第二大罪大戦:紅陣営第二期交流フェイズ

まとめました。
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紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

閉ざされていた扉が開く。そこから吐き出されるように、僕の体が温室へと投げ出される。満身創痍、傷口から流れだすのは黒い色をした腐った血。強く水仙の香りを発しながら、それは地面に広がり、染みついていく。 僕の意識は、まだ湖の底。ぼんやりと水面を見上げて、涙する。

2013-08-11 13:02:38
リコリス @actAcedie

じわりじわり、濃紺のドレスに染みが広がる。あと少し、もう少し――酷使して変色しかけた指先が、扉に触れて。覚束ない足取りで、扉を、潜った。 「……、は、」 ゆっくりと。息を吸う。 ここは、確かにみんなの顔を見た、最後の場所。 「かえ、って、きた、よ」 きょとり、と辺りを見回して。

2013-08-11 15:35:27
リコリス @actAcedie

見回して、そうして、青年の姿に気付く。満身創痍な彼の姿を見て、怠惰はただ首を傾げる。無意識に、声は揺れる。 「――アンヴィ、」 足取りは覚束ない。すがるように、声を絞り出して、嫉妬を呼ぶ。 「ぼくらの、だいすきな、『紅の嫉妬(アンヴィ)』」 震える指先を、伸ばして。

2013-08-11 15:40:48
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

熱のない、呼吸も忘れた僕の体は、死んでいるかのように動かない。ただ、倒れ伏したまま、無事な右眼からは、生ある証のように涙を流し続ける。 湖底に、小さく声が響いた。それは先のように明瞭ではなく、遠く朧気で、何を言ったのか、わからなかった。今度は、どんな嘘だろうか。

2013-08-11 17:00:32
リコリス @actAcedie

「アンヴィ、おきて、ねえ、アンヴィ」 躊躇う事なく、その身体に触れる。声は揺れたまま。一度、唇をぎゅうと噛んで、震える指先を頬に伸ばす。 「おき、て。ねたら、だめ、だよ、おきて、」 お昼寝は、皆でするの。 「おきて、よ、アンヴィ……!」 彼女にしては珍しく大きな声で。名を、呼ぶ。

2013-08-11 18:22:04
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

名前を呼ばれている。揺らぐ水面の向こう側から、呼びかけが降ってくる。これは、誰の声だったか。 「もっと、呼んで」 唇を動かす。湖の底では、声は音にならない。 「もっと、傍に来て」 どうしてか、浮かび上がることができないんだ。だから来て。 「僕だけ、見てて」 僕を、一番でいさせて。

2013-08-11 19:48:20
リコリス @actAcedie

熱を与えればいいのだろうか。ひんやりとした彼の指先を思い出す。そ、と手に触れ、包み込むように握る。 「アンヴィ、アンヴィ・ナルシス」 名を呼び続ける。きっとこうしたらいいのだとただ思い。みんなに見せるのは、笑顔がいい。だから、笑って。 「起きて、アンヴィ。ぼくは、ここに、いるよ」

2013-08-11 20:18:56
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

何度も繰り返す呼び声。嘘でも幻でも、嬉しいと思った。その声は、僕だけを呼んでいるのだから。僕の名前が湖の底に降り積もって、厚く響く。 「きみは、誰だったっけ」 つい最近になって憶えたような気がする。現実ではボロボロの右手を動かして、胸元にあるはずの、紅い宝石を探す。

2013-08-12 02:17:18
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

――アタシタチノイロネ―― 触れた瞬間、呼ぶ声とは違う声が聞こえた。僕の頭蓋の中だけに響く記憶の声。 そうだ、この呼び声は。紅でありながら、血までも色の異なる僕に、紅(ぼくたちの)色をくれたのは、 「……僕の、怠惰(アセディ)……?」 左手が引かれる。見れば、白い手が触れていて。

2013-08-12 02:17:25
リコリス @actAcedie

「アンヴィ……!」 今まで以上の、笑顔。握った手を話すことなく、柔らかい表情で、嫉妬を見つめた。 「うん、ぼく、アセディ、だよ。ぼくらのだいすきな、嫉妬(アンヴィ)」 それから、きょとりと首を傾げて。何かをした方がいいのかもしれない。どうしたらいいのかは、わからないのだけど。

2013-08-12 12:24:48
リコリス @actAcedie

突然くらり、と眩暈がした。痛みを忘れた怠惰は、傷の広がりに気付かない。嫉妬の手を握ろうとする指先に、うまく力が入らない。濃紺のドレスの染みはじわりと広がる。 「あ、れ?」 そのままぱたり、と。横向きに倒れた。それでも、嫉妬の左手には触れたまま。 「?」 不思議そうに、首を傾げて。

2013-08-12 12:24:59
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

絡まり、縺れた記憶が解けていく。もう、眠っている場合ではない。そもそも僕は、とっくに目覚めている。七つが二つ揃って、その二つは触れ合った。僕の待ち望んだときは訪れて、僕は目を醒ましたじゃないか。傲慢と強欲と憤怒と再会して、色欲と怠惰と暴食と出会って、うてなに六片の罪の華は成った。

2013-08-12 16:41:45
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

僕の眼と耳を、感覚を塞ぐ幻が解れていく。黒の傲慢の罪科の残滓が払われていく。砂の城が崩れるように、青い風景が壊れてかたちを失っていく。 左手に触れる白い手に力がないことに気づく。慌てて握り返そうとして、左手が動かないことに気づく。そして戻る、痛覚。 「痛……った……何、これ……」

2013-08-12 16:41:50
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

腕、手、肩、顔、脇腹と、脚。脚は覚えている、思い出した。凍り付かされたのだった。『狭間』で、黒の傲慢に。 「痛い」と言えば、痛みは『不信』に歪んだ。水底でなければ、自分の声ももう聞こえる。 崩れる青い風景の向こうに、姿が見えた。血の気の失せた青い顔で、首を傾げて。 「アセディ?」

2013-08-12 16:41:56
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

水仙の香りに混じって、人の血の匂い。まさか、 「怪我を、してるの、アセディ?」 こんなにも強い血の匂い。まだはっきりと見えないけど、それは、深手じゃないの? 「嫌だよ、アセディ。『きみまで』失われてしまうなんて、僕は信じない」 辛うじて動く右腕を突いて、起き上がろうと力を込める。

2013-08-12 16:42:01
リコリス @actAcedie

「ん、」 起き上がろうとして片手を付くも、力は入らず、そのまま。ただただ不思議そうに、首を傾げて。 「ちからが、」 入らない。アンヴィ、と小さく呟いて。 「……ねむたい?」 自分の状態がわからない。動きすぎたから、眠たいのだろうか。濃紺のドレスから染み出した紅が床を汚す。

2013-08-12 19:20:55
リコリス @actAcedie

「け、が……?」 ふるりと首を振ろうとする。だって、どこもどうもない、はずだ。少しドレスは汚してしまったけど、大丈夫。 「まりょくを、」 体中に満たせばいいだろうか。動かないなら無理矢理動かせばいい。アンヴィが起きるお手伝いをしなくては、と魔力をめぐらす為に集中しようとして。

2013-08-12 19:24:02
『   』 @Ssace_sin

かたん、と。もう一つ、扉の鎖される音が響く。 巨躯の熊と、その腕に抱えられた一人を従えた傲慢は、温室のその二人を見て、まるで自身の胸を貫かれたかのような、そんな表情を抑え込もうとして。 ——どうにもならない歪んだ顔のまま、脚の痛みなど望外に、倒れた二人のすぐ傍らに駆け寄った。

2013-08-12 21:44:51
『   』 @Ssace_sin

「——僕の、」 屈んで膝をつけば胸に激痛、伸ばした指先も針に貫かれた傷からの血で濡れているけれど。 「アセディ、『僕の怠惰』、動かなくて良い、ただ眠らないで、そこに居て」 どうしてあんなに柔らかだった彼女の笑みの中に、蒼い影が落ちる。 「アンヴィ、」 声が掠れる。そんな場合では。

2013-08-12 21:44:52
『   』 @Ssace_sin

傷を癒す事は出来ない、『傀儡』にその術は無い。水よりも静謐に冷ややかな頬に触れれば、べったりと紅に染まる事すら、気が付かないまま。 虚空を、見上げる。 「——『コルト』、『グイル』、『来い』!」 力ある言葉で『放つ』、呼ぶ名は、特別に名を与えた『人形』のもの。 ——いいや、違う、

2013-08-12 21:44:53
『   』 @Ssace_sin

「全員だ、」 手繰る。糸の可視不可視など制御に関係ないただ手繰る。手繰り寄せる。温室の視界に幾つもの『視界』が、伸ばした手に幾つもの感覚が、屈めた全身に幾つもの違和感が重なるのすら度外視で。 「全員『起きろ』」 全ての人形を手繰って、 「紅を、奪うな——!!」 悲鳴の如く、叫ぶ。

2013-08-12 21:44:54
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

掠れた声で呼ばれて、それでも傲慢の声だと思うと安堵した。彼は帰ってきたのだと。 けれど、次いで聞こえたのは叫び声。よくない、と思った。起き上がるために、右腕に渾身の力を込める。砕けた右手が軋むけれど、痛みは『不信』に歪めている。 「オルグイユ」 膝をついた彼の肩口に額を付ける。

2013-08-12 22:10:18
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

鉤爪に引き裂かれた傷が触れれば、彼の服が黒く汚れてしまうけれど、それを気遣うだけの余裕は、どうやら僕にはないようで。ただ、伝えなければと名前を呼んで、静かに諭すように言う。 「落ち着いて、オルグイユ。『傲慢』は、きみしかいないんだ」 ずたずたの顔を上向けて見せ、微笑みを作った。

2013-08-12 22:27:44
リコリス @actAcedie

「……おる、ぐいゆ?」 ぼくの、ぼくらのごうまんが、そういうのなら。 「ねたら、だめ、わかった」 ふ、と息を吐いて。そうしてから、幾度か瞬きを繰り返し。 「……おっきく、なった?」 不思議そうに、首を傾げるような素振りを見せて。震える指先を伸ばす。

2013-08-12 22:37:34
リコリス @actAcedie

息を吐いてから、大きな傲慢を視線だけで見上げ、囁く。 「だいじょうぶ。ぼくは、アセディは、だいじょうぶ、よ。ぼくの……ぼくらの、『傲慢(オルグイユ)』」 ふわり。柔らかい笑みをこぼす。 「だいじょうぶ、だから、ね」 笑みを浮かべたまま。震える指先を伸ばし、掠めるように、触れて。

2013-08-12 22:48:14
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