は無かった。ただ、暴食に出会う前と 暴食の名に縛られてからとでは世界がかわってしまっただけ。 自分がそうしたように新しい力が現れた、それだけだ。 だから、全力で叩き潰す。座はひとつでいい。
2013-07-02 01:05:31逃げるイストリーブを追うことは無かったが、 彼の持つ金の腕輪は歴代の暴食の匂いが濃すぎた。 ひく、と鼻を鳴らすと甘ったるい匂いに紛れて 幾重にも重なる血の匂い、轍のように場所を告げる。
2013-07-02 01:05:46「かくれんぼ?」「子供だな」 さらりと自分を棚上げしてイストリーブを追いかける。 久しぶりに大きい姿をとった、出足も不備なく動く。 歩幅が大きいから流れる風景は普段よりも随分早い。
2013-07-02 01:06:02苦痛を止めていた魔力も脚力に回して、ひたすら甘ったるい世界を駆ける。気配は的確に俺を追ってきていた。匂いか、気配か、それとも獣の勘か。 何にせよ、俺を追っているということは好都合だった。 右肩の激痛に幾度か気を失いかけながらも、意識を引きずり戻して目的のために駆ける。
2013-07-02 01:19:39俺が走った後を、零れた魔力と血がきらきらと飾りつけていた。 喰らう意思はあっても魔力が足りない、懐に入れていた『暴食』の黒髪を引っ張り出して口に運ぶ。秘められた『大罪』の魔力を脚力へ、それから意識を引きずり戻す方へ。 どんなに襲われたとしても、「食うために」今は逃げ回る。
2013-07-02 01:20:14道すがら垂れている暴食の血を指で掬い取って舐めた。 懐かしいけれど違う味、もっと欲しいと思う渇望は 身を潜める獲物を追い詰めて狩る、獣だった頃の本能に似ていた。 「誘っているつもりか?」「下手くそめ」
2013-07-02 02:43:33かといって悠長に構えている時間は自分には無かった。 アーチェディアの水晶がいつまで成長を保つかわからない上に、 暴食の呪いの強大さは今も残るばかりか、 時が経てば経つほど強大になってゆくものだから。
2013-07-02 02:43:52隠れ切れていないイストリーブの千切れそうな肩に手を伸ばし 右腕の肘から先を、チェーンソーと同じように《喰った》 もがくようなら誰かとお揃いになるように肩まで残さず、 血の一滴もこれ以上零させない。
2013-07-02 02:44:14若い暴食の味は、熟しきっていない酒のようだった。 「なァ、もっと食わせろよ」 逃げられない様に足を食うか、もう一本の邪魔な腕にするか。 悩むような素振りもなく選んだのは揃いの右足。
2013-07-02 02:44:40痛みすぎて感覚のなくなってきた腕に再び衝撃。 喰われた、と認識した瞬間、反射的に身体を翻す。右足に迫っていた手を寸でのところで回避し、指を鳴らす代わりに舌打ちを打つ。 それをきっかけに、撒き散らされた血が意志を持ってエダクスに殺到、槍となってほぼ全方位から降り注いだ。
2013-07-02 15:58:47血で作られた大量の小さな槍は、エダクスに喰われないよう、用を為せばすぐさまダイヤモンド級の硬度から液体に戻るだろう。 ダメージを与えられれば上々、その場に留め置ければよし、最悪一瞬でも怯んでくれればいい。 槍の行方は確認せず、魔力の残滓を振り撒きながらその場を離れる。
2013-07-02 15:58:54座の味は悪くない、それどころか空腹感が増すばかり。 しかし脚を狙う攻撃は躱され小さな槍が降り注ぐ。 剥き出しの肌に突き刺さり傷を沢山作りすぐ霧散した。 幾つかは食えただろうが、こういう時口がひとつだと不便だ。 液体に戻るそれが肌に残るなら丁寧に舐めとって。
2013-07-02 16:26:38その間にまたも逃げるイストリーブの背中、 正面切って来ない理由を考えるに時間稼ぎしか浮かばない。 または、罠か。 誰かを潜ませている可能性も考えたが、 やはり追いかける選択肢しか自分には無かった。 軽い舌打ち。
2013-07-02 16:27:39――これくらい撒けばいいだろう。 最初にエダクスを串刺した場所まで戻ってきた。追ってくるエダクスに向き直り、その姿をじっと睨みつける。 欠けた右腕の傷から血とともに零れてゆく魔力を左手ですくい取り、指をくい、と動かした。 何かを引き寄せて握るように。
2013-07-03 00:37:06「……かかったな」 左手をぐんと引くと、逃げ回り撒いてきた魔力が繋がりあい跳ね上がる。それは蜘蛛の巣めいた形状の白糸になり、複雑に絡み合いながらエダクスに後ろから襲い掛かった。 こんな魔力の使い方をするのは初めてだ、うまくいくかどうか。それでも、やらなければ、喰えない。
2013-07-03 00:37:20飲み込んだ毒がジワリと溢れ出している事にまだ気づかないまま 壊れそうな身体のまま、それでも見ないふりをして歩く。 イストリーブが何か小細工をしている、それも食えると思う ある種傲慢を振りかざして正面から視線を受け止めた。 焦らされるのは好きではない、さっさと食ってしまおう。
2013-07-03 01:15:20金色の瞳を細めてきつく睨み返すと口を開き何か言いかけて、 しかし襲来する魔力の糸に気づいて右手を翳す。 食い切ることは出来ず糸が絡まって粘度を増すと動きを制限され 口を塞がれることになる。 「本当に小賢しい」 忌々しげに呟くと、振りほどくのを諦めてそれでも距離を詰める。
2013-07-03 01:16:26近づかせたら喰われる。繋がったままの糸をさらに絡めるように跳躍すると、身体に回せる魔力が切れた。 「……こんな、時に」 前髪を留めていたヘアゴムをむしりとって口に放り込み、さらに小さなナイフを取り出して長い前髪を切り落とし喰らう。加減を間違えて鼻の頭に傷が走ったがどうでもいい。
2013-07-03 01:57:26