IF戦闘:雨綴vs影纏

影纏≪@s_akiyui≫ 雨綴≪@hakujo_
0
紺青ものえ @almiyy

「いこせ、」 『その先を観よ』 「やまずのしるしとして」 『対価は依代たる形』 「うぎょう、そうぜんとし――じゅうせ」 『雨業の稲神、騒に斎いて、御書の言葉に――』

2014-04-22 20:04:46
紺青ものえ @almiyy

立て続けに口にした言葉は甘やかに響き、数十の赤錆の紋が天高く昇り真上で停止、そして斜めに蜿蜿と割れ、ずれる。ずれて、色を変える。青混じりの黄色。 それとほぼ同時、迫る影を青年は直前で半歩横へ躱し、伸ばした手。肘から先を落とす。

2014-04-22 20:05:08
紺青ものえ @almiyy

次に来る刃は間に合わないと、残った獣を壁とし、 「……ぐぅっ」 しかし防ぎきれず、腹部に熱と深い傷み。その感覚に眉を寄せる――と、落ちた腕が粒子になり消えた時――『墜ちよ』と無情に響いた。 直後。 赤錆の紋を砕きながら、真下目掛け、細く堕ちる土砂降りの落雷を振り落とし。

2014-04-22 20:05:23
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「うふふっふふふっふふっ」 彼は男の声を拾い、楽しげに身体を揺らす。ふらり、ふらり。零れる笑みは止まることなく、己の影もまた揺らめく。天高く昇った何かに首を傾げながらも、影の刃が男の身体を抉ったことに声を上げた。瞬間。 眩い閃光。咄嗟に、影を壁のように自身の周りに展開した。

2014-04-22 21:48:53
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

しかし、防ぎきることなど影には出来ず。 「ッぁ——!」 悲鳴を上げる。何が起こったのか、何をされたのか、明確なことは彼には分からなかった。酷く痛む身体。明滅する意識。ふらりとよろめくままに膝をつく。それでもなんとか両手をついて身体を支える。揺れる影は力を無くし、その動きを止める。

2014-04-22 21:49:56
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

呼吸は徐々に小さくなり、やがてその身体は倒れ—— 「……んふっ」 ——しかし、彼は笑った。

2014-04-22 21:50:12
紺青ものえ @almiyy

耳を劈いた爆音と光に目を伏せ、青年は音を立て崩れた獣の頭と影を強く払う。自分の腕に引き摺られふらつくのを耐え、ぼたたとしとどに落ちた赤と水のように広がった青い石、そして、落雷の先。 「あ、ぐ…、」 熱と痛みを怺え、一歩進む。一歩毎に痛みが薄まり、しかし赤の流出は変わらず。

2014-04-23 17:16:37
紺青ものえ @almiyy

倒れ、しかし笑うそれに銀朱を向ける。笑っているのは楽しいからだろうか。楽しいというものに理解を示せはしないが、不思議でならない。本当に、 「――楽しいか?」 体温が緩慢に下がる中、無意識ながら確かに口をついた言葉は血混じりに。

2014-04-23 17:16:41
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

足音。近付く。近付いて来る、音。 「ふふ、はは、……楽しい?楽しい?はは、はは」 身体を起こせない。力が入らない。動くことが出来ない。逃げることが出来ない。しかし彼は笑う。うっとりと、何かを見たかのような、悦に浸って。 「楽しい、楽しいよ、楽しい、そう、楽しい。だって、そう、」

2014-04-23 21:50:43
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「そう、君が、君が、君が、君が、君が、君が、君が、君が、」 掠れた声で、誰に届くかもわからない小さな声で繰り返す。 「——帰ってくるから」 祈りにも似た、その、言葉は。先刻までの彼と同じ人物とは思えぬほど、穏やかで、優しげで。 「ふふ、ふふ、ふ、ふは、はは、」 まるで。まるで——

2014-04-23 21:51:36
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「ふふ、ふ、ふ、ふふ、ふふ、ふは、は、はっ、あはっ、ははっ、は、ははっはははははははははははっあはははっははっははははははっ!」 ——今初めて歯車が狂ったかのように、声を上げて。高らかに声を響かせて、隠れされた目から何かを流して、身体を震わせる。呼応するように、影が揺らいで。

2014-04-23 21:53:15
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「そうだ!そうだ!ははっ!はははっあははっあはははははっ!!ねえ!!ねえ!!掠った!!触れた!!掴んだ!!溶けた!!ははっあはははっあははははっ!!ねえ!!ねえ!!ねえ!!!あははははははっ!!!」 腕が生える。影から——"全ての"影から。彼だけでなく、男の影からも、腕が生える。

2014-04-23 21:53:31
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

彼は操り人形のようにゆらりと起き上がり、空を仰ぎ、両腕を広げ。 「——早く帰っておいで」 そうして、小さく囁いて——優しく微笑んだ。 数十もの腕が男に伸びる。その身体を捕らえ、引き裂き、闇の底へ引きずり込まんと、全ての影が男に牙を剥いた。

2014-04-23 21:54:02
紺青ものえ @almiyy

凪いだようなそれに眉を顰め、言葉を、ただ聞いてしまっている。大量の赤を落とし、片手で押さえても無意味な大きさの傷を抱え、また一歩近付き、止まる。それは興味か、時間への憂いか、いや、重い体を動かすだけの体力が無いのだと青年はその思考を捨てる。 選択は常に正しきを巡る、と。

2014-04-23 22:47:08
紺青ものえ @almiyy

「それは『楽しい』に繋がるのか。そうか、」 興の削がれる答えだ、と独りごちて、間。そのほんの数瞬の重なりのような穏やかさを、破壊する笑い声が満ち、犇めいて。 影が塞いだ。 黒い影の腕。幾重も重なったように増え、それは足元、己の影からも姿を現し、 「―――!」 ぞっとする。

2014-04-23 22:47:12
紺青ものえ @almiyy

口を一瞬開きかけ、歪める。弧へ。笑みへ。厭わしそうな微笑みをゆったりと浮かべて、凄惨なほどに赤い銀朱が遠くの星を映す様に耀き、 「ふ、はは――触るな」 腕を足を腰を肩を首を無遠慮に掴む『腕』を睨めつけ、

2014-04-23 22:47:20
紺青ものえ @almiyy

「…せっすことのぞまず、うがたつものへと」 『我に触れし者へ、罰を』 「…みがちの…しるしと、して」 『対価は依代より落ちたる赤』 影に沈み込む足を腰を、引き裂かれた傷口を、微笑い見て。 「…われごと、しとせ…」 『――射れ』

2014-04-23 22:47:31
紺青ものえ @almiyy

青の背後、隠すように周囲の光が収束し、しかし広がらず楕円の輪を形成し、中央――真白き光からなる鋭い槍が一つ構えられ。 無音。しかしそれは穿たれ、風を切る音もなく、影に沈み行く、青年を当たり前のように貫き魔力とその意識を掠めて奪い、真っ直ぐに、振れなく、天を仰ぐ者へ、疾走り。

2014-04-23 22:48:08
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

影が男を掴む。引き摺り込んで行く。 「ふふっ、ふふふっ、ふふ、ふふ、君を作ろう、新しい身体、君を作ろう、そうしたら、そうしたら、そうしたら君は——ねえ、」 彼はその様を喜んだ。控えめな微笑。心の見えない曖昧な笑みを唇に刷いて、歌うように囁く。

2014-04-24 00:27:59
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「ふ、ふふ、今度のは、とても、とても、良いもの、ふふ、強い力、ふふふ、今度のは、ふふ、今度のは、きっと、きっと、ふふ、ふふ、ふふ、ふふ、君の、身体に、」 天を仰いだまま、まるで其処に誰かがいるかのように言葉を繰る。 「はは、はは、持って帰ろう、君の、君を、君が、ふふ、ふは、」

2014-04-24 00:28:29
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「はは、はは、動く身体、作るよ、ふふ、ふふ、きっと、きっと、成功する、ふふ、ふふ、ふふ、嬉しい、嬉しい、ふふ、ふふ、ふふ」 彼は昂揚していた。涙を流し、ようやくだと喜んでいた。だから、彼は気付かなかった。 放たれた槍。それが、男をも射抜いて、真っ直ぐに彼に向かってきていることに。

2014-04-24 00:29:21
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「ふふ、君、が、……」 そして、その槍が、寸分違わず彼の腹を貫いたという、事象に。 「きみ、が……ぇ…って……ふ……ふふ…ふふ、ふ、……ふ、ふふ、……ふ、……」 彼は笑いながら崩れ落ちた。天を仰いでいた時と変わらない微笑で、何が起きたのかも知らないかのように、笑い声を立てていた。

2014-04-24 00:30:14
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

その息は、徐々に小さくなり。 その身体は、徐々に黒く、影に溶けて行き。 それでも男を逃がすまいと、影の腕は動き続け。 最後に残っていたのは彼自身の腕だった。 何かを求めるかのように伸びる腕。 しかしそれも、次第に形を失い。 やがて彼は、影となって消えてしまった。

2014-04-24 00:31:14
紺青ものえ @almiyy

貫いた光は、遠くで瞬くように弾けて散る。 ――青年は自らを貫いたあとの光の軌道を、天を仰ぎ笑うそれを声も、貫く瞬間も、何も見る事はなく。影に埋もれた身体、その裡の魔力は制御と統制を無くし、魔力で出来た体は分解し、何も残さず何も出さず、消し去っていた。

2014-04-24 09:46:00