アイヌアニメ第二話『赤ん坊の知らせ』

アイヌ文化研究者・丹菊逸治氏による解説。
1
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。さて、赤ん坊が泣いてばかりいるので、若いお母ちゃんは育児ノイローゼ気味である。赤ん坊はまだカムイ「神」と同じで、人間と簡単に意思疎通ができるわけではない。いくらなだめても簡単には泣き止んでくれない。

2014-04-13 19:45:33
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。ここで母親が「昔ある村に~」と回想を始める。ここまでは陰影の濃いリアル調の絵だが、ここからは陰影のない記号的な絵に変わる。服の模様などもぎりぎりまで簡略化してある。

2014-04-13 19:46:54
丹菊逸治 @itangiku

@masudado ありがとうございます。専門外だったので正直いって大変でした。でも他業種の方と一緒に仕事ができたのはいい経験になりました。

2014-04-13 19:50:06
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。ここからは一種の劇中劇。母親が語る「ある村の話」である。その村でもやはり赤ん坊が泣き止まなくてみんな困っていた。しかもこっちは「お話」つまり一種の「寓話」なので、母親だけじゃなくて村中が困っていた。

2014-04-13 19:51:10
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。その家では夫がいるので、神様にしっかり祈ってくれる。女性と違い男性は本格的に神に祈ってよい。トゥキ「台つきのお椀」に入れたお酒をパスイと呼ぶ棒で垂らして祈る。

2014-04-13 19:53:09
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。アニメではお椀にお酒は入っていない。これは記号的表現(人形劇みたいな)。現実に祈るときにはもちろんお酒(いわゆる濁酒)が入っている。

2014-04-13 19:54:04
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。それでも赤ん坊は泣き止まない。そこで今度は村の男性が総出で祈る。漫画ですね。現実には、赤ん坊が泣き止むように村中で祈るなんてことはありえない。もちろんフィクション。

2014-04-13 19:56:16
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。イナウを削っているナイフの先には木片がついている。これはイナウを削るときのガイドになる。うまくはめると、力をかけて削っていても抜けたりしない。

2014-04-13 19:57:55
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。まず山のカムイたち(神々)に祈り、次に海のカムイたち(神々)に祈る。イナウ「木幣」は神々への贈り物である(神体でもある)。イナウは棒の先につけて長くする。それらを台に何本か立てる。台には模様入りのゴザを立てかけてある。

2014-04-13 19:59:33
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。男性たちは正装している。よく見るような伝統衣装服を着て、その上にベストのような袖なしの服を着ている。「陣羽織」である。赤い服もそれ。

2014-04-13 20:02:21
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。また、男性は頭に儀礼用の帽子のようなものを被っている。いずれにしても服装はかなり簡略化(デフォルメ)されている。

2014-04-13 20:04:15
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。ところで彼らは何を祈っているのか。話の流れからすると「赤ん坊が泣き止ませてくれ」と神にお願いしているようにも思えるが、そんなわけはあるまい。山への祈りは山仕事の無事と成功を、海への祈りは海での仕事の無事と成功を祈る。

2014-04-13 20:05:02
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。もちろん実際に二つ祭壇がある事例もあるが、ここでは「山と海」という一種の対句のようにしてこの二つの祈りが歌われただけだ。そして今回は続けて「海への祈りによって海の幸がもたらされた」ということが歌われる。

2014-04-13 20:07:31
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。鮭鱒の遡上やカジキマグロ漁など、季節的なものと違って、特にイレギュラーな神の恵みといえば「寄り鯨」つまり、鯨が浜に打ち上げられることである。

2014-04-13 20:08:34
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。アイヌ民族も伝統的に捕鯨をしていたが、近代の記録は地域的に限定される。また、少なくとも記録から見る限りはそれほど盛んだったとは考えられない。むしろ「寄り鯨」の利用が主だったようだ。

2014-04-13 20:10:51
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。さて、このアニメの『赤ん坊の知らせ』というタイトルはなかなか詩的でよいが、実はこの話は「予見不可能な寄り鯨を赤ん坊が知らせてくれた」というわけではない。

2014-04-13 20:12:28
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。「赤ん坊が泣き止むようお祈りしたけど泣き止まない。そのうち寄り鯨があがった。赤ん坊が泣いていたのは寄り鯨がくることを知らせようとしていたのだ」というのは「字面の解釈」である。

2014-04-13 20:18:30
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。実際には「海に祈ったら、寄り鯨があがった。赤ん坊も嬉しくて泣き止んだ」ということである。「赤ん坊が泣き止まないから海に祈った」という歌詞をそのまま受け取ると「字面の解釈」に陥ってしまう。

2014-04-13 20:21:48
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。「赤ん坊が泣き止まない→海に何かを祈る→寄り鯨があがる→赤ん坊が泣き止む」の流れで重要なのは、海に何を祈ったのかということである。何を祈ったのかは実は語られていない。

2014-04-13 20:24:46
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。海に祈った内容は、詩的には「赤ん坊が泣き止みますように」であり、現実的には「食料(寄り鯨など)をください」である。

2014-04-13 20:27:56
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。リアリズムで考えれば「食糧不足で母の乳の出が悪い→ひもじくて泣く赤ん坊→海へ食料祈願の祈り→鯨が打ち上げられる→食料がいきわたる→母も乳が出る→赤ん坊も嬉しくなって泣き止む」という流れであろう。

2014-04-13 20:28:48
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。まあ、そこまで即物的かどうかは別として。いずれにしても、ここではリアリズムのまま歌詞が構成されるのではなく、詩的に再構成されている。これが子守唄のジャンルとしての特徴である。

2014-04-13 20:29:57
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。これは前回の「60のゆりかご」において、「『眠り』とは、天上のラマッカラカムイの元で転生を待つ赤ちゃんたちの泣き声が地上に降ってきたものだ」をそのまま受け取ってはいけないのと同じ。

2014-04-13 20:31:43
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。前回の「60のゆりかご」の最後の部分は、「赤ん坊は、ラマッカラカムイの元にいた頃のかすかな記憶があるから、そのことを話して聞かせると泣き止むのだ」という意味である。子守唄にはこういった論理の転倒がよくみられる。

2014-04-13 20:32:29
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第二話『赤ん坊の知らせ』。なぜ「論理の転倒」が子守唄によくみられるのかは分からない。ここから先は完全に推測。子守唄というのはその性質上、「泣いている子供」からスタートする。だが、歌い手はまるでそうではないかのように内容を作る。

2014-04-13 20:34:50