「『ま』シン・オブ・ヴェンジェンス」

きれぼし脳向けネタ忍殺SS ◆マロウスレイヤー◆ 第一部「ネオモヘミンチョ炎上H」より「『ま』シン・オブ・ヴェンジェンス」
4
sushi_izumi @89_sushi

ここからは更に名声が必要だ。伝説の『ユーシャ』となるべく、不動の名声が!胸に密かな覚悟の炎を抱き、ドット欠けを起こしている薄汚れた路地を進む。000000分ほど歩くと、「ネオモヘミンチョ・冒険者ギルド」のネオン看板が。目的地だ。路地裏に入る。 22

2014-08-22 14:41:53
sushi_izumi @89_sushi

「……」後ろで手を組んだ黒人バウンサーがギルド入口の傍らに直立している。2m以上あるだろうか。強面のバウンサーのサイバーサングラスがトキタを見据えた。トキタは内心身構えながらアイサツした「コンニチナ、トキタだぜ。アポあるんだけど……」「……」 23

2014-08-22 14:43:01
sushi_izumi @89_sushi

「……コ、コンニチナ!トキタ……」「王家、ボス。アポイントメント来客重点」バウンサーは通話機にノイズコアめいた声で伝えた。サイバグ声帯だ。バウンサーは無言で頷き、トキタに地下への階段を示した。「お、おう。失礼させて頂く……」頭を下げながらトキタは階段を下ってゆく。24

2014-08-22 14:43:24
sushi_izumi @89_sushi

トキタはすれ違いざま、彼の胸ポケットに名前が刺繍してあるのを見つけた。『スベリナ』。見た目とは合わない名前だな、とトキタは内心思った。 25

2014-08-22 14:43:37
sushi_izumi @89_sushi

サイバネティクス冒険者ギルド「マヘ」に流れるのは荘厳なイルーム・サウンドシステムのBGMだ。内装はにしきかげめいた艶のある黒で統一され、壁に穿たれたくぼみには、黒いバイオ空中花が奥ゆかしく飾られている。営業時間外であり、ホールにはモップをかけるサイバー名無ししかいない。 26

2014-08-22 14:43:53
sushi_izumi @89_sushi

「あのさァ、座っていいのか?どの席だ?」トキタはサイバー名無しに呼びかけた。サイバー名無しは手を止め、トキタを見た。中性的なか細い美貌で、その目は白目が無い、サイバーサングラス表面めいた漆黒だ。目には0や0が流れた。「オザキ?」サイバー名無しは呟き、作業を再開した。27

2014-08-22 14:44:02
sushi_izumi @89_sushi

「オザキ?」トキタはおうむ返しにした。「ごめたら、わからん!さっぱりわからん!のだが……」サイバー名無しは清掃を続ける。トキタは憮然と立ち尽くし、数分そのまま待った。やがて奥の部屋から目当ての男が現れた。「コンニチナ、はじめましてトキタ=サン。オウケ=ノノンです」 28

2014-08-22 14:44:25
sushi_izumi @89_sushi

ツルツル・ヘアーの頭頂部を氷ステージめいて磨きこんだオウケのオジギは、油断ならぬアトモスフィア。この男、元ウエカー選手だ。「コンニチナ。トキタだぜ」「変な名前ですね」オウケは言った。「おかけください」漆黒のソファーを示す。トキタは座った。身体が沈み込む。高級! 29

2014-08-22 14:44:45
sushi_izumi @89_sushi

「ビズのお話したいのですよね」オウケは向かい側に座った。別のサイバー名無しが歩いて来て、二人分のグラスを置き、トリップコーヒーを金属ボトルから注いだ。「(酒)は無しでいきましょう」「アジャドウ」トキタは一口飲んだ。オウケも飲む。「で、いい話ってのは」トキタが身を乗り出した。 30

2014-08-22 14:44:56
sushi_izumi @89_sushi

「単刀直入に言いましょう」オウケは言った。「貴方は『ユーシャ』を目指して各地を旅している。そうですね?」トキタは『ユーシャ』という言葉が出た瞬間、ぴくりと身を震わせた。そして力強くシャウトした。「目指すってのとは違うな。なぜなら俺は既に勇者だからだー!!うおーーー!!」31

2014-08-22 14:45:06
sushi_izumi @89_sushi

無言放送めいた静けさの店内に叫びが木霊した。「……なるまど」オウケが嘆息めいた返答を返した。「では言い直させて頂く。貴方は『ユーシャ』に相応しい名声を得るべく、各地を旅している。かまわぬな?」「ああ、それならいいぜ。」32

2014-08-22 14:45:21
sushi_izumi @89_sushi

「ホッホッホッ、そんなことは どちらでもいいでしょう」オウケが口の端で笑いながら、トリップコーヒーを口へと運ぶ。一息に飲み干し、トキタを見つめながらオウケは言の葉を継ぐ。「私達は貴方を見込んでこの仕事を紹介するわけではない。貴方が一番難しいクエストを紹介してくれ、と仰るので」33

2014-08-22 14:45:33
sushi_izumi @89_sushi

「あったりめーだろーー!!この伝説の勇者、トキタ様の名を広めるには大仕事をやってのけるのが一番手っ取り早いぜ!!」トキタは拳を突き上げながら叫ぶ。「さあ、つを使って説明してくれよ!一体何をやらせようってんだ?」「立退きです」34

2014-08-22 14:45:42
sushi_izumi @89_sushi

「え?」トキタは虚を突かれ、にしきがおめいた表情で呻いた。「たちのき?」「そうです」オウケは目を閉じ、ホワイト・カツラをかぶりながら続ける。「このネオモヘミンチョの入口には、一人の老人が居座っているのです。それだけではない。街に立ち寄った新参に嫌がらせをしているのです」35

2014-08-22 14:46:46
sushi_izumi @89_sushi

「そんな奴がいるのか?」「ええ。貴方は出会いませんでしたか?オジスカ?」トキタは拙い記憶の糸を手繰りながら答える。「うーん、こ……この街に来た時は、まずは街中観光するぜーーって、ダッシュで走り回ったからなー」幸運な男だ。オウケは胸の内で一人ごちる。だがバカな男だ。36

2014-08-22 14:46:55
sushi_izumi @89_sushi

「ともかく、その老人のせいでネオモヘミンチョはオオハマリ都市と思われている。これをなんとかしなければ死 それがここの掟ジイ」オウケはカツラを外した。気に入らなかったのだろうか。サイバー名無しがすぐに受け取り、代わりを取りに行った。37

2014-08-22 14:47:04
sushi_izumi @89_sushi

「しかし、なんで立退きさせられないんだ?ただの老人じゃないのか?」トキタの問いに、オウケはすぐには答えなかった。沈黙会。暫くして、サイバー名無しから代わりのホワイト・カツラを受け取ると、オウケは言った。「ただの老人ですよ。」本人が言うにはね、と胸中で付け加える。38

2014-08-22 14:47:43
sushi_izumi @89_sushi

「?」トキタは腑に落ちない顔でオウケを睨む。「ともかく、その老人を立ち退かせることが出来たのなら、貴方はこれ以上ない名声を得ることでしょう。ある意味、最難度のやりこみプレイと言ってもいい」新たなカツラをかぶりながらオウケは言った。「貴方にはぴったりの依頼だと思いますがね」39

2014-08-22 14:48:14
sushi_izumi @89_sushi

「ふーむ、ふむぐん……」トキタは思案した。よく分からないところはあるが、こと依頼に関し、ギルドの長が軽々に「まあ、嘘だけどね^^」とは言わないだろう。信用に傷が付いたらΩNDな商売である。ならば、本当に最難度の依頼なのだろう。依頼を受けない手はない。40

2014-08-22 14:48:23
sushi_izumi @89_sushi

「王家!!」トキタが叫んで立ち上がった。「は、はい!?」「任せとけよ!この勇者トキタ様が、その老人とやらをなかったことにしなんと!うおおーー!」オウケは呆気にとられ、カツラがずれている……事にも気付かなかった。「オウケ=サン?……はまだ 聞いているのか おい!」「はあ……」41

2014-08-22 14:48:36
sushi_izumi @89_sushi

ハイウェイから第1区画へのジャンクションには、輝かしいネオンで彩られた巨大な看板に「すべてのネオモヘミンチョ市民に豊かなバグライフを」と誇らしげな字体で書かれている。もちろん、こんな欺瞞を信じるものなど誰一人として存在しない。43

2014-08-22 14:48:58
sushi_izumi @89_sushi

第1区画。『機構』による酷薄なバグ開発によって土地を奪われた人々は、「トレーシー」と呼ばれる黒い窓なしのトラックに乗せられ、いわゆる『スラム』と呼ばれるこの区画に強制移住させられる事になった。ここはカオスの渦巻く巨大なバグルームである。44

2014-08-22 14:49:28
sushi_izumi @89_sushi

用のある者、無い者、黄色い人、にしきがお、芸術賞、観光客、迷子、自殺志願、にしコン出場者のスカウト、危険業務のスカウト、カレー・ラーメン店の呼び込み。表通りの喧騒は、このまま黄色い夜明けを迎えるその時まで絶える事がない。一方、路地をひとつ入れば、そこは、テイデンかミ。45

2014-08-22 14:50:18
sushi_izumi @89_sushi

正式な契約マキモノに署名をした後、トキタは早速この第1区画へと足を運んでいた。流れてくるポポリポポミュージックを聞き流しつつ、街の入口へと歩を進める。「実際バグい」「オニイサン、プレゼントスルヨサイバー!」喧騒も雑踏も嫌いではなかったが、まずは依頼を果たさねばなるまい。46

2014-08-22 14:50:54