絵が先 「聴く少年」(仮) 【絵描きからの逆襲(5)】(出題画:色崎さん)

竹の子書房画課の、色崎さんからのお題です。 http://yfrog.com/bb15dj こちらの絵をもとに生み出されるお話を、広く募集します。
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(かずぷー) @kaz_poo

「じゃあ、一緒に呪文、聴く?」彼女はたびたび、少年と一緒に音楽を聴いた。もう、それが何て曲名のどんな曲だったかは覚えていない。ただ、少年のやさしそうな笑顔だけは、今でも鮮明に覚えているという。「ある日、ふっつり居なくなったのさ」女将はいつの間にか、俺が入れたボトルを開け、

2010-11-25 05:25:13
(かずぷー) @kaz_poo

自分も飲んでいやがる。「これは、聴講料」「その少年は、何処行ったんだろう」「さあね。前にも言ったけど、あの頃、丁度、<システム>が始まったから。両親と一緒に、<脱邦>したのかもしれないね」「両親、りょうしん、リョウシン」俺は、脂で汚れた天井を眺めながら、

2010-11-25 05:25:21
(かずぷー) @kaz_poo

言い慣れない言葉を何度かつぶやいてみた。「……で、逃げられるもんなのかい?」「脱邦かい? 無理だね」「じゃあ、死んだのかな」「さあね」グラスの底に溜まった酒の残りを飲み干す。不味い。「他の少年は見なかったのかい?」「見るもんか。アタシはすぐ、<病院>でオネンネだもの」

2010-11-25 05:25:28
(かずぷー) @kaz_poo

女将が威勢よくボトルを空にする。随分、高い聴講料だ。「ところで、少年っていうのは、どんな匂いがするんだい?」「匂い? もう百二十年以上も昔の話さ。忘れちまったよ」「なんだよ、聴講料詐欺じゃねえかよ」「そうさねえ……、生きてる匂いがしたかな」「生きてる?」「乳と汗が混じった匂い」

2010-11-25 05:25:37
(かずぷー) @kaz_poo

「臭いのかい?」「臭かないよ。懐かしい、いい匂いさ」「そんなもんかね」外は、冬の空気で満たされていた。人目を気にしながら裏路地を抜け、表通りに出て、そこで大きく深呼吸してみる。夜の街に、少年の匂いはない。鼻と口から溢れる白い湯気を眺めながら、女将の話を頭の中で反芻する。

2010-11-25 05:25:45
(かずぷー) @kaz_poo

かつて、この世界には<子ども>がいたという。私はそれを知らない。今は、<システム>の下、人は病院で作られ、大人になるまで保育された後、初めて社会に産み落とされる。俺は、生まれたときから大人だった。システムは、日本の人口減少に歯止めをかけるために採られた措置だそうだ。表向きは。

2010-11-25 05:25:53
(かずぷー) @kaz_poo

俺は駅へ向かって歩きながら、ズボンのポケットに手を突っ込み、去勢済みのナニを指で弾いた。コイツが大昔は子どもを作ったというのだから、まったく凄い話だ。やがて、大人で鮨詰めになった列車に揺られながら、思った。(少年も、我々大人のように、人生に悩んだりしたのだろうか)

2010-11-25 05:26:00
(かずぷー) @kaz_poo

大人の俺がいくら考えたところで、少年の気持ちなどわかるはずもない。明日また、あの店へ足を運ぼう。車窓に映る景色は、どこまで行っても黒かった。

2010-11-25 05:26:07
今度はいつドイツに行けるかな? @junmizusawa

@ts_p 【絵が先 聴く少年(仮)】『想い出』 明日から原稿投下します。水澤純 よろしくお願いします。#tknk

2010-11-29 00:43:57
今度はいつドイツに行けるかな? @junmizusawa

@ts_p玄関先に無造作に置かれた古い木の箱。ところどころニスが剥げ、あちこち傷だらけだ。奥から重そうに古い扇風機を持ち出してきた母親が、俊輔に気づいて声をかける。「あら、おかえり」「ただいま。何やってんの?」「何って押入れのね、片づけをしてたのよ。いらない物捨てようと思って」

2010-11-29 22:17:57
今度はいつドイツに行けるかな? @junmizusawa

@ts_p「いらない物って、これおじいちゃんのラヂオだろ?いいのかよ」「使えない物を置いといても仕方ないでしょう」言いながら母親は扇風機も玄関先へと放りだした。そんな母親に少し苛立ちを覚えて、俊輔は突っかかるような口調で母親に言った。「寂しくないのかよ!おじいちゃんの形見だろ?」

2010-11-29 22:18:37
今度はいつドイツに行けるかな? @junmizusawa

@ts_p感情的になった息子を、母親は驚いたように見つめる。しかし、すぐに柔らかく微笑むと「おじいちゃんはね、お母さんのお父さんなのよ」と言った。俊輔は、自分の言葉が母親の心を傷つけてしまったことを知った。「……ごめん…」「謝ることないわ。お母さん嬉しい。俊輔がそう思ってくれて」

2010-11-29 22:19:25
今度はいつドイツに行けるかな? @junmizusawa

@ts_p祖父が亡くなってまだ一年と少し。母親が寂しくない筈はなかった。優しい祖父だった。いつでも俊輔のことを見守ってくれて、困っているときは話を聞いてくれた。時には歌を教えてくれた。昔流行った歌謡曲で、俊輔は聴いたことがない歌ばかりだった。それでも祖父と過ごす時間は楽しかった。

2010-11-29 22:20:17
今度はいつドイツに行けるかな? @junmizusawa

@ts_p「お母さん、このラヂオ貰ってもいい?」「どうするの?こんなもの。もう音出ないわよ?部屋も狭いし」「いいんだ。だっておじいちゃんの想い出だから。よく言ってたじゃん!このラヂオから天皇陛下のお声が聞こえたんだぞって」木でできた古いラヂオ。そっと触れると暖かい感触がした。

2010-11-29 22:21:43
今度はいつドイツに行けるかな? @junmizusawa

@ts_p源の摘みを上げると雑音に混じって、祖父が教えてくれた歌が蘇る。『僕の名前を知ってるかい~』それは俊輔が生まれる何十年も前、戦争が終わったばかりの頃の歌で、けれど俊輔は、祖父が少しおどけながら楽しそうに歌うその歌が大好きだった。「おじいちゃん」俊輔はそっと呼んでみた。

2010-11-29 22:22:30
色崎 @iroha_ya

@ts_p 絵が先『聴く少年』の絵サイズが小さかったため、再投下します。http://yfrog.com/1ng130p

2010-12-04 05:09:38
タナ缶 @tanakandesu

@azukiglg すみません!おまたせしましたm(__)m 「聴く少年」の装丁、原寸サイズこちらです。よろしくお願いいたします。 http://twitpic.com/3gpgys

2010-12-17 20:08:27
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