- sinlite_ohari
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――女が狭間の扉を潜った時、城は閑散としていた。 嗚呼と、声を漏らした。一度、ぐるりと周囲を見渡す。振り返る。六つの扉、今まさに潜った一つは、跡形も無く、崩れて光を失っていた。 ――ああ、と、胸中に声が落ちる。両腕の重さを思い出して、視線を向けたまま数歩、そして背を向ける。 →
2013-06-19 17:48:00――本当に、馬鹿じゃないのか。仮にも智識の頂を、一度でも見上げた魔女が。 物音のしない回廊を大股に進んでいく。勝手に私室としたその扉を開いて腕の中の一人を寝台に横たえる。息をついたときに脚に鈍い痛み。 「……スペルビアが戻ってくるまで待ってたら、不味いわね」 不随は、面倒だ。 →
2013-06-19 17:48:02棚を漁る。木箱を幾つか、布包みを幾つか、取り出しながら考える。どうせなら全員賄えるようにしておくか、どこまで疲弊して帰ってくるか、解ったものではないから。 「……久々、薬作るのも」 まずは、『患者』からだ、これからの扱いがどうなるかは解らなくとも、些細な原因で死なれても困る。 →
2013-06-19 17:48:05――処置さえ終われば、扉で待とう。 そう思う感情すら相応しくないように感じる心はあるけれど。自分の怪我は、脚さえ繋がればそれでいいだろう。どうせ時間と共に消えるのだ、何一つ残らない。それが罪科なのだから。 ――だからじゃないのかと嗤う声には黙り込む。ただ、薬草を砕く手を早めた。
2013-06-19 17:48:06『患者』に処置を施そうとしたイラは困っただろうか。少女は意識を失い脱力しているにもかかわらず、掴んだ手をなかなか離そうとしなかった。奪い取るための失う覚悟がある黒の強欲とは対照的に、紅の強欲は喪失に対して過剰な恐怖を抱いている。果たして目を覚ました時、少女は何を思うだろうか。
2013-06-19 20:53:21「……」円卓の座に着き、『傲慢』たる少女は周囲を見渡す。他の罪は。一週間前ここで別れを告げ、再開の誓いと共に各々の戦場へと向かっていった我らが同胞は。今、この場に顔を揃えているのであろうか――。神妙な面持ちの彼女の手の中には、紅いワインの入ったグラスがあった。
2013-06-19 23:21:26@takami_sin 扉を開ける。円卓を見渡して、その座った一人を見つけて、女は硬い音を立ててそれに近づいていく。いつも羽織っているはずのコートは無く、片腕には真白い包帯を巻いた姿で。 「……スペルビア」 呼び掛ける。手を伸ばしながら、静かな声音だった。
2013-06-19 23:39:21@Fiteenl_sin 「……ご機嫌麗しゅう、イラ?」少女は『憤怒』へと顔を向け、低い声で聞く。その口元には笑みが浮かぶ。一人。まず一人無事であれば、それで良い。「生き残った、ということは勝ったということですわよね。素晴らしいですわ」伸ばされる手に視線を向けながら。
2013-06-19 23:43:15@takami_sin 「機嫌は、分からないけど」 そのまま手を近づける。女の手が傲慢の頬に触れる。勝敗については口を噤んで、そのまま波立つ銀色を、ゆっくり、胸元に抱き込んで。 「……遅かったじゃない、ちょっと心配したわよ」 見つからないように、眼を伏せる。安堵の息を漏らして。
2013-06-19 23:54:55@Fiteenl_sin 「……」ぽふ、と。抵抗することもなく、彼女はイラの胸元へ抱き寄せられる。『王』を名乗るには余りに華奢な体は、『憤怒』に体重を預けてもそう重さを感じさせないはずだ。「はン。私はそうそう野垂れ死ぬタマじゃないですわ。でしょう?」くすり、少女は笑った。
2013-06-20 00:01:06@takami_sin 「……私が怒る必要は無いみたいね。怪我があるなら、看てあげるわよ」 笑う声には苦笑を返す。そうして女は、抱きかかえたそれを二度、軽く撫でた。 「――おかえり、スペルビア」 小さく、零すように言って。女はそのまま手を離して、そして振り返って扉をみやった。
2013-06-20 00:06:37元気そうな声に笑みを浮かべる。持ってきたというそれを見やって、円卓を見渡した。 「……新しい椅子が必要ね」 ちらと城の主を見やる。とりあえず二つお願いと言っておいてから居室の方を見やった。 ――握り締められたコートをそのまま置いてきた、その彼女は目を覚ましただろうか。
2013-06-20 00:10:37@Fiteenl_sin 「残念ながら、その必要はあまり無さそうですわ。私の体は、少し普通ではなくてよ」怪我を負ったのは間違いないだろうが――回復の早い体質という事だろうか。「ただいま、ですわ。イラ、王無き間に城を守ってくれたのは、大義でしたわ」礼を素直に述べないのは、傲慢故か。
2013-06-20 00:11:47行くときと同じようにてってってと軽い足取りで道を戻る。 時折振り返り、後ろから着いて来ているか確認もして。遅れるようなら手を引っ張ってぐいぐいと促すような動作もする。そのまま見慣れた屋敷の円卓まで。 「たっだいまー!これもってきた!」 これ、というには大きすぎる土産だった。
2013-06-19 23:58:15「グラさん急ぎすぎですよ。――と、こんにちは、初めまして。私はDXM-03と申します。グラさんにご招待されたのでホイホイ釣られてきました。これからよろしくお願いいたします」 背を60℃曲げる礼と共に自己紹介を始めます。おそらく、彼女らがグラさんの側の大罪さんなのでしょう
2013-06-20 00:10:07そうしてイラの胸元から離れた彼女は、騒がしい帰還者ともう一つの影を見て。「……ぐら。後ろのは『何』ですの?」冷たい声色で問いかける。食べ物を与えた彼女のそれとは思えない程の、烈火のような鋭い視線が、少年の背後の存在へと向けられる。
2013-06-20 00:14:35「何、えーと」「サンドイッチ美味しかった」 だから、黒側に来ないかとスカウトしてきた。 「ぐらの非常食!」「食べ放題!」 面倒は見るので側においても良いだろうか、とスペルビアを見る。
2013-06-20 00:17:58「イラ。その『二つ』はどこに用意すれば良いですの?」同じく、低く冷え切った声。「まさかぐらの連れてきたソレともう一人を、私達と同じ机に並べようだなんて事、考えているわけではないでしょう? 言うなれば『捕虜』ですもの。私達の横に在る事が、そもそも罪と言える程に『軽い』存在ですのに」
2013-06-20 00:20:35@meiji_sin 「……」まあ、ぐらに説明を求めるのも間違いといえば間違いか。ため息と共に俯いて、とんとんと額を人差し指で二度叩き。「ソレ、仮にも『殺す相手』だったんですのよ。いきなりこの城の中で暴れ始めて、自分や私達が殺されない保証はありますの?」彼にはあくまで優しめに。
2013-06-20 00:24:01@takami_sin 「どこでも良いんじゃないかしら?」 答える言葉は素っ気ない。眼鏡の据わりを直す。 「勝手に暴れられて城が壊されるより、眼の届く所に置いておいた方が良いと思うのだけれど」 怒られるだろうから、肝心な所はぼかす。きっとこの傲慢の事だから、察しているだろうが。
2013-06-20 00:26:34「ついでですが」 少々疲れたような声が、割り込んだ。 「もう一つお願いします、スペルビア」 客間へのドアから姿を見せたのは黒の色欲。 着替えたのだろう、服にはしわ一つないがその顔には隠せない疲労の色。 しかし、どこか満足そうな空気と共に自分の席に腰を下ろす。→
2013-06-20 00:27:38→ 「新たな黒の民です」 にたり。 珍しく、凶暴な笑みを浮かべながら。 同胞(はらから)だ、とは言わなかった――
2013-06-20 00:28:47@takami_sin 「今より、これから食べる方が美味しい」 そういえば殺しに行ったのだったっけ。ちょっと痛かったのはその所為か。 「せきにん持つ」 嘗て自分を拾った時のアーチェディアのように。状況は随分違うけれども、この機械を御する自信は、あったから。 「すぺるびあは?」
2013-06-20 00:29:29