ジカ熱・デング熱・チクングニヤ熱媒介蚊ヒトスジシマカのしたたかな生きざま

2014年、これまで懸念されてきたデング熱の国内感染が初めて確認されました。国内感染の媒介蚊ヒトスジシマカの驚異的で したたかな生きざまを紹介します。
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今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ37] もし孵化幼虫が羽化するまで干上がらないほど水が十分にあるか、あるいは水位に関係なく孵化後に降雨さえあれば、早く孵化する方が短期間に世代を繰り返すことができ、多くの子孫を残す上で有利になる。

2014-09-08 20:30:13
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ38] このような先行き不透明な状況に対応するため、湿った状態におかれたときには水に浸かったときより低い率で卵を孵化させる戦術が採用されたのであろう。

2014-09-08 20:30:55
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ39] 水位が低下して乾燥状態におかれると、全ての卵が発育停止状態になるとともに孵化反応性を低下させ、再び水に浸かった後もDO濃度が低くなるまで高率には孵化しなくなる。乾燥による孵化反応性の低下は明瞭な乾季と雨季がある原産地域でとくに有効であろう。

2014-09-08 20:31:32
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ40] 乾燥状態を経験した卵は、乾季の途中の一時的な降雨で水に浸かってもすぐには高率に孵化せず、その後の日照りでハビター卜が干上がってしまう危険に対処する。水に浸かった状態が一定期間継続され、微生物等の活動が活発になってDO濃度が低下してから大部分の卵が孵化する。

2014-09-08 20:32:22
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ41] これら水位の変動に対する孵化率の調節は、不安定な水域に対する巧妙な適応策であり、卵が水面のやや上に産みつけられることによって可能になっている。

2014-09-08 20:33:04
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ42] 成虫期に秋の短日条件に曝された親は、DO濃度が極端に低下しないと孵化しない卵を産み、冬を迎える前に孵化する子供の比率を極端に少なくする。これは、温帯の見虫で普遍的にみられる「越冬のための光周反応」と同様の適応様式と考えていいだろう。

2014-09-08 20:33:57
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ43] 越冬中に寒さを経験した卵は、低温の影響で孵化反応性を若干回復させる。春になって温度が上昇し、水中バクテリアによる有機物の分解などでDO濃度がある程度低下すると、越冬前より容易に孵化する。

2014-09-08 20:34:41
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ43表] 低温に曝された卵の孵化率は、若干高くなる。 pic.twitter.com/aW5mBKa18U

2014-09-10 19:34:54
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今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ44] このように、本種は成虫期の光周反応と卵期の低温反応を組み合わせることによって、温帯地方での卵越冬を可能にしている。

2014-09-08 20:35:31

4.生活史戦略の進化

今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ45] ヒトスジシマカの卵の孵化率の調節能力は、モンスーン熱帯の厳しい乾季がもたらす危険の分散機構として、まず進化したのであろう。時間的に不安定だが空間的に安定な生息場所への適応として、移動ではなく卵期の発育停止による時間的な避難戦略を採用した。

2014-09-09 19:16:19
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ46] ひとたび「移動しない戦略」が採用されて進化の過程が進行すれば、生活史に関する他の諸形質も「移動しない」ことを前提に、いわば「移動しない戦略」に伴って進化せざるを得ないであろう。

2014-09-09 19:17:17
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ47] かくして、幼虫期の餌不足や成虫期の吸血源不足を解決する方策としても、移動ではなく発育停止が採用されて今日にいたったものと考える。

2014-09-09 19:18:00
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ48] このようにして熱帯の微陸水に適応したヒトスジシマカは亜熱帯へと分布域を拡大し、そこで光周性を獲得した一部の個体群は温帯にまで分布するにいたった。

2014-09-09 19:19:00
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ49] 完全に証明されたわけではないが、本種の温帯個体群が示す短日での卵の発育停止は、乾燥に対する反応と同じ機構によると考えるのが妥当である。

2014-09-09 19:19:42
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ49図] 短日と乾燥を組み合わせた場合の孵化反応性。 pic.twitter.com/0l8bnJHqjr

2014-09-10 19:38:18
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今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ50] 熱帯で進化した孵化率の調節機構が光周期や低温にも反応するように若干修正されて温帯での適応を可能にしたと考える方が、進化の過程を統一的にスッキリと捉えられるように思う。

2014-09-09 19:20:20
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ50図] 孵化率調節のプロセスまとめ pic.twitter.com/NyAKTr3QPE

2014-09-11 19:31:47
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今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ51] 今回紹介した孵化実験は、すべて室内実験であり、ある人から野外実験を行っていない点で不十分だと指摘されたことがある。実は僕も本種の野外調査を試みたのだが、孵化実験の結果が明らかになった段階で放棄してしまった。

2014-09-09 19:21:22
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ52] 野外では、竹筒を設置して幼虫や蛹の数を定期的に調べるのだが、毎回の調査で竹筒の中の水をパットに移して生息数を数え、水と虫を再び竹筒に戻すという方法を用いていた。つまり、調査のたびに生息場所を撹乱し、DO濃度の自然状態での変動を妨げていたのである。

2014-09-09 19:22:18
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ53] これでは、DO濃度の不自然な変化に反応して不自然な孵化が生じ、自然状態での生息状況が把握できないわけだ。ヒトスジシマカの幼生期の生態に関する報告には、同様の過ちを犯し、しかも過ちに気づかずに発表されてしまったものが多い。

2014-09-09 19:23:05
今井長兵衛 @medanjin

[ヒトスジシマカ54] ヒトスジシマカの生活史戦略のキーワードは、「移動しないこと」、「卵の孵化率調節」および「危険の分散」である。したたかに生きるデング熱国内媒介蚊に如何に対応すれば良いのか、この連投が参考になれば幸いである。

2014-09-09 19:23:51