大罪戦闘企画

《幕間記録》
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――とある大罪

ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

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2013-11-21 00:37:31
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

柔らかな毛布が敷かれた長椅子に寝そべって、柘榴に舌を這わせる。冷たいごつごつとした感触を受け取りながら、すぐ傍で横たわり、全く目覚める気配のない憤怒を見やる。 ——まるで幼い子供のように、何を警戒することも無く、安心しきって眠る顔。その脇に色欲がいるなどと、思いもせずに、

2013-11-21 18:05:43
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

ふふと、小さく笑う。音にだけは敏感だから、衣擦れの音にも注意しながら手を伸ばす。指先で少し、頬を突いてみる。上掛けの無いまま眠り続けるあどけない表情が、ほんの少しの力を得て、それこそ胎児がするように背を丸め身体を丸め、それでようやく落ち着いたのか、元の通りの静かな吐息。

2013-11-21 18:05:45
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

——眠り姫ってこんな感じなのかしら。なんにも知らない綺麗な顔で、どんな猛獣が隣に来たって気付かないし目覚めない。 向かい合わせになるように寝転がり、柘榴に歯を立てる。ぼろりと崩れた塊が口の中に転がり込んで、ぐしゃりと噛み潰せば甘みと酸味が同時に広がって頬の奥を刺す。

2013-11-21 18:05:47
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

——いつも葡萄か林檎か、そんなものしか口にしないこの憤怒は、さぞや甘い香りがするだろう。 毛布に皺が走るのも気にせず、顔を寄せる。薄い微かな呼吸を繰り返す唇に、そっと指先だけで触れる。顔に掛かった黒髪をゆっくりとかき上げて、俯くようにした顎をすくいあげる。上向かせ、屈み込んで、

2013-11-21 18:05:57
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

「——ラフスー」 間近から、気怠げな声。唇を尖らせて眼を開けば、色違いが無感動にこちらを見ていて。 硝子に隔たれていないそれに、にっこりと笑んだ。 「おはよう、眠り姫。どんな夢を見ていたかしら?」 「寝起きにあんたの顔が目の前に無ければ、話してあげたかもね」 退いて。短い声。

2013-11-21 18:06:07
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

つれない、と肩を竦める。憤怒は緩やかに息を吐き出して、長椅子の上で上向くように身体を返した。何か探すように眼を泳ぐのを見て、のそりと上体を起こす。 「……眼鏡」 「無い方が、可愛いわ」 まだ眠気に浸った声に、何処かにか伸ばされようとした手に上から指を絡めてとどめる。

2013-11-21 18:06:21
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

そのまま覆い被さるように、もう片方の手を彼女の肩のすぐ横に突いた。まるで押し倒したかのような格好にも、憤怒は何も言わない。代わりに、色欲の肩から溢れた白髪が口元にかかるのを、煩そうに身体をくねらせて除けただけ。その仕草すら色欲には愛おしい。 「……ねえ、イラ?」 「なに」

2013-11-21 18:06:29
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

気怠い声音は変わらない。——だからこそ、緩やかな恍惚が芽生える。 「久しぶりに帰ってきたのに、一言も無いのは、悲しいわ」 「帰って来いなんて誰も一言も言ってないけれど?」 「そうやっていっつも、無関心」 絡めていた指を解く。紗幕のように垂れた自分の白い髪の中の、白い頬を掌で包む。

2013-11-21 18:06:41
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

「ねえイラ、ずっとあちこち歩きっぱなしで、疲れたの。一緒に眠りましょう?」 ゆっくり、掌の位置をずらす。首筋を撫でるように這わせ、金の装飾に彩られた胸元を滑らせて。抵抗が無いと見て、再び顔を寄せ、 「——ラフスー」 新しい声がして、そのまま憤怒の方に額をついた。重いと抗議の声。

2013-11-21 18:06:46
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

「ちょっとはこう、雰囲気とか空気とか、大事にしましょうよ、オルグイユ」 「本来寝室でやるべきことをテーブルの近くでやってもらうのもね、気が咎めるさ」 「見たいなら見てていいのに」 「殺すわよ」 大人しく身体を引く。醒めた声音の時は素直にそうした方が良いと、経験で分かっていたから。

2013-11-21 18:37:15
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

本当につれない。こんなに近くにいて、それで味わったことが無いのはこの憤怒だけだから、どうしても一度だけでもその味を確かめたいのに。思いながら長椅子から脚を下ろして立ち上がる。横になったままの憤怒に白い軽い毛布を掛ければ、その女はそのまま元のように眼を閉じた。眠り足りないのだろう。

2013-11-21 18:37:34
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

——あるいは眠ることで眼を背けたいのか。思いながら傲慢へと眼を向ければ、上着はどこにやったのか、その下のベストもシャツも煤に汚れて肌には火傷すら見える。すぐ傍に寄って灰色に変わった髪を摘んだ。 「なーに、傲慢がいないから何事かと思ったら、遊んでたの?」 「ああ、随分と愉しかった」

2013-11-21 18:38:00
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

声音に言葉以上の別はない。いつもそうだから、嘘なのか本当なのかも分からない。ただ、なら良かったと答えて手を離す。 引こうとした手首を捕えられて、眼を瞬いた。そのまま引き寄せられる。間を置かずに首に暖かい吐息、思わず揺れる瞳を細めれば小さな裂ける痛み。 「——何、拾ってきたの?」

2013-11-21 18:38:14
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

呼気混じりの声で問う。抜けて行く、吸い出されている感覚。そのまま少しの間の沈黙があって、牙はゆっくり離れていく。 「少しね。でもまあ悪くはないかな」 言う傲慢が唇についた血を舐め取る。毎度変なものを拾って来る傲慢だが、次は吸血鬼に噛まれでもしたのか。数ヶ月もすれば消えるだろうが。

2013-11-21 18:38:31
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

「君も行ってきたらどうだい? もしかしたら面白いものがあるかもしれない」 火傷も消え去った元通りの姿で、傲慢は常の笑みを浮かべて言う。その膝の上に馬乗りになりながら、ん、と視線を左に投げた。 「イラも行ったの?」 「私より先にね。帰ってきてからずっとああだけど」 指先が示す。

2013-11-21 18:38:51
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

もう意識も無いのだろう。彼女の罪科は、深くなる程気力の方を喰うらしい。全快にも、さほど時間はかからないだろうが。 「じゃあ、誘っても無理ね」 「扉は一人しか呑まないさ。いつだってね」 「あら。そう、じゃあ、そうね。帰ってきて早々だけど」 「何か準備しておくよ」 「楽しみにしてる」

2013-11-21 18:39:02
ゆきみかなめ@準備中 @Kaname_role

言い交わし、最期にその頬に軽く唇を当てて立ち上がる。笑みの崩れない傲慢に、つれない、と小さく零してから、くるりと背を向けて『扉』へと足を向けた。 「黒髪、赤毛、白髪。どれが良い?」 「若くて生きの良い、可愛いのなら何でも良いわ」 背後からの問いには簡潔に。そのまま、扉を押し開く。

2013-11-21 18:39:23

――とある大罪

ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

黄昏が宵闇を連れてくる。遠く、地平線を燃やしているであろう太陽は刻一刻沈み行き、月無い空は深く群青色へと変わる。世界は鮮やかに演者を入れ替え、森の何処かで狼の遠吠えが響いた。木々に光を阻まれた森は、覗く空よりなお暗く、視界が悪い。

2013-11-21 18:25:19
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

そんな森の、辛うじて平らな道を、一人の少女が馬に跨り進んで行く。暗闇の中でも柔らかく暖かな金の髪。それを飾る鈴蘭と白百合を模した緻密な銀細工。雪のように白い肌に、くるりと大きい翠緑の瞳と薄紅色の小さな唇が印象的で、纏う真白なコートは上品で麗しい一級品。

2013-11-21 18:26:15
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

涼しげな表情は馬上でも崩れることはなく、誰の目から見ても少女は貴族の御令嬢であった。 その少女は夜闇を恐れることなく森の奥へ奥へと進んで行く。何処へ向かうともなく、けれども迷いなく真っ直ぐに。少女は己の行く道こそが辿り着く道なのだと疑うことなく馬を進める。

2013-11-21 18:26:54
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

静かな森に響くのは、馬の蹄が土を蹴る音、囁きにも似た虫の音、獲物を探す動物たちの足音。そして−−少女の溜息。 「全くもう。いったい何処に行ったのかしら、私のゴーヨクは」 不満げに、拗ねたような素振りで少女は呟く。その視線は静かに前を見つめて−−

2013-11-21 18:28:18
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

少女は行く。己の道を疑うことなく、その吐息を白く染める真っ暗闇の寒空の下を、ただ、真っ直ぐに。

2013-11-21 18:28:29