- sinlite_ohari
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ゆっくりと、意識が浮かんでいく。ひどく、寒いような気がして、握りしめたコートを抱き寄せ……そして気づいた。微睡みから一気に覚醒し、体を起こして周囲を見回す。 違う、と思った。ここはプライドの城ではない。明らかに、空気が違っている。それに、何だろう。ひどい空虚感が胸にある。 →
2013-06-20 00:32:12→ 寝かされていた台からおりると、脚に痛みが走った。そうだ、私は狭間の世界で戦って……それからの、記憶がない。 よろよろと壁に手をつき、脚を引きずりながら歩き出した。人の気配のする方へ。「プライド様、ラース様……?」つい呼んでしまうのは紅の同志たちの名前。そして「イラ……様?」
2013-06-20 00:32:19――不意に、扉が開かれる。 刻まれた番号は-4。染め上げられた色は黒。静かに開かれたそこから出てきたのは、一人の男だった。 長く伸びた銀髪は乱れ汚されて、顔面から流れる血は未だとめどなく滴り床を穢していく。そして何より――その右腕が、無い。 緩く見回す周囲。呼気だけが、溢れた。
2013-06-20 00:33:30! 「あーちぇ」 匂いで気がついて扉の方を振り向く、すぐに駆け寄って短い眉をきゅうっと寄せた。 「あーちぇ、あーちぇ」 無事には見えない、どうしてこんなことに。血を止めなくては、腕は、 ――腕、は?
2013-06-20 00:36:31「……『アヴァリーティアとインヴィディア(アイツら)』は、何処だ」 震える声色。その視線の先には、紅と虚に染めあげられた扉が静かに佇んでいた。
2013-06-20 00:37:24@Fiteenl_sin 「……」彼女は黙りこみ、深く息を吐く。本来なら、認めた『黒』以外の存在を城に入れる事すら嫌なのだ。こいつらは同胞ではない。『黒の大罪』では、決して無い。「……方法を。どう処すかの方法を、考えなければ……いけませんわね」絞り出すように、そうとだけ言った。
2013-06-20 00:37:38@meiji_sin 「じゃあ、ソイツの世話はぐらに任せますわ。常に見張りなさい。私達の身を少しでも脅かすような事をしたら、食べてしまいなさい」それが、『飼う者』の責任だ、と。「私? 私は取り逃がしてしまいましたわ。……ちょっと剣振っただけで崩れるなんて脆すぎですわあの世界……」
2013-06-20 00:40:20「……アーチェ、ッ、あなた腕……」そう言った刹那、彼の声に遮られる。つられて扉を見れば――いつからだったか。その色は、黒ではない二つの色に、染め上げられていた。彼女はそれを、呆然とした面持ちで、眺めていた。
2013-06-20 00:42:24@takami_sin 「うん」「美味しくなったら食べる約束」 それまでは黒を脅かさない限り泳がすつもりだったけれども。あまりスペルビアを怒らせて追い出されるのも得策ではないと知っているから、素直に頷いた。 「えー、すぺるびあなのに」 さっさと終えて真っ先に帰っていると思った。
2013-06-20 00:42:48「……扉の事なら、知ってる」 ずっと見てたからと、女は言う。アーチェディアの腕を見やって、息をついた。 「……薬と包帯、持って来るから。座ってなさい。失血で死ぬほど脆弱ではないでしょうけど、眼に悪いわ」 言い置いて扉に向かう。明確な言葉にしたくないのは、抵抗か。
2013-06-20 00:45:32「アーチェディア……」 息を飲む。 凄惨な姿に、ではない。そんな性格では、ない。 姿から快楽(いたみ)を感じ取る前に、体が震える。 見えなければいい、夢であればいい。夢のはずだと思っていた思いが、砕けた。 「――――っ」
2013-06-20 00:45:40壁伝いに廊下を歩いて、その広間の前にたどり着いた。イラを除く黒の大罪を、少女は見たことがない。ただ、これは罪だという直感と、紅ではないという確信に、体が強張る。物陰に隠れようとして、失敗した。 ガタン、と背後にあった台を蹴ってしまう。 「……あ……」
2013-06-20 00:47:25グラが駆け寄り縋り付く。普段の男であれば、投げやりに頭を撫で、抱えでもするところだ。 されど、男の意識は向いていなかった。 傷ついた体すら無視だとばかりに、視線は色付いた瓦礫へと。 「……スペルビア。アイツらは、何処だ」 それは、スペルビアとて未だ聞いた事のない、酷く冷たい声色。
2013-06-20 00:47:56だん。彼女は思い切り円卓を叩く。グラスが倒れ、ワインが零れ出す。袖に掛かったそれを気にする様子はない。「……ねえ、アヴァリーティア? 貴方、この城の主になるのではなかったんですの? 全てを手に入れるため、世界を二つに分けたんじゃなかったんですの……? ねえ?」
2013-06-20 00:48:47「あーちぇ」 彼の手で髪をかき混ぜられるのが好きだったのに、それをしてくれない、何故だ。 こちらを見ない、どうしてだ。 視線を追って見る扉、黒くない、扉が二つ其処には在った。
2013-06-20 00:50:17「インヴィディア……あなた……、まだ私の事を呼んで……」俯き、拳を握りしめる。血が滲む。認めてなるものか。あの、二人が――。「……アーチェディア」冷たい声色は、こちらとて同じ。「その答えと同じ位大事な事は、分かりますわ」烈火の瞳は、二つの扉を見据え。「――殺しましょう。奴ら全て」
2013-06-20 00:52:44「イラ」 「ルクスーリア」 「『強欲』と『嫉妬』は何処だと聞いているッ!!!」 響く大音響に、拳の衝撃。 叩きつけた壁面が、大きく罅割れる。 こんなに『怠惰』が感情を顕にした事など、果たしてあっただろうか。 ――そして、その視線が新たな『強欲(来訪者)』へと向けられた。
2013-06-20 00:53:42@HeNotShe_sin その音を聞いたか、銀髪の女性の顔がそちらへと向いた。炎の燃え盛るような、峻烈な視線。「はン。どうやら鼠が迷い込んだらしいですわね――? おいでなさい。そこで無様に死にたくなければ」手招きをする。口元を釣り上げ、好戦的な笑みを浮かべながら。
2013-06-20 00:55:12息を吸いきったとき、物音がした。 反射的にそちらをみる。見知らぬ女。 見知らぬ 赤い髪 赤い扉 紅い あかい 「...ジュ」 「ルージュゥウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!」 切りつけるような、刺すような、怨嗟の叫び
2013-06-20 00:55:28向けられる視線。そのどれもに見えるのは、明確な敵意。イラ一人を相手にも、自分は死にかかったのだ。これだけの罪が集まっている場で、どうして耐えられるだろう。 震えながら、あえぐ。手招きと怨嗟の叫び。臆病な少女がにげたいと、強がりな少女が進めと囁く。足は凍りついたかのように動かない。
2013-06-20 01:00:36アーチェディアの大声に、衝撃にびくっと身を引き攣らせる。こんなに怒る彼は見たことが無い、いやあるけど無い。 怖いと、初めて思った。同時に胸に感じる『空腹以外の感情』これはなんだろう。 恐る恐る、もう一度名前を呼ぶ。服を引く。せめて傷痕だけは、どうにかして欲しくて。 「あーちぇ」
2013-06-20 01:00:39息をつく。ああもう。視界の端に赤が映り込んだが、構っている余裕など、ない。 「――ここで、何をしても、何もならないでしょうが」 声を荒げた一人に、挑発する一人に、叫んだ一人に、女はただそう零すように言うだけ。
2013-06-20 01:00:47まだ頭がはっきりしない。そもそも自分がどこにいるのか、自分の存在が分からない。「自我」というものが幾らか欠落してしまったような感覚。ふと目を覚ますと、彼女は豪華絢爛なベッドに横たわっていた。「アタシ……アタシ」ぼんやりとした頭に思いうかんだ単語を呟く。「ルクスー、リ、ア……?」
2013-06-20 01:04:45@HeNotShe_sin ざん。 彼女の背後に、魔力の剣が突き立った。 「……」 女性は語らない。射抜くのは、灼熱の瞳。
2013-06-20 01:06:08