「千の想いを」~番外編・天城がいた頃/夏の日 事件編 前編(#2)~
- mamiya_AFS
- 862
- 0
- 0
- 0
準備を終えるタイミングを測ったように、部屋のチャイムが鳴らされる。 返事をしてから扉を開けると、青い軍服に身を固めた長身の女性が立っていた。昨日提督の隣に立ち、親切に色々と教えてくれた旗艦の高雄だった。 「おはよう、赤城さん。よく眠れたかしら?」 柔和な笑顔が眩しい。
2014-06-22 23:46:31「そうですか。それは良かったわ。もう出れる?」 ちらりと視線が赤城の頭上越しに室内に差さる。天城の寝姿を見て、喜んでいるような寂しいような、微妙な感情を浮かべてから赤城の全身を眺めていく。
2014-06-22 23:49:55「そう。じゃあ行きましょうか。 いいえ、あの人は変わらないなぁ、って思っただけよ。気にしないでちょうだい」 告げて赤城がまだ履き慣れていない靴を履き終えるのを待つ。廊下ではちらほらと艦娘達の姿も見えた。当然ながら鎮守府自体は通常に活動しているのだ。
2014-06-22 23:53:41「…ところで赤城さん。行きながらでいいから、いくつか訊きたい事があるの。いいかしら?」 前を進む先輩が、振り向く事なく告げてくる。 すれ違う艦娘の子達から挨拶をされては返すの合間を縫っての事だった。半分くらいの子が赤城にも挨拶をしてきて、見知らないからかじろじろと眺められる。
2014-06-22 23:57:17嘘。 嘘をついた事に目まぐるしく罪悪感が沸いてくる。返答の間が怪しまれるかとも思ったが、訊かれると思っていなかった事に戸惑い言葉に詰まっただけとも取れるはずだった。 不安げに前を行く背中を見詰める。表情は窺えない。
2014-06-23 00:04:55「そう…。そうよね。ううん、変な事訊ねてごめんなさいね? 守衛さんも昨日は1日『貴女以外誰も来ていない』と言っているんだけれども、確認しないといけなくてね。 重ねて訊くのだけれども、何も持ち出したりはしていないわよね?」 これは無い。姉と共に使った道具は全て倉庫に戻した。
2014-06-23 00:06:462人は寮を抜け、建物を結ぶ道へと出る。朝だというのに日光は眩しく、そして暑さを孕みながら赤城の目と肌を照りつけた。 返事はすぐには来なかった。言葉を選んでる雰囲気を、背中から感じ取る。
2014-06-23 00:12:19「…どう言ったものかしら。昨夜ね、提督の寝室が襲われたの。 練習用の航空機が2機、火薬を積んで突っ込んできたのよ」
2014-06-23 00:12:48「ええ。提督はその時『丁度部屋を出ていた』から難を逃れたのだけれど、生身の人間だからね、もしも中にいたらどうなっていた事やら…。 ごめんなさいね。そもそもまだ初日で誰から教わってわけでもないんだから、飛ばす事もできないものね。でも事が事だから、確かめないといけなかったの」
2014-06-23 00:16:31「一昨日の時点では12機全て揃っているのを確認されていたから、昨日の内に何者かが盗っていたのよね…。 あ、ごめんなさい! 違うのよ? 疑ってはいないから心配しないでね? 赤城さんがそんな子じゃないというのは、わかっているつもりだから!」
2014-06-23 00:20:20初めて高雄が振り返り、赤城の肩に手を置いて懸命に言い繕う。 夏の日差しがよく似合う年上の女性は、本心から赤城を疑っていないという空気が見て取れた。今までの人生上、他人の表面だけを取り繕った嘘は見抜ける程度の目はある赤城には、理屈ではなく信じる事ができる。
2014-06-23 00:22:37返答しながら赤城は考えていた。 この時点でわかっている幾つかの矛盾点を。 自分が嘘をつくのには理由がある。何を隠そう、大好きな姉が秘密にしてと言ったからだ。だが、守衛が嘘をつく意図が見えなかった。間違いなく彼は自分と共に天城を確認している。話し込んでいたくらいだ。 …話し込む?
2014-06-23 00:24:46提督である久瀬の顔を浮かべる。 氷の塊のような冷たく厳しい目線を。 食堂で空気を凍りつかせた男性を。 姉と、仲悪そうにしていた存在を。 昨夜。 昨夜に襲撃は起きた。 …まさか。 自然と思い至る。可能性に。
2014-06-23 00:27:53@tiyodadayo (そういえば…、何を話しこんでいたのでしょうか… でも、帰るときにはなにも持っていませんでしたよね…)
2014-06-23 00:27:46天城と守衛の会話は最後しか聞き取れなかった。 『責任は私が取るから』。そう姉は言った。自称の問題はいい。対外的に接する場合に姉は俺、ではなく私を使うのは知っている。そこではない。 責任。 何の? 赤城の思考が嫌な方向へ嫌な方向へとループを繰り返す。
2014-06-23 00:30:50