「千の想いを」~第三章・境界・固定イベント「演習」#3~
- mamiya_AFS
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常磐は笑う。 鎮守府創立の頃、艦娘という存在がまだ有名ではなかった時から彼女は笑っていた。 現代社会に於いて無用の長物であると諦めていた才能が、有意義に活用できる場を手に入れたのだから。 彼女は開発班に身を置きながら自ら戦地に赴き、思うままに破壊をばら撒いた。
2014-03-29 02:36:00常磐は笑う。 潜水艦という、厄介な敵が現れた事により、迅速に対策を用意する事を申し付けられたから。 彼女は類稀なる頭脳と技術をもって、優秀な機雷を造り上げた。 完璧な仕上がりであった。 その機雷だけならば。
2014-03-29 02:38:42常磐は笑う。 誘導を任せた艦娘達が見事に失敗し、用意した作戦が全て無駄に終わっても。 その失敗が故意に行われた事を、陰で聞いてしまったのだから。 上層部は他の開発部が造り上げた機雷と、それを最も的確に使用できる五十鈴を前線に駆り出した時ですらも。
2014-03-29 02:42:27常磐は笑う。 駆逐艦よりも速く、軽巡洋艦よりも器用に、重巡洋艦よりも勇敢に、戦艦よりも誰よりも、武器を扱い戦う事ができるのだから。 仲間が1人、また1人といなくなってきた頃から、彼女は笑顔が何なのかを見失ってきたが。 それでも彼女は笑った。
2014-03-29 02:45:55常磐は笑う。 龍田が負傷した事により急に前線に呼ばれる事となり、その際に運悪くミスして撃破数を上げられないまま負傷した時も。 ああ、こういう事なんだ、と理解してしまった時も。 気付けば第一支援艦隊創立メンバーの代表にされていた時も。
2014-03-29 02:48:24常磐は笑う。 なんでもできるという事は、全てをほどほどに済ませておける、という事でもあるから。 常に笑顔で誰とも衝突する事も、敵対する事もなく。 されども、一定以上の距離を詰める事もなく。
2014-03-29 02:49:57常磐は笑う。 所属する艦隊が解散し、新しい支援艦隊に回されて、そしてその艦隊も解散する事となっても。 ただ、流される日々であったとしても。 第十五支援艦隊が設立された時も、彼女は笑っていた。 今までと変わらないと思っていた。
2014-03-29 02:51:36常磐は笑う。 天龍が言った。 「なんで作り笑顔してんだ?」と。 千代田が言った。 「んー? お腹痛いの我慢してる?」と。 千歳が言った。 「千代田が何か失礼な事をしましたか?」と。 常磐は笑っていたのに。 常磐は笑って…いた、と思っていたのに。
2014-03-29 02:54:39常磐は笑う。 龍田がむにむにと頬に触ってきた。 夕張が工具箱を持って工廠へと引っ張って行った。 伊吹が常磐の能力を一目で見抜いて色々聞いてきた。 提督が何も言わずに肩を叩いてくれた。
2014-03-29 02:57:09常磐の築いた光景を前に、夕張と伊吹が唖然と声を漏らす。 嬉しそうに、だけど少し寂しそうに常磐が2人の仲間の背を見る。 そんな常磐の両肩に千代田が勢いよく抱き着く。 「すっごいじゃん、常磐! 流石っ!」 屈託の無い笑顔が。
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