【twitter小説】暗中模索#4【ファンタジー】
暗いヴォイド球の表面が波打ち、球体の下部に黒い靄が滴り落ちた。研究者たちは作業を止めてその様子に見入っている。彼らの一部が計器を見るよう命令を飛ばす。ヴォイド球は空中に浮遊しているが、水が漏れだすように下に影を溜まらせ始めた。 92
2013-09-15 13:56:15次の瞬間、重い大きな物がヴォイド球から排出され影に落ちた。メルヴィだ。彼女はゆっくり立ち上がると3回ほどむせた。そのたび煤のような暗黒物質が肺から出される。溜まった影は霜が溶けるように揮発していった。 93
2013-09-15 14:00:25「いってて……戻ってきたのかな……ぐは!」 彼女の背中にさらに重い物が落ちてきた。続いてヴォイド球から排出されたのは、ミクロメガスだ。 「やぁ、ごめん。探したよ」 94
2013-09-15 14:04:35影も黒い滴りも今や完全に消え、じわじわとヴォイド球の振動は収まっていく。ミクロメガスはメルヴィの背中から降りると、メルヴィを抱き起した。 「急に消えたから焦ったよ。ベルベンダインに召喚されたんだね」 95
2013-09-15 14:11:25二人は研究者に引っ張られ、ヴォイド球から離れた。研究スペースの机が並ぶ場所、そこで二人はパイプ椅子に座らされた。即座に様々な計器を身につけさせられる。 「きゃぁ、背中をめくらないで!」 96
2013-09-15 14:15:02二人はあっという間にたくさんのコードに繋がれてしまった。ヴォイド球の人体への影響を調べるという。 「メルヴィ、ベルベンダインに会えたんだね。それは良かった。今日はこれでおしまいだよ」 97
2013-09-15 14:19:32「何を言われたか、聞かないの?」 「プライベートな話だろう。詮索する必要はないさ」 そう言ってミクロメガスはヴォイド球に視線を逸らした。ヴォイド球の振動は弱くなったものの、まだ微弱に継続している。 98
2013-09-15 14:25:18「あのね……ミクロメガス、あなたも月へ行きたい夢があるんでしょ」 メルヴィは小声で彼に囁いた。ミクロメガスは振り返り、ウィンクで応える。そして研究員に向かって叫んだ。 「戦闘警戒だ! 各自安全な区画へ避難しろ、お客さんだ!」 99
2013-09-15 14:30:47ヴォイド球の振動は再び活性化し、また球体下部に影が滴り始めた。メルヴィは動揺する。二人はコードで繋がれているのだ。これを解いて逃げていいものか……その時二人を守るように灰色のローブの魔法使いが現れた。 100
2013-09-15 14:36:01魔法使いは3人いた。小柄な体で、女性に思える。顔はフードに隠れて見えなかった。 「メルヴィ、安心して。僕の部下だよ」 とうとう、球体から人間のようなものが排出された。 101
2013-09-15 14:41:36人間のような姿をしているが、肩からは2本ではなく4本の腕が生えていた。女性のように胸が膨らんでおり、顔つきも女性のようだった。だが、その頭はいくつもの釘が刺さっており火花が散っている。腰から下はなく内臓を引きずっている。 103
2013-09-16 15:11:42メルヴィは息を飲んだ。その顔は、球体の中で見た少女の物だった。両目からは赤い涙を流し、狂ったような笑みを浮かべている。そしてその異形の怪物はゆっくりとこちらへと這いずってくるのだ。その姿は刻々と変化していく。 104
2013-09-16 15:17:26ミクロメガスは落ちついてメルヴィに言った。 「あれは混沌神イミドアの手先だよ。球体に侵入していたんだ……でも大丈夫。あれは弱いやつだ」 灰色のローブの魔法使いは3人とも素早く動き出す。 105
2013-09-16 15:22:04魔法使いの3人は素早く3方から化け物を取り囲むと、ローブの下から剣を抜いた。細く、銀色に輝く剣だ。そして切っ先を化け物へ同時に向ける。次の瞬間、紫の稲妻が切っ先から放たれ、化け物を焼きつくす。 106
2013-09-16 15:29:05「ギエエエ、エ……イヒヒヒ」 黒コゲになった化け物はしばらくもがいていたが、呆気なくその動きを止めた。3人の魔法使いは一糸乱れぬ動きで同時に剣をローブの下に納め、どこかへ歩いていった。研究員たちもミクロメガスの合図で持ち場へ戻っていく。 107
2013-09-16 15:32:27「どうして……わたしを狙うの? イミドア神は……そんな神じゃないのに」 伝説に伝わるイミドア神は気紛れの神だ。災いをもたらすが、一人を延々と狙うようなことはしない。しかしベルベンダインはイミドアがメルヴィを狙っているという。 108
2013-09-16 15:35:42「大丈夫。大丈夫さ、メルヴィの夢は叶うよ」 ミクロメガスはそう言っていた。メルヴィは強い不安を感じずにいられない。でも、メルヴィは信じるしかないのだ。 109
2013-09-16 15:39:20帝都の日常は過ぎていく。相変わらず工場は黒煙を吐き空を曇り空に染め上げる。街中を魔法使いが行き交い、教導院の仕事は今日も山積みだ。メルヴィは事務室でひとり残業していた。しかし仕事はとっくに終わっている。 111
2013-09-17 16:36:06教導院の複雑な建物の中をトロッコが疾走し、その振動で天井からぶら下がった電球が揺れる。ゴォーッという騒音はもう聞きなれて何も感じない。そもそも何の目的で動いているトロッコなのかも分からない。メルヴィは机の上でメモと格闘している。 112
2013-09-17 16:38:44