ストレイトロード:ルート140(4周目)
- Rista_Bakeya
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当初は一晩の野宿の後すぐ出発と決めていたが、藍の提案でその場所を探索することになった。夜が明けると同時に廃墟は無残な姿を私達の前に晒した。屋根だけを失った建物が並ぶ大通りに冷たい風が吹く。「ここで何をしたかったのかな」枝を広げた枯れ木が、この地に破壊をもたらした怪物の影に見えた。
2014-03-15 22:14:37藍は車の屋根に上り、膝を抱えて座った。夕方になっても降りて来ない。「どうしました」「別に」昨日、彼女は悪人を懲らしめようとして逆にやり込められた。以来ずっとこの調子だ。「お腹空いてませんか」「別に」膝の間に顔を埋められた。表情が見えない。「寒くないですか」「別に」膝が震えていた。
2014-03-16 21:03:20不幸とはつまり望んだものが手に入らなかっただけのこと。それだけでは嘆く材料にならない、と藍は断言する。「そんな状況だからしょうがないって文句言うなら、何が欲しかったのか具体的に考えなさいよ」説教の相手の心に届いているかは分からない。だがかつて不幸を嘆いた私の心は深く抉られている。
2014-03-17 19:24:22幹線道路の右手に沿って続く壁は、地図上では軍事基地の端だという。銃を抱えた兵士が等間隔に配置されていた。藍は車の窓から見えるヘルメットを数えていたが、左折して壁から離れるなり言った。「あの人たちも本当はお偉いさんより家族を守りに行きたいのかな」「あれも家族を守る方法の一つですよ」
2014-03-18 19:53:28真新しい石で舗装された道を歩いていると、すぐ目の前で揺れていた髪が急に視界から消えた。立ち止まり見下ろした時、もう藍は体を起こしていた。泣き言は一切言わない。汚したスカートの裾を叩いた後、足元の舗装を片足で執拗に蹴っていたから、周囲から少しだけ浮いた石を転倒の犯人にしたいようだ。
2014-03-19 19:08:26投げられた矢は一直線に飛んで的の中心に刺さった。店の一角で歓声が上がる中、今日の最高得点を叩き出したという男に藍が声をかける。技術を教えてくれと頼んだらしい。男は少女を邪険にせず仲間の輪に迎え入れた。それも大人を相手にするようなやり方で。藍は満足げな顔で矢を持ち、的の前に立った。
2014-03-20 19:13:00藍は桟橋を離れた船と競うように陸と海の境界線を走った。追っているのは昨日まで世話になり、私達を面倒事に巻き込みもした人。岬に着いた彼女は息を切らしながら足を止め、手でも振るかと思ったら、悪口にしか聞こえない一言を叫んだ。言葉を乗せた風が吹く。私はそれが船上に届かないことを願った。
2014-03-21 21:40:06「わたしもだけど、あいつも無敵ってわけじゃない。出し抜く方法が必ずあるはずよ」藍が端末を睨む。ライバルがメールを通して挑発してきたらしく、いつもより言葉の刺が鋭い。私が画面を覗こうとしたら、体ごと向きを変えて阻止された。「だから作戦考えて」「一緒に?」「一人で考えたければどうぞ」
2014-03-22 21:44:26私達は立ち寄った街で買い物に出た。ところがどの店でも、店員が藍を見るなり早く連れ帰るようすすめてきた。この街で猛威を振るう病気を心配してのことという。「それ、わたし前にかかった」話を聞いた藍は驚く様子もなく言った。「免疫まだあるから大丈夫」過信は良くないと言ったが反応はなかった。
2014-03-23 18:43:50脅威に襲われた街を更に騒がせた責任を感じ、私は藍の暴風が荒らし回った跡の片付けに加わった。元は家だったという瓦礫の山を解体していると、本人が現場に現れた。「これくらいわたしもできる」と働き始めた藍だが、途中から建材の木目に興味を持ち、顔のような形を集め始めた。何か始める気なのか。
2014-03-24 19:27:46@sousakuTL 顔らしいものを木目の中に見つけて、表情を茶化してセリフ付けてみたり落書きしてみたりするのが藍。 顔も見るけど木目から本来の形状を想像しようと試みたり板自体に関心を向けたりするのがゼファール。
2014-03-24 19:35:33野球は幼い頃に友人と遊んで以来になる。久しぶりに握った白球は記憶と少しだけ違う手触りで、思ったより軽かった。振りかぶり、甘めの球を正面へ投げると、藍が全力のスイングで応えた。「手抜き禁止!」使い込まれた借り物のバットを突きつけられた。彼女も遊び慣れていたらしい。意外な気はしない。
2014-03-25 23:16:12側を離れた数分の間に藍が消えた。私は街中を走り、端末への接続を試み、警察を訪ねようとしたところで風向きの変化を感じた。一区画だけを襲う豪雨を目撃し、迷わずその下へ急ぐ。「わたしを誘拐しようだなんて千年早いのよ!」古い倉庫の中から声が聞こえた。私が重い扉を開くと、藍は不敵に笑った。
2014-03-26 21:30:18