ジカ熱・デング熱・チクングニヤ熱媒介蚊ヒトスジシマカのしたたかな生きざま

2014年、これまで懸念されてきたデング熱の国内感染が初めて確認されました。国内感染の媒介蚊ヒトスジシマカの驚異的で したたかな生きざまを紹介します。
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今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ16,18図] 乾燥が卵の死亡率と孵化率に及ぼす影響。 pic.twitter.com/oQ85n04ULY

2014-09-10 19:11:58
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今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ19] このように、産卵後24時間以上経過した卵は耐乾性を持つが、ひとたび乾燥を経験した卵は水に浸かっても容易に孵化せず、乾燥されなかった卵より強い孵化刺激を要求する。つまり、乾燥によって瞬化反応性が低下したわけである。これは、従来の常識を覆すものであった。

2014-09-05 20:51:23
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ20] 改めて明記しておくと、孵化反応性とは、同一の孵化刺激(溶存酸素濃度)のセットに対する孵化率のことで、孵化率が高いと孵化反応性が高く、孵化率が低いと孵化反応性が低いと評価する。

2014-09-06 19:46:13
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ21] これまでは、産まれた卵が経験した環境条件が孵化反応性に如何に影響するかを見てきた。ここからは、親世代が経験した生息環境のあり方が産まれた卵の孵化反応性に影響するかどうかを見てみよう。

2014-09-06 19:47:30
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ22] 親世代の幼虫を乏しい餌量で飼育すると、孵化反応性が低下した。つまり、親が幼虫時代に餌不足に遭遇すると、子世代も餌不足に遭遇する危険があり、それを回避するために、卵の状態で餌不足の時期をやり過ごすことのできる卵を相対的に多く産むのである。

2014-09-06 19:48:50
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ22表] 親世代の幼虫期の餌不足が孵化率を低下させる。 pic.twitter.com/RNPZsTAai3

2014-09-10 19:15:35
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今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ23] 親世代の成虫の羽化から吸血までの期間を長くすると、孵化反応性は低下した。本種は待ち伏せ型の吸血習性であり、吸血源が少なくて容易には吸血できなかった親は、卵の状態で吸血源の少ない時期をやり過ごせる卵を相対的に多く産む。

2014-09-06 19:50:11
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ23図] 親の吸血時期が遅れると、産まれた卵の孵化率が低下。 pic.twitter.com/JHIRkTMt2m

2014-09-10 19:18:38
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今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ24] 親世代の成虫を短日(8時間日長)・低温(20℃)条件に置くと、孵化反応性は低下した。実験に用いたのは、京都(温帯)の個体群であり、秋に短日・低温を経験した親は晩秋などに一時的に温度が上昇しても容易には孵化しない卵を相対的に多く産み、冬をやり過ごす。

2014-09-06 19:51:51
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ24表] 親が短日低温に曝されると、産まれた卵の孵化率が低下。 pic.twitter.com/hi9FaRGtK2

2014-09-10 19:21:18
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3.孵化率の調節による危険の分散

今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ25] 生物が生まれて成長し、子どもを残した後に死にいたるまでの過程を生活史という。生物は、その生活史の全期間にわたり、さまざまな環境条件に反応しながら生活し、より上手に反応することで自らの子孫をできるだけ多く残そうとする。

2014-09-07 20:56:16
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ26] 環境に対する生物の反応には、生活史の各局面において、いくつかの選択肢があり得る。そして、それぞれの局面における生物の選択の仕方を一生にわたって総合したものを生活史戦略という。

2014-09-07 20:57:03
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ27] 本種は年に何回も発生する多化性で、卵で越冬する。幼生期の主要な生息場所はカン、ビン、花たて、墓石の水ため、古タイヤ、竹の切株、樹洞、雨水枡、落ち葉が溜まって水が滞留している雨樋など、狭い陸水である。

2014-09-07 20:57:59
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ27写真] 発生源:竹の切り株と樹洞 pic.twitter.com/yM8o1KcE5S

2014-09-10 19:29:33
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今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ28] 平均幼虫期間は餌が十分な場合には20℃で10日、25℃で7.5日、30℃で5.9日、発育零点は9℃、平均踊期間は20℃で5.9日、25℃で2.4日、30℃で2.3日と推定されている(松沢・北原, 1966)。 ci.nii.ac.jp/els/1100038244…

2014-09-07 20:59:55
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ28図] 幼虫+蛹期の発育速度の温度依存性。松沢・北原(1966)のデータに基づき作図。3点しかないせいか、回帰関係は統計的に有意ではない(P= 0.106) pic.twitter.com/UoCvIjwPrA

2014-09-12 19:00:48
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今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ29] 昼間・薄暮吸血性。25℃で羽化から最初の吸血まで2日、その後の吸血間隔は5日と推定(Mori and Wada, 1977)。♀成虫は4-5mの距離から吸血源であるヒトを認識・定位する(Mogi ら1981)。 link.springer.com/article/10.100…

2014-09-07 21:07:39
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ30] ヒトスジシマカの卵群はさまざまな程度の孵化反応性を持つ卵から構成されている。孵化反応性、すなわちDO濃度-孵化率曲線は遺伝的に決定され、親世代の幼虫期の餌条件、成虫期の日長条件、羽化から吸血までに要する時間などに反応して変化するようにプログラムされている。

2014-09-08 20:21:43
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ31] 幼虫期に餌不足を経験した親はDO濃度がより低く、餌条件がより良くならないと孵化しない卵を相対的に多く産む。餌不足を経験した親は、経験しなかった親より慎重に、自分の子供が餌不足に遭遇するのを回避しようとし、そのことによってより多くの子供を残そうとする。

2014-09-08 20:22:41
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ32] 吸血源が少なくて吸血時期が遅れてしまった親は、孵化反応性の低い卵群を産みつける。これは、すぐに孵化(羽化)しないで吸血の困難な時期を卵のステージでやり過ごせる子供を相対的に多く残す戦術といえよう。

2014-09-08 20:23:37
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ33] 産みつけられた卵群は、上記のように個体群としての遺伝的特性と親世代が経験した環境条件によって、予め決められた孵化反応性を有する。卵は水面のやや上の湿面に産みつけられ、その後の水位の変動の影響を受けて実際の孵化率が変化する。

2014-09-08 20:24:28
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ34] 産卵後の降雨で水位が上昇して卵が水に浸かると、DO濃度に反応してある割合で孵化する。DO濃度への反応は餌条件に応じた孵化率の調節を可能にするばかりか、飽和に近い高濃度の時の孵化率を抑制して、大雨時のオーバーフローによる孵化直後の幼虫の流失を未然に防ぐ。

2014-09-08 20:27:38
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ35] 産卵後の水位が安定していて湿潤状態におかれた卵群は、飽和に近いDO濃度の水に浸かったときより低い割合で孵化する。産卵から胚発育の完了まで湿潤状態が続くということは、その間に降雨も厳しい日照りもないことを意味する。

2014-09-08 20:28:29
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ36] このような状態におかれた卵は孵化後の水位変動を予測できない。また、当然ながら産卵された場所の実際の水の深さも分からない。もし水位が浅ければ、孵化後の日照りで水が干上がり、幼虫が羽化するまでに全滅する危険がある。

2014-09-08 20:29:26