原子炉の運転年数を原則40年に制限するのは安全性とは無関係、というお話
当時の民主党政権は、本来は安全な社会を実現するための手段の一つに過ぎない「脱原子力」を政策目標にするという愚を犯した。同時に、彼らは自分たちが政権の座に就いていられる時間が限られていることも自覚していた。そのため、限られた時間で確実に道筋を付ける方法を選んだのだ。
2013-10-18 12:49:03本来、エネルギー戦略の根幹に関わる政策の決定には詳細な検討と時間を掛けた合意形成が欠かせない。その両方をすっ飛ばす方法として、当時の「民意」を追い風に原子炉の運転期間を縛ってしまえば、30年程度で脱原子力という政策目標はほぼ確実に達成できる。
2013-10-18 12:50:11国と国民の未来に責任を持つ覚悟も能力も無い政府が3年間も政権の座にあったことは国民にとって不幸であったが、その政府を担ぎ上げたのは他ならぬ我々国民なのだ。現在の政府もその能力に多くを期待することはできないが、せめて長期間の政権を担う覚悟と責任感はあると願いたい。
2013-10-18 12:51:33原子炉の運転期間を制限する現行法も多くの人が支持している以上、民意に添ったものではある。ただ、それが原子力の安全に寄与するという技術的、合理的な根拠がなく、説明もされていない事をどれだけの人が認識しているだろうか。民意とは、斯様に脆いものなのだ。
2013-10-18 12:52:54以前に書いたものをいくつか紹介します。こちらは2012年6月のもの。内容はだいたい同じです。
ほぼ同じ内容の別のまとめ。
ぶたやまかーちゃんのリクエストに応えた、原子炉容器の中性子照射脆化に着目した解説。
1年ほど後の2013年5月、「耐用年数」という観点で解説したツイートがこちら。ボケ老人のように同じような話を繰り返していますが、高経年化対策で重要な「傾向監視」について少し具体的な話を紹介していたりもします。
原子力発電プラントの「耐用年数」については何度か書いていますが、安全な運転を維持できる寿命という意味では経済性を無視すれば半永久的です。ほぼ全ての機器は古くなれば取替が可能ですし、取替のできない建屋や格納容器も補強は可能です。
2013-05-09 19:14:10現実的には、要求される安全性を担保するための費用と、発電所を維持、運転することで得られる利益を比較すればある時点で費用が利益を上回り、それ以上維持し続けることは経済的な合理性がなくなります。この経済寿命が、実質的なプラントの寿命と言えます。
2013-05-09 19:14:35設計上は、60年程度の供用期間を想定するのが一般的です。土木・建築設備のコンクリート構造物、取替に多大なコストが掛かる原子炉容器などの大型機器は60年間使う事を前提に設計し、劣化の傾向を監視しながら使うのが一般的な運用です。
2013-05-09 19:15:02例えば原子炉容器であれば、支配的な劣化事象は中性子照射による鋼材の脆化です。炉内に最初から入れてある試験片を定期的に取り出して脆化の進行具合を確認し、あとどれくらい照射を受ければ安全性が担保できなくなるかを計算しています。
2013-05-09 19:15:16中性子照射量は運転のやり方やトラブルなどで停止している期間にも依存するので、設計時の想定とは変わってきます。また、実験などから推定した脆化傾向と実機での傾向が異なる場合もあるため、実際に試験片を調べて確認するのです。
2013-05-09 19:15:2950年程度で予め決めたレベルまで脆化が進んでしまうのであればそれ以上運転するには何らかの対処が必要になりますし、逆に60年を超えてもまだまだ余裕があれば他に悪いところがなければ引き続き安全に運転できることになります。
2013-05-09 19:15:39コンクリート構造物については、中性化や塩分浸透など様々な経年劣化事象がありますが、いずれも最終的には中の鉄筋が錆びることで強度が失われます。劣化は外面から内部に向かって進行するので、一番外側の鉄筋まで到達するまでが寿命ということになります。
2013-05-09 19:16:29適切に設計・施工されたコンクリートは気象条件などが厳しい環境でも100年以上持つので、構造物を部分的にでも破壊する試験は頻繁には行いません。60年使うつもりなら、30年目あたりで一度破壊試験で劣化の進行具合を調べれば60年間の供用に対する性能を評価できます。
2013-05-09 19:16:41具体的には劣化が表面から何cm内側まで進行しているか調べ、表面から一番外側の鉄筋までの距離(被り厚さ)に対してどの程度かを評価します。30年目で1/4しか進んでいなければ、あと30年経っても鉄筋まで到達することはない、と評価できます。
2013-05-09 19:16:55原子力プラントに限らず、長く使う設備の検査というのはこのように検査の時点で合格かどうかだけでなく、あと何年で不合格になるかまで調べるのが一般的です。予定している供用期間までに不合格になると評価されれば、それまでに当該部分の補修なり交換なりを計画します。
2013-05-09 19:17:13原子力発電所について、従来日本では設置の際に60年の運転を前提に国が審査し、運転開始から30年目以降は10年ごとに経年劣化を評価し、次の10年間の運転に対して認可を出すことになっていました。適切な補修で認可を受ければ制度上は60年を超えた運転も可能でした。
2013-05-09 19:18:00今年7月に施行される新規制では原子炉の運転を原則40年に制限することが明記されますが、この40年という数字には何ら技術的な根拠はありません。劣化の傾向監視と定期的な再評価が前提であれば、規制で運転年数に制限を設けることに安全上何の意味もありません。
2013-05-09 19:18:26世界的にも原子力プラントの運転年数に規制で制限を設ける例はほとんどなく、ロシアとチェコが設計寿命を30年に定めているくらいです。ただし、期間更新は可能です。運転認可を期限付きで与える例が多く、認可更新の際に再評価を行うのが一般的です。
2013-05-09 19:18:47アメリカは最初に40年の運転を認可し、その後20年ずつの認可更新をする方式です。既に多くのプラントが60年までの更新を終えており、次の80年までの認可更新を検討しているプラントもあります。
2013-05-09 19:19:10