【twitter小説】箱の世界#1【幻想】
リクルは不思議な箱を持っていた。子供の頃、おもちゃ箱の中で見つけた不思議な箱。それは何の変哲もない手のひらサイズの木箱に見えた。黄色い塗装ははげ落ちていて、かなり古いものに見える。箱には鍵のない蝶番式の蓋がついていた。 1
2013-11-07 17:01:32子供の頃からリクルはこの箱を覗いては暇を潰していた。というのは、箱を覗くと素晴らしい景色が見えるのだ。それは知らない街を空の上から眺めることができる景色だった。街には人影が見えないが、夜になると電気の灯りでぴかぴか光っていた。 2
2013-11-07 17:07:07それは異世界に通じる扉なのだろうか? 一度リクルは両親に箱を見せたことがある。だが両親は、箱はただの箱にしか見えない。そんな街なんて見えないというのだ。そして箱が捨てられそうになったので、この景色は以後秘密の楽しみになった。 3
2013-11-07 17:09:50リクルが青年になっても、その街の景色はリクルを魅了した。時が経つにつれ、街がどんどん発展していくのだ。知らない建物がどんどん建っていき、新しい公園ができたり、線路が出来たりした。今ではもう列車が通っている。 4
2013-11-07 17:14:48しかし相変わらず人間の姿は見えなかった。建物が建設されていても、工事のひとは見当たらない。犬や鳥などの動物の影が見えても、誰ひとりとしてリクルの目には映らなかった。それだけは彼にとっては残念なことだった。 5
2013-11-07 17:17:53この街は何と言う名前なのだろう、どこかにあるのだろうか? リクルはいつもこの街について空想していた。いつか……出来ることならば訪れてみたい。そこで見るのはやはり無人の街なのだろうか? 6
2013-11-07 17:21:09街はどんどん発展していく。リクルの街もまた都市開発の波に押されてどんどん発展していった。リクルは自分の住む街とこの箱から見える街を重ねずにはいられなかった。森は切り開かれ公園になり、田畑は埋め立てられ住宅街になっていった。 7
2013-11-07 17:23:56ある夏の暑い日、リクルはいつものように箱を覗いていた。箱の中の街も夏の暑い日差しを受けて輝いていた。木々はうっそうと生い茂り、枝葉を伸ばしている。そのとき、いつもと同じ街の景色が今日は違っていることに気付いた。街の大通りを……誰かが歩いているのだ! 8
2013-11-07 17:26:19それは……米粒のように小さいはずの人影だった。だが、リクルにはその表情さえはっきりと見ることができた。その人影は……優しそうな顔をした、サマードレスの娘だった。 9
2013-11-07 17:33:50リクルは驚いてその娘を凝視した。だが、娘と視線は交わることはない。娘は路地裏に入っていき、そのまま見えなくなった。始めて見つけた人間。だが、その出会いはあっさりとしたものだった。 10
2013-11-08 16:37:06しかしリクルはどこか奇妙な感覚を覚えていた。その娘を見たのは初めてではない気がするのだ。どこかで会ったような……それも無意識的にすれ違ったような、そんな気がするのだ。どこで彼女と出会ったのだろう。どこへ行けば彼女と出会えるだろう。 11
2013-11-08 16:42:23それ以上じっと見ていても街の様子は変わらなかった。それより、リクルは彼女に会いたくてたまらなくなった。彼女はどこにいるのだろう。外へ出てみれば会えるのだろうか。リクルは何も考えずに支度をすると外へと飛びだした。 12
2013-11-08 16:49:27この街で出会えるかは分からない。ただ、家でじっとするよりましだろう。リクルはあの箱の世界が意外と近くにあるような気がして胸が高鳴った。街は昔の田舎っぽさを失い大分都会のように発展していた。街の大通りには人混みが溢れる。 13
2013-11-08 16:52:39行き交う人々の顔をつぶさに観察する。あの人でもない、この人でもない……リクルは必死に箱の中に見た娘を探した。だが、小一時間探しても成果は得られず、日は傾きつつあった。勢いだけで街へと飛びだしたが、無駄に終わったのか……。 14
2013-11-08 16:57:07諦めかけていたその時である。水色のサマードレスが視界の端を横切った。慌ててリクルは振り返る。すると、たしかに箱の中に見たあの娘が、街中を歩いていたのだ! リクルはその時のときめきを忘れないだろう。まるで運命の人を見つけたかのように。 15
2013-11-08 17:01:58人混みをかき分け、リクルは娘の後を追った。声をかけようか、どうしようか。葛藤がリクルを襲う。だが、娘の足取りは軽やかで、急いで追いかけないとどんどん間を離されてしまうのだ。しかしリクルは思った。 16
2013-11-08 17:04:54このまま彼女を追いかけていけば、あの街に辿りつけるのではないか……? 夢が急速に膨らむのを感じる。あの街の秘密が分かるかもしれない。誰も知らない、自分だけが知っているあの街に辿りつけたら……。 17
2013-11-08 17:08:39娘は軽やかな足取りで路地裏に入っていった。そこはひともいないので離されることはないだろう。少し遅れて、リクルも路地裏に入った。しかし、さらに娘の速度が速くなり、リクルは必死に走らないと置いてかれてしまいそうになった。 18
2013-11-08 17:12:24路地裏をどれほど進んだだろう。これほどまでに街が広いとは思わなかった。煉瓦で出来た壁は両脇に高くそびえ、勝手口のドアは雨風で風化している。自転車や植木鉢が路地裏に放置されていた。そして、とうとう視界が開けたのだ! 19
2013-11-08 17:14:56開けた視界の先に広がっていたのは……あの、箱の中で見た街だった。リクルは興奮して辺りを見回した。夕暮れの街角は見覚えがあるものばかりだった。あの建物も、この公園も……この道路も! 全てが箱の中そっくりだったのだ。 20
2014-03-01 11:19:36街の様子に気を取られながらも、サマードレスの娘を追いかける。あの娘はこの街の住人なのだろうか? 自分と娘以外の人影は見えなかったが、やはり建物にはどれも明かりが灯っている。 21
2014-03-01 11:21:50遠くから踏切の音が聞こえてくる。やがて列車の走る音がだんだんと近付いてきた。娘はガード下の闇に消えていく。追いかけると、丁度列車が上を走り凄まじい音がした。リクルは列車を見上げる。列車は明かりが灯っているがやはり人影は見えない。 22
2014-03-01 11:24:22娘はすでにガード下の闇を抜けて光溢れる街の大通りへと歩いていくところだった。リクルは必死に走って追いかけているのだが、一向に差は縮まらない。彼の息はあがり、そろそろ体力が限界だった。このままでは……見失ってしまう。 23
2014-03-01 11:31:07