アラビア語圏のミステリー小説!

(1)英語に翻訳された最初のアラビア語探偵小説 (2)中東でミステリーの人気が再燃!(英『ガーディアン』紙、2014年10月3日) (3)エジプトのミステリー作家、アフメド・ムラッド (4)エジプト・ミステリー史 (5)エジプトのノワール・コミック 続きを読む
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Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

そんなわけで、この記事だけだと果たしてエジプト人による創作ミステリーがどれぐらいあったのかは分からないが、創作にしろ翻訳にしろ、エジプトにはミステリー小説を娯楽として享受してきた長い歴史があるのである。

2014-10-04 19:42:51
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

エジプト人作家Ahmed Mouradのミステリー小説『Vertigo』(2007)が英訳されたとき、ある人物が書評の中で「アラブ世界ではほとんど知られていなかったジャンル」の作品だと述べたのだという。これはまったくの間違いだと記事執筆者は指摘している。

2014-10-04 19:43:22

(5)エジプトのノワール・コミック

 引き続き同じ記事「The Case of the Arabic Noirs」から。この記事ではエジプトのアラビア語のノワール・コミックとしてMagdy El Shafeeの『Metro』が紹介されている。コンピュータープログラマーが銀行襲撃を企てるところから始まる作品だそうだ。2007年に出版されたが、当局によってすべて差し押さえられてしまった(理由は不明だという)。その後、ムバラク大統領が失脚したあとに再度出版された。
 下のリンクは英訳版。

 また、同記事ではGanzeerというエジプトのノワール・コミック作家も紹介されている。エジプト人作家のDonia Maherが文章を担当した短編ノワール・コミックの英訳版「The Apartment in Bab El-Louk」を「こちら」(Words Without Borders)で読むことができる。13ページの短い作品。

(6)アラビア語圏のSF小説!

Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

今年6月に出た『現代アラブを知るための56章』(明石書店)に気になる記述が。最近のアラブ世界では娯楽小説の質が向上してベストセラーも生まれており、「未発達だった本格的なSFやミステリーの登場」などの新しい現象が起こっているとのこと。(p.80、福田義昭氏執筆)

2013-08-15 16:52:14
Utopia

Ahmed Khaled Towfik

  • エジプトのSF作家・ホラー作家、Ahmed Khaled Towfik (または Ahmed Khaled Tawfik とも綴る)(1962年生)がアラビア語で書いた近未来スリラー小説の英訳版『Utopia』。アラビア語の原書は2008年刊行。
  • 2012年の第2回SF&ファンタジー英訳作品賞、単行本部門にノミネートされた。
  • 「追いつ追われつのサスペンスフルな展開は、パトリシア・ハイスミスのミステリー小説を思わせる」とのレビューも。

(関連)アラブの都市を舞台とする近未来ハードボイルドSF三部作

 著者はアメリカのSF作家、ジョージ・アレック・エフィンジャー。

(補1)エジプトやイラクを舞台にしたミステリー小説(英語で執筆されたもの)

 どちらも『ガーディアン』紙の記事で紹介されていたもの。

パーカー・ビラルの探偵マカナ・シリーズ

  • 作者のパーカー・ビラル(Parker Bilal)はイギリス系スーダン人(スーダン系イギリス人?)。本名はJamal Mahjoub。生まれはイギリス・ロンドンで、その後はイギリス、スーダン、エジプト(カイロ)、デンマークなど世界各地で暮らす。現在はスペイン・バルセロナに在住。本名で文学作品を7冊刊行したのち、2012年から現在のペンネームで、マカナを主人公とするミステリー小説を発表し始めた。
  • 主人公のマカナはかつて母国のスーダンで警部を務めていたが、現在は亡命して、エジプトのカイロで私立探偵業を営んでいる。
  • 探偵マカナ・シリーズは既刊3作。時代設定は1冊目から順に、1998年、2001年、2002年。

中東学者が執筆した、イラクを舞台にしたフーダニット

  • 作者のエリオット・コーラ(Elliott Colla)はアメリカ人で、中東学者。アラビア語文学の専門家。
  • 『バグダッド・セントラル』は2003年の戦時中のイラクを舞台にしたフーダニット。2014年発表。
Baghdad Central

Elliott Colla

(補2)パレスチナを舞台にしたミステリー小説(英語で執筆されたもの)

  • 作者はイギリスのマット・ベイノン・リース(1967- )。2000年6月から2006年1月まで、『タイム』誌のエルサレム支局長を務めた。
  • 『ベツレヘムの密告者』はアマゾンにある紹介文によれば、「パレスチナの庶民の視点で描いた異色の本格ミステリ」。2008年の英国推理作家協会(CWA)最優秀新人賞受賞作。
  • シリーズがイギリスでは第4作まで刊行されている。邦訳は第1作のみ。

(補3)イラン出身で、イランを舞台とするミステリー小説を執筆する世界初の作家

 イランの言語はアラビア語ではなくペルシア語なので「アラビア語圏」ではないが、中東の話題ということで、ここにまとめておく。

Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

Naïri Nahapétian は、イラン出身で、イランを舞台にして推理小説を書く初めての人らしい。インタビュー記事 http://bit.ly/ehPgfw 。幼少期はフランスで暮らしていたようなので、執筆言語はペルシア語ではないだろうけど。

2011-04-02 02:23:52
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

イラン出身の女性推理作家 Naïri Nahapéti はフランス語での執筆

2011-04-02 02:25:16
  • インタビュー記事(2010年11月)によれば、ナイリ・ナハペティアン(Naïri Nahapétian)は1970年、イランの首都テヘランでアルメニア人の家庭に生まれた。1979年のイラン革命の直後、母とともにイランを離れ、フランスへ。そして15年間フランスで過ごしたが、1990年代半ばからはジャーナリストとして定期的にイランを訪れる。
  • 2008年に発表したミステリー小説『Qui a tué l'ayatollah Kanuni ?』(誰がアヤトラ・カヌニを殺したか)はジャーナリストのNarek Djamshidを主人公とするシリーズの第1作。少なくとも3作は書くつもりだと先のインタビューで述べている。
  • 2012年にシリーズ第2作『Dernier refrain à Ispahan』(イスファハーンの最後のメロディー)が発表されている。
  • 第1作はスウェーデン語とスペイン語訳とオランダ語訳、第2作はチェコ語訳が出版されている。英訳はない。
  • 探偵作家クラブ(現・日本推理作家協会)会報第73号(1953年6月)に「インドとイランの状況報告」という記事が載っている。この記事では、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)会報の1953年3月号にイランの探偵小説事情が報告されているとして、その内容を伝えている。それによれば、イランの首都テヘラン滞在中のアメリカ探偵作家クラブ会員が、イランのある地方雑誌にパトリック・クェンティンの作品のペルシア語訳が掲載されているのを発見したのだという。この会員もペルシア語は読めず、それ以上のことは不明とされている。
  • エジプトで英米仏のミステリー小説がアラビア語に大量に翻訳されていたのと同じように、この時期にはイランでも英米仏のミステリー小説のペルシア語訳がたくさん出ていたのだと想像される。
  • だとするとこの時期、イランを舞台にしたミステリー小説をペルシア語で書いたイラン人がいた可能性もあるだろう。Naïri Nahapétianのことを「イランを舞台にして推理小説を書く最初の作家」と称するのはあくまでも現代の欧州からの見方であり、本当にそうなのかは「イラン・ミステリー史」の研究の進展を待つ必要がある。

(関連)イランの作家の短編集『生埋め』。ホラー的作品・SF的近未来小説を含む。