五大聖戦:第一戦闘フェイズ【第一の扉】

──激突するは華夏と赫焉。
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華夏の勇者 @battle_atom

「……だったら尚更、生きなきゃな」 男の目の前に聳え立つは、柱の様に突き出た地層の壁。 間欠泉の如く、地表から切り出され盛り上がったそれが、魔王の攻撃を阻んだのである。 「…農家の出の元鉱山夫だ。べと弄りは俺の天職でね、少しでも見りゃあ土の状態は多少わかる。良い土だなぁ、魔王よ」

2014-10-28 21:43:53
華夏の勇者 @battle_atom

「ーー思わず、畑でも耕したくなる。そうは思わないか?」 くしゃり、 男の足下で、再び土を踏みしめる音がした。 高く高く突き出た大地の柱が、根元からしなり折れ、倒れ始める。魔王の元に影を落とし、押しつぶさんとばかりに、その強大な巨体は重力に従った。

2014-10-28 21:44:17
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

「思わんな」 目前に迫る多量の土塊にも、男は動じない。外套の内側から小袋が取り出される。異形の腕に握りつぶされ、微細な塵となってその場を漂った。 生まれ出でる火球は、先のものの三倍ほどの大きさ。急激に圧縮され、弾ける。爆破された大小さまざまな土塊が降る中、男は一歩踏み出す。

2014-10-29 08:38:31
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

土塊を隠れ蓑に、男は走り距離を縮める。拳の中には小袋の中身が少量握られている。塵が尾を引いて、火炎を纏った異形の右腕が直接振り抜かれる。

2014-10-29 08:38:34
華夏の勇者 @battle_atom

「…そうか、残念だ」 苦しそうに、男は笑う。 飛び散る土塊に紛れ、何か黒い影が迫り来るのを視認する事が出来たが、生憎男の体では激しい駆動が不可能だ。その為、逃げることは叶わなかった。 振り抜かんと迫り来る異形の腕によるダメージを少しでも軽くしようと、反射的に男は身体を逸らす。

2014-10-29 09:45:50
華夏の勇者 @battle_atom

「……っぐ、ゔぁ、あ…っ!」 生物的な本能とも言えるその動きだけでは、もちろん全てを躱す事など出来はしない。魔王の歪な腕は男の横腹を抉り抜き、己の肉を焼くその痛みに彼は呻き声をあげた。 「…あ、あぐ、ぅ、げ…っがふ、っ、」 崩れ落ちた膝が、ざしゅり、と音を立てて草原を抉る。

2014-10-29 09:46:07
華夏の勇者 @battle_atom

痛みに喘ぎ。悶え。 それでも男はなんとかといった様子で、生身の腕で必死に傷口を抑えながら、震えるもう片方の腕を地面に押し付けた。 金属の義手越しではその土の温度はわからない。ただその手の数歩先、魔王の斜め前から突き上げられた土層が、彼を穿たんと迫る。

2014-10-29 09:46:24
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

「…………!」 拳を振り抜いた体勢から、生えた土柱を避けきるのは難しかった。身体を捻り回避する姿勢の途中で、着こんだ外套を貫き、その下の皮膚も深く削り取って、土柱が過ぎていった。 引き裂かれた外套が、瑞々しい緑の上に落ちる。

2014-10-29 12:33:59
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

外套の下の男の顔は精悍だ。微かに顔色は悪いものの、健康的と呼べる範囲。ごく普通の人間の、20代か30代程度の男性。ただ、瞳だけが。草原の蒼天と見紛うばかりに鮮やかな青の目だけが、爛々と獣めいた輝きを宿して、滅ぼすべき敵を見つめている。

2014-10-29 12:34:09
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

腰の辺りから、肩にかけて。斜めに走った大きな傷から血が垂れている。痛みは当然小さくない。だが傷などないかのように、切り裂かれた外套を片手に堂々と立っている。 外套の内ポケットから中身の減っているらしき小袋を取りだし、塵に変えた。揺らめく熱が立ち上る。

2014-10-29 12:34:17
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

「害虫に訊ねるのも抱腹ものだが」 じりじりと熱を凝縮させながら、ふと男は思い付いたように口を開いた。 「先に、埋めてもらえる肉体も無くなるのならば生きねばと言ったな。何故だ?」 「死ねば皆同じだ。無きものとなることは。魂の失せた肉塊に何用がある」

2014-10-29 12:34:24
華夏の勇者 @battle_atom

「…っ、は、…そりゃ、自分の最後、を…誰にも理解されず死ぬなんざ、嫌だからね…」 削れた脇腹から伝わる激しい痛みに耐えながら、喉を震わせ、言葉を紡ぐ。焼かれているせいか、幸い出血はそれ程多くないようだ。けれど、息を吸うだけで激痛が走る為か腹部は力が入らず、その声は酷く掠れている。

2014-10-29 17:45:38
華夏の勇者 @battle_atom

「…遺体も見つからず、本当に死んだかもわからない。残るのは、恐らく死んだんだろうっつう推測に過ぎない何かだけだ。それが正しいのかも、仮に正しかったとしてそいつ自身が最後何を思ってどう死んだのかも…何もかも曖昧なまま、人々の心から薄れ、消えていくのは、………あまりにも、哀れだろう」

2014-10-29 17:45:57
華夏の勇者 @battle_atom

男の脳裏に浮かんでは消えていくのは、かつての同志達の姿だった。 ーー我が祖国に幸福を、富を、 ーー働け、働け、スタハーノフのように 途端音量を上げた響き続ける幻聴に耳を塞ぐよう、首を振るう。 男が指で土をとんとんと叩けば、二本の土層がまた盛り上がり、魔王を襲った。

2014-10-29 17:48:56
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

「他者の認識を求めるのか。やはりわからんな。――自身が満足できる死であっても、客観的な記憶が欲しいのか?」 「我らよりよほど欲張りではないか」 纏う熱にさらに塵化する燃料を一袋分投下。襲いくる土が頭上に降って、男の姿が土の向こうに消える。

2014-10-29 23:37:32
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

厚い土層の内側で、高熱に包まれている。重力に従い圧力を加えてくる土を、極限を越えた高熱が降るそばから溶けていく。小袋をもうひとつ投入し、土を溶かす速度を上げていく。

2014-10-29 23:37:35
華夏の勇者 @battle_atom

「…そうだな、これは、俺の、我儘だ」 途切れ途切れ、詰まった息を少しずつ吐き出しながら男は答える。不自然なほど区切られたそれは浅い呼吸のせいもあるが、どちらかといえば、声の震えを必至に隠そうとした為であった。 土の柱に隠れ魔王の姿は見えないが、この程度でくたばる筈もないだろう。

2014-10-30 00:57:22
華夏の勇者 @battle_atom

うまく足止めが出来ている間に、なんとか身体を起こし彼と距離を取ろうとした男だったが、それは叶わない。 脇腹の酷い熱のせいか、未だ頭に鳴り響く幻聴のせいか、はたまた今更になってぶり返してきた死への恐怖の為か。 震えが止まらぬその足は男が何度叱咤しようと言うことを聞きそうになかった。

2014-10-30 01:00:08
華夏の勇者 @battle_atom

「…っ、くそ…!何だってこんな時に…!」 どうして俺はこうも臆病なんだ、と。今にも泣き出しそうに歪んだ顔で男は声を荒げた。 「…っうごけ!うごけよ!動いてくれよ!!」 そうして、振り上げた金属の腕を、幾度も足に叩きつける。

2014-10-30 01:01:30
華夏の勇者 @battle_atom

それなりに重さのある義手で叩くものだから、きっと服の下は酷い痣になってしまっているだろう。それ程に、何度も、何度も、男は腕を振り下ろした。

2014-10-30 01:01:46
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

小袋から得た熱量が途切れる頃には、のしかかる土は軒並み溶け消えていた。明瞭になった視界には、何故か自身の足を傷つけている男がいる。 「気でも違えたか……?」 外套から残り少ない小袋を、一袋丸ごと握り潰す。熱が、揺らめく。

2014-10-30 10:46:50
【赫焉の魔王】セティオ @Cettio_FHW

「貴様からひとつ、学ぶことがあった。その意味では有意義だったと言わせてもらおう」 陽炎揺らめく熱は、実態をもって火球となる。 「真に死を恐れるならば、私にかじりついてでも生にすがりついてみせろ」 巨大な火球は一直線に、草を焼く軌跡を描いて飛んでいく。

2014-10-30 10:50:58
華夏の勇者 @battle_atom

魔王の言葉に、男はびくりと肩を跳ねさせる。 飛び込んできた火の弾丸に気がついた時にはもう遅い。男のスペルは土層ごと大地を動かすものであり、瞬間的な、細やかな動作等は不可能だ。 火球から身体を庇うべく義手を前出しつつ守りの体制をとる。

2014-10-30 14:00:53
華夏の勇者 @battle_atom

それが対した効果を発揮する筈もなく、男はその豪炎に身を包まれる羽目になった。どろり、熱によって義手がしなり、歪む。 頭は庇ったものの、その体の前半分は酷く焼けただれてしまった。 「…っ、かふ、…ぐ」 彷徨う様に、辺りを探る様に動く焼けた義手が、その地面に静かにふれる。

2014-10-30 14:01:49
華夏の勇者 @battle_atom

瞬間、男の足元から土層が切り出され、男をその上に乗せたまま、魔王の元へと噴き上がった。 「…わかってるんだ、そんなこと、…わかってる、はずなんだ」 漏れ出した声は酷く掠れ、殆ど吐息と大差ない。 土層が突き上げられた勢いのまま、近づいていく黒を掴もうと、男はその腕を伸ばす。

2014-10-30 14:02:06