五大聖戦:第一戦闘フェイズ【第一の扉】

──激突するは華夏と赫焉。
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華夏の勇者 @battle_atom

ーー我らが同志、英雄スタハーノフ! ーー働け!働け!スタハーノフのように! ーー働け!働け!全ては我らが祖国の為、全国民の幸福の為に! ーー働け!働け!働け!働け!働け!働け!働け!働け!働け!働け!働け!働け!働け!働け!働け!働け!働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働

2014-10-27 22:05:24
華夏の勇者 @battle_atom

ぐるぐる、どろどろ。頭の中に渦巻く声をかき消す様に、一歩一歩、暗闇の中を男は進む。 煮込み過ぎた出来の悪いスープのようなそれは、男の人生を大きく変えてしまったその日から少しも鳴り止むことなく、アルコールとともに男の脳を浸し続けている。 「…うるせぇよ、俺は英雄なんかじゃねぇんだ」

2014-10-27 22:05:45
華夏の勇者 @battle_atom

己を蝕む幻聴に、煩わしそうにそう返し、暗がりのその先を見やる。 不気味な扉、歪な扉。踏み入れたその中は真っ暗闇で、男は一度引き締めた己の決心を再び解いてしまいそうになった。仲間の後押しでこの中に足を運んでからというもの、それなりの時間は経っている筈だ。

2014-10-27 22:05:56
華夏の勇者 @battle_atom

こういう事態を見越し、灯りくらいは持って来るべきだったかと後悔する。男の所持品と言えば、中身が殆ど尽きたスキットルに、煙草の空箱、ちっぽけなライターと、おそらく勇者にとって最も必要のない物品ばかりだ。 臆病が過ぎて冷静な判断が出来ず、更に怯える羽目になる。完全な自業自得であった。

2014-10-27 22:06:25
華夏の勇者 @battle_atom

「…こんな火でも、無いよりゃましか」 ライターの火程度でこの深い闇が晴れるとも思えないが、と男は駄目元で衣類のポケットを探る。 皮の分厚い指先にひやりとした物が触れ、小さなそれを取り出そうとすると、それと同時、男の目に強い衝撃が走る。

2014-10-27 22:06:45
華夏の勇者 @battle_atom

「……っ!?」 それが光だと男が認識するのに、暫くの時間を要した。黒しか捉えなかったその瞳が少しずつ色を取り戻し、視界を明瞭にする。 瞬いて、急激に明るくなった辺りを見渡せば、そこには地平線まで続くのではないかという程の、ただただ広い草原が広がっていた。 「……なんだ、これは」

2014-10-27 22:07:00
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

扉を抜ければ、そこは爽やかな風の行きすぎる草原だ。外套の下の陰気な顔を風にさらしながら、爽快に過ぎる光景に眉を顰める。自然は得てして美しいものであるが――いかんせん、作り物めいていた。どこまで続くかわからない、草原が地平線となる風景。踏む草は本物だ。さく、と軽い音がする。

2014-10-28 02:09:27
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

踏みつけられた瑞々しい緑の葉は、じりじりと焦がされて黒く変色していった。一歩、男が歩を進めるたびに、焦げた黒い足跡が残されていく。穢れなき緑の絨毯に、爪跡を残していくような行為。 黒地に赤の装束は、青と緑の鮮烈なコントラストの中に佇んでいる。 「――勇者と魔王は相容れぬ」

2014-10-28 02:09:36
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

「――またどうしようもなく相対する」 残されていく死体の道を歩く。はっきりと見えた、勇者らしくない男の姿を認めて、歩みを止めた。 「我らの生きるところに勇者はない。『あってはならぬ』。だが忌々しいことに我らと並ぶ力を与えられし貴様らに、最期の命乞いをする時間程度はくれてやる」

2014-10-28 02:09:45
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

歩を止めた場所で、微動だにせぬまま。黒の彫像めいたシルエットが立ち尽くしている。

2014-10-28 02:09:55
華夏の勇者 @battle_atom

膝下まで伸びるやや背丈の高い草の他は何も見えぬ大草原、空を見上げたところで雲一つ見つかりはしない。それは確かに自然である筈なのに、不自然この上ないと男は内心毒づく。 「…ん?ありゃなんだ」 地平線の遥か先まで覆っているであろうその緑の中、ポツンと存在する黒い塊を発見した。

2014-10-28 12:37:14
華夏の勇者 @battle_atom

あまり視力の良くないその目をレンズ越しに僅か細めて見れば、それが人影なのだということが分かる。 まさか態々お膳立てされたこの場において、あれがこの件に無関係な一般人であると言うことはないだろう。 雰囲気から見るに、味方でもなさそうだ。

2014-10-28 12:37:29
華夏の勇者 @battle_atom

「……あんたかい?魔王って奴は」 冷や汗がその背筋をたらりと伝うのを感じながら、それでも敵の手前、軽んじられぬ様最低限の体裁は整えようと、出来るだけ冷静さを取り繕って男は影に問いかける。

2014-10-28 12:37:43
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

「然り。貴様が勇者だと名乗るなら、私が紛れもなく魔王であることは自明であろう」 外套の下からじとりと、暗い青が睨みつけた。 「それとも貴様は勇者ではないと宣うか?ならば貴様に用は無い」 「私は忌々しき女神に力を与えられた、勇者を滅するべくここに立っている」

2014-10-28 13:46:22
華夏の勇者 @battle_atom

「……俺が勇者かそうでないかは置いとくとして、あんたが探してんのが女神に力を貰った奴だってならまぁ…俺の事だな。非常に残念な事に」 普通に考えて、今ここに居る者が無関係な人間だとは考え辛い。ここであえてすぐバレる嘘をつくくらいなら、正直に答えた方が害は少ないだろうと男は判断した。

2014-10-28 15:19:40
華夏の勇者 @battle_atom

会話は一応出来るらしい事に一先ず安堵し、軽く頭を掻きながら、引きつった顔のままに言葉を続ける。 「あー…あんたが大人しく俺達から手を引いてくれると言うなら、少なくとも俺は凄くハッピーになれるんだが。どうだ、交渉の余地はあるかい?」 そもそもあんた達は何がしたいんだ、と付け加えて。

2014-10-28 15:21:59
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

「手を引く、だと?その選択肢が、我らと貴様らの間に存在していると考えているのか?」 呆れ果てた、とばかりにゆるく首を振った。 「全く以て、信じ難い。有り得ぬ。貴様は部屋に現れた害虫を排除しようと思わぬのか」

2014-10-28 15:37:27
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

「他の魔王らの求めるところは、知らぬ。我らは自身の欲に従い、力を与えられたもの故に。だが私は、成すべきことを成すのみ」 じりじり、足元で、焦げた草の輪が広がっていく。 「則ち、勇者を滅すること。女神は忌まわしきものであり、そこから力を得た勇者もまた同じ。慈悲は、無い」

2014-10-28 15:40:12
華夏の勇者 @battle_atom

「…存在してたらいいなっていう、ただの希望さ。あんたの反応でたった今その希望は無謀だったと発覚したわけだが」 流石にそれをあてにする程男も愚かではない。少しだけ眉を歪めて、男は地を踏みつけた。 さく、さく、さく、さく。 足元の草が折れ、潰れ、緑にまみれてその下の土が顔を覗かせる。

2014-10-28 17:17:55
華夏の勇者 @battle_atom

それを靴の先でぐりぐりと弄りながら、男は何か思案しているらしい。 空気に漂い始めた焦げ臭い匂い、眼前の魔王のその言葉に、「ああ」と僅かに相槌を返し。 「慈悲なんてのはあんたに与えられなくたって、元からこの世界にありゃしねぇもんさ」

2014-10-28 17:18:15
華夏の勇者 @battle_atom

それを、男は既に嫌という程理解している。経験している。体感している。 「…罰当たりな話だが、あの女神様だって、力は与えられても慈悲は与えられねぇだろうなと、俺は思ってる。そんなもの、何処にも存在しないんだから」 無いものは与えられねえさ。男は言う。 土を弄る足は、止めないまま。

2014-10-28 17:20:58
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

「わかっているのならば話は早い」 外套の中にしまい込まれた片腕が、おもむろに差し出された。冷えかけた溶岩。ひび割れからのぞくマグマめいた赤の筋。岩を継ぎはぎして人の腕に成形したかのような異形の右腕は、手の中に収めていた何かを握りつぶし、塵に変えた。マグマの筋が明滅する。

2014-10-28 20:16:43
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

火に燃料を注いだかの如く、黒外套の周囲に高熱が発生する。揺らめく陽炎。 「塵一つ残すことなく死ね」 陽炎は瞬く間に一つ所に凝り、大人の頭ほどもある炎弾となって、勇者たる男へと一直線に飛ぶ。

2014-10-28 20:16:46
華夏の勇者 @battle_atom

「…そうかい、死んでも、埋めて貰える肉体もないのか。そりゃあ、嫌だねぇ」 魔王の言葉、異形の腕、焦げ広がる草原。普段の男ならばただただ震えるばかりであろうそれらに対して、男は珍しく、少し上ずった声ではあったが返してみせた。 だが、重要なのはそこではない。

2014-10-28 21:38:57
華夏の勇者 @battle_atom

黒き魔王、彼が飛ばした炎塊に、本来ならば男は今頃身を焦がしていなければならない筈である。それこそ魔王の問いに答える暇もなく、こんがり焼けたウェルダンが出来ていてもおかしくないのだ。 それなのに男はこうして彼の言葉に応える事が出来た。それは何故か。 答えは、男のすぐ目の前にあった。

2014-10-28 21:43:31