rsbs日誌#38

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　『後ろは任せろ』トガリのぶっきらぼうな声に『ありがと』と返し、僕とトガリは翼を立てて切り込んだ。敵機の後ろへとスピードを乗せたまま回り込む。蹴っ飛ばしていたフットバーを踏み返し、切り返す敵機に追い縋る。照準機に機影が映り、軽く撃った。そして離脱する。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　右に旋回しながら辺りを見る。どうやらさっきの攻撃は当たったらしく、敵機は煙を吹きながら逃げていった。メータをチェック。湯温も水温も大丈夫。スロットルを開いて加速しつつ、やや下を抜けて行こうとする敵機を見付けた。被さって来そうな奴が居ない事を確認してからダイブする。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　フラップをやや開き、スロットルを少し弱めて旋回する。機速が乗り過ぎると追い越しかねない。僕は後ろをちやりと見やりながら敵機に接近した。が、気付かれた。ギリギリ有効射程内。僕は苦し紛れに機銃を撃った。そして離脱。『なんだ！？』不意にトガリの声が無線機から聞こえた。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　次の瞬間、僕の横を、黒い影が瞬く間に駆け抜けていった。真っ黒なボディ。血の様に赤い帯。其れは途方にも無い突っ込みの速度で深海棲艦の艦戦に食らい付くと、大量の機銃と機関砲でバラバラに喰い破っていった。スナップロール。残骸を避けて黒い機体は何処か遠くに消えていった…

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　「今のは、一体…」『無事か？』惚けているとトガリの海燕が隣に並んでいた。「あぁ。大丈夫だよ」『帰艦命令が出た。戻ろう』「了解」僕達は辺りを警戒しながら、母艦へと飛んだ。幸いにもナツメさんと彼女の相棒も無事らしい。危なげ無く飛鷹に着艦し、息を付いた。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　その後、何事もなく作戦は終わり、僕達の最初の実戦も終わりを迎えた。鎮守府に戻り、宿舎で四肢を投げ出して自由にしていた。ただひとつ、頭の中に引っ掛かるものを残して…「ハサクラ、居る？」トガリが声をかけてきた。片手に冷たい酒瓶を持って。「軽く飲まないか？」

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　発泡酒を飲む。よく冷えていて、ジンジャーが効いてて辛くて旨かった。「あんたと俺が見た飛行機、覚えてる？」トガリが軽いげっぷを溢しながら話した。「黒いのでしょ？」「ああ。胴体に赤帯の付いたおっかない奴。他の連中に聞いてみたら、あれには関わるなってさ」「関わるな？」

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　「奴はヌエーバって呼ばれてる」「ヌエーバ…？」聞き慣れない言葉に小首を傾げた。「新月って意味だそうだ。真っ黒なボディに、僅かだがつきの様なペイントがあったとさ。それであいつに関わるなって話だけども」言葉を区切り、トガリは一口発泡酒を飲んだ。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　「奴は敵でも無ければ味方でもない。だけど決して敵には回すな、と言う事らしい」「敵に回すな…って？」「昔、あの赤帯にちょっかいを掛けたのが居たんだってさ。そしたら撃ち落とされたって、よ…だが、手を出さなければ此方には危害を加える気は無いらしい」「よく判らないね」

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　「なんで新月は深海棲艦と、そして僕らも襲うのだろう？」「さぁ？本人に聞く他無いんじゃないかな」トガリは肩を竦めて見せた。そこまでは彼女も聞いて調べる事は出来なかったのだろう「ただ分かるのは…」トガリは器用に片手で防水燐寸に火を付け、紙巻きに灯した。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　「あいつも、俺たちと元は同じって訳なんだろうさ」そうだ。確かに。あの黒い飛行機は僕達と同じ大きさをしていた。つまり、戦闘妖精なのだ。…でも、何故？ふらりと現れては去っていく。謎の飛行機。僕達は何か、白昼夢でも見ていたのだろうか。それとも…あれは亡霊なのか…

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　…翌日。僕はナツメさんと鎮守府の近海を飛んでいた。薄曇り。もしかしたらスコールに遇うかも知れないな。なんて考えていた。『敵機だ』無線機からナツメさんの声が響く。「何処にですか？」素早く辺りを見渡した。見落としたのだろうか？『雲の上だ。行くぞ』海燕が機首を上げた。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　僕もワンテンポ遅れて、機首を上げた。スロットルをハイに叩き込み、加速する。薄曇りだと思っていたのに、知らない間に雲は分厚くなっていたらしい。視界が悪い…途端、無線機に酷いノイズが入った。目の前に爆発の明かり。雲を抜けた先。僕の目の前で黒い飛行機が空を支配していた。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　大型の、見たこともない爆撃機が火を吹いて落ちていく。幾つもの黒い煙が見えた。護衛の戦闘機も全部喰い尽くしたのだろう…ナツメさんの海燕の姿が見えない。何処に居るのかと見渡している内に、ヌエーバがすぐ近くを飛んでいた。僕は驚いた。撃たれるのではないか、と…

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　その時、トガリと話していた事を思い出す。『ちょっかいを掛けなければ何もしない』と……僕は風防のロックを外した。そして後ろに下げる。これで僕に敵意が無いと言う事が伝われば良いが…暫く、不思議なランデブを続けていた所、ヌエーバは翼を立てて雲の向こうへと消えていった…

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　冷や汗がどっと溢れた。風防を戻しロックを掛けて雲の下へと降りる。下は雨になっていた。鈍い色の海に、深海棲艦の大型爆撃機が浮いていた。だけど直に沈むだろう。コンパスを便りに、鎮守府へと舵を切る。帰らなくてはならない。報告しなければいけない事が出来てしまった…

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　雨に降られながら僕は鎮守府の滑走路に降りた…濡れた地面をタイヤが叩き、水飛沫を上げていく。…暫く僕はコクピットの中で呆然とし、脱力していた。目に見える『恐怖』が自分の直ぐ隣に居たのだから…「おい、おい！」長髪の整備士にキャノピ越しに声をかけられた。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　緩慢な動きでキャノピのロックを外し、後ろへとどかした。「ナツメはどうした？」整備士が問う。「…食われたよ。多分、新月に」僕は淡々と呟き、コクピットから這い出た。不思議と足は縺れず無事に地面に立つ事が出来た。「多分弾は食らってないと思う。整備、ありがとう」

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　僕は宿舎に向かい、飛行隊長の元に向かった。細長い紙巻きを吹かしながら、雨の降る空を見上げている。「整備から電話がやってきた。…ナツメが落ちたんだってな」「…はい。新月の、黒い戦闘機に恐らく」「あいつを見たのか」飛行隊長は僕に振り向きながら、灰を灰皿に落とした。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　「はい。今日で二回目です」「…お前とナツメは確か、北の方の哨戒飛行だったな」「えぇ…」飛行隊長は深く煙を吸い込み、そしてゆっくりと吐いた。「…また、空を食い荒らす季節になったのかもな…気を付けろよ。月の機嫌を損ねると一発でドン、だ…」指鉄砲が僕へと向けられた。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　「あの…」僕は疑問をぶつける事にした。「ヌエーバは…新月はどうして独りで飛んでいるんですか？何故、僕達も撃つんですか？同じ…飛行妖精の筈なのに」僕の問いに、飛行隊長は静かに目を瞑った。「…彼奴は確かに飛行妖精だよ」紙巻きの先端が赤く燃えて、灰に成った。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　「彼奴がいつ頃ああなったのかを知る奴は少ししか居ない。その一人がうちの提督…我らが付き従う主にして魔女の比良坂だ」「魔女…？」僕は小首を傾げた。「お前さんも直に分かるさ。本物かどうか…後で報告書を上げてくれ。」話は終わりだ、と飛行隊長は僕に背を向けた。

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　魔女…新月…黒い戦闘機…僕は、もしかしたらとんでもない場所に着任してしまったのかも知れないとふと思った。甲高い音が空に響く。…トラクタ型。二重反転ペラに排気タービンの音。液冷倒立Ｖ型１２気筒の発動機…噂の魔女だと理解した。魔女が飛んでいる。ジュラルミンの翼で…