オバケのミカタ第一話『オバケのミカタと人面瘡』Cパート(3/3)

twitter連載小説『オバケのミカタ』第一話Cパートです。
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アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

マコトが纏う霊動装甲の名は《白夜》。その名の通り象牙色をした、卵のように無個性な外装を、今は一つ目の意匠が飾っている。哀のエクトプラズムを借り受けて駆動する《アイ・ドライブ》だ。右膝から下の装甲だけが不自然に厚い。#OnM_1 137

2014-11-29 19:26:10
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

戦いはマコトの――《白夜》の優勢だった。基本性能に限れば、《白夜》は《ASURA》に及ばぬ。だが空間の狭さが《ASURA》の強みを殺していた。周囲の壁に長すぎるアームを引っかけては難儀する鉄宗を尻目に、マコトは脆弱な箇所を狙って拳や蹴りを叩きこんでゆく。#OnM_1 138

2014-11-29 19:26:32
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

二面までを破壊された頭部が、敵の姿を求めてグルグルと回転した。六臂も既に二本が沈黙している。そのとき暗視カメラの目に、神奈を張りつけままの拘束台が映った。狭いコックピットの中で鉄宗が舌なめずりをする。残る四本のアームの先端で爪がひっくり返り、機銃が出現した。#OnM_1 139

2014-11-29 19:27:01
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

『マコト!』《白夜》の胸で回転するディスクが哀の声で叫んだ。即座に彼女の、そして敵の意図を察したマコトは、自ら機銃の射線上へと身を踊らせる。鉄の嵐が吹いた。四門同時の機銃掃射だ。神奈が両手を広げて立ちはだかる影を見た次の瞬間、目も潰れんばかりの火花が散った。#OnM_1 140

2014-11-29 19:27:39
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鉄宗は勝利を確信してほくそ笑んだ。『はは! こいつは劣化ウランの装甲でもぶち抜く特殊弾頭の徹甲弾。耐え続けるのは不可能だぜえ! ましてお前の動力源は一つ目小僧……人を脅かすだけの雑魚妖怪なんぞに、この状況を覆す力はあるめえ!』#OnM_1 141

2014-11-29 19:28:11
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一秒、二秒……。掃射を続けるうちに、鉄宗の額には汗が浮かびはじめた。残弾を表す数字がみるみる減ってゆく。それなのに……なぜ相手は倒れない? 足元が空薬莢に埋め尽くされていく。やがて残弾がゼロとなり、焼けついた銃身はガチンと鳴ったきり沈黙した。硝煙が晴れる。#OnM_1 142

2014-11-29 19:28:35
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

《白夜》は、そこに立っていた。どこから取り出したものか、ボーリングの玉のような金属球を抱えて――いや、それは。鉄宗は戦慄した。球の表面に貼りつき、ずぶずぶと同化しつつあるのは、おのれが発射した銃弾ではないか。銃弾は命中する前に、その球に絡め取られていたのだ!#OnM_1 143

2014-11-29 19:29:01
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『一つ目小僧は、人を脅かすだけのお化けだと……そうおっしゃいましたね?』笑みを含んだ声で、マコトが言った。鉄宗の毛のない頭にまで鳥肌が立つ。『一本だたら、というお化けがいます。山に住み、独眼独脚――つまり一つ目で一本足だとという』#OnM_1 144

2014-11-29 19:29:35
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『一説にそれは、片目で炉を覗き、片足でふいごを踏む製鉄職能者の姿を表わしたものであるとか。さらに遡れば神話のアメノマヒトツノカミ――これもやはり独眼、かつ製鉄の神です。ああ、ゼウスの雷梃を作った製鉄巨人キクロプスも一つ目でしたね。面白い符合です』#OnM_1 145

2014-11-29 19:30:09
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『そして哀の中には、連綿と続いてきた独眼妖怪の系譜が――ミーム(文化遺伝子)が眠っています。人間のDNAに、魚や両生類であった頃の記憶が刻まれているように。その中には当然、製鉄に関する情報も残されている――』『……何を、言っている?』『ですから』#OnM_1 146

2014-11-29 19:30:38
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『お化けとはそれ単体で存在するものではない、と言っているのです』《白夜》は金属球を握る手に力をこめた。球体が赤熱し、みるみるうちに変形してゆく。金属棒へ――そして剣へ!『ミームの力を引き出し、お化けとともに戦う。それがミームドライバーの、本当の力!』#OnM_1 147

2014-11-29 19:31:01
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火の粉を払って振り抜いたそれは、古代風の直剣に変じていた。切先に目玉の紋が刻印されている。金縛りにかかったように硬直していた《ASURA》が、慌ててアームを鉄爪に変形させようとした。しかし、遅い。《白夜》は地を這うような姿勢で疾走した。刀身が赤く熱を帯びる。#OnM_1 148

2014-11-29 19:31:32
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

すれ違い様、マコトは残ったアームのうち二本を溶断。返す刃で、《ASURA》の膝の裏に切りつけた。装甲が豆腐のように裂け、巨体がバランスを崩す。残った二本の腕が、じたばたと虚空を掻いた。『何故だッ。何故……』鉄宗が絶叫する。マコトは剣を、八相に構えた。#OnM_1 149

2014-11-29 19:32:08
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

『あなたたちは、書物を燃やして暖を取ろうとする』闇の中で、《白夜》のバイザーが煌々と輝いた。刀身が燃え、炎が伸び上がる。『私たちは、書物を読みたいと思う。書物と一緒に生きたいと思う! これはその違いだ!!』#OnM_1 150

2014-11-29 19:32:31
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『ウ、ウワーッ! ウワァーッ!! オンキリキリ・オンキリキリ・ノウマク・サマン……』錯乱した鉄宗は残った腕をばたつかせ、不恰好な印を結ぶ――無意味! 『その適当な真言やめなさいっての』哀が溜息を吐く。電子音声が吼える! 『『オーバードライブ!』』#OnM_1 151

2014-11-29 19:33:02
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マコトが踏みこむ。ミームの赤い輝きが、ひときわ強く迸った。『イチガン……クラーッシュ!!』袈裟懸けの斬撃が真紅の軌跡を描き――《ASURA》の胴体を、斜めに断ち割った。エクトプラズム循環路をエネルギーが逆流し、青白い爆炎で機体が弾け飛ぶ!#OnM_1 152

2014-11-29 19:33:35
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

爆炎が晴れた後に残ったのは、原形を留めぬほどに破壊され融け崩れた《ASURA》の残骸と、袈裟が焼け焦げて半裸になった鉄宗であった。確かに刃が通過したはずの腹にはいかなる超常の作用か、焼印のような筋だけが黒々と焼きつけられているきりで、傷はない。#OnM_1 153

2014-11-29 19:34:06
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

全ての敵を無力化したマコトは拘束を引きちぎり、神奈を解放した。まだ熱を帯びている金属の腕に抱かれながら、神奈は半分以上、夢見心地のままで問うた。「あなたは……一体……」『私?』マコトは笑った。少しだけ、誇らしげに。『私は戦争の敵で、お化けの味方です』#OnM_1 154

2014-11-29 19:34:39
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

それから数日間は大わらわだった。神奈は生まれて初めて警察の事情聴取を受け、担任の芳賀先生からは授業中の抜け出しと知らない相手にほいほいついていったことの両方について、こってりしぼられた。両親には泣かれた。#OnM_1 155

2014-11-29 19:36:19
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

助かったのは、マコトが事情聴取や学校への説明にまで同行して、神奈の非になるはずのところを全部被ってくれたことだった。気がつくと神奈は、素行の悪い友達のために身体を張った義侠心ある女の子ということになっていた。#OnM_1 156

2014-11-29 19:36:32
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

後はローカル局で「鹿羽町でガス管が爆発」と「女子高生に淫行を働こうとした偽坊主が逮捕」のニュースが別々に流れて、それっきり。実際のところ、鉄宗はとっくに本山から破門された身で、僧侶でもなんでもなかったのだという。#OnM_1 157

2014-11-29 19:37:03
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

そんなわけで一週間もする頃には、拍子抜けするくらいにこれまで通りの日常が戻ってきていた。だから放課後、マコトに呼び止められたときは驚いた。「ちょっと、お時間よろしいですか? ……お胸のことで」腫瘍はまだ、神奈の胸に巣くったままだった。#OnM_1 158

2014-11-29 19:37:35
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

サイドカーの側車に乗せられて(なぜか運転中、マコトはずっと『カランコロンの歌』を鼻歌で奏でていた)、連れていかれたのは市の図書館だった。郷土資料館が併設されている。堂々とバックヤードに侵入すると、マコトは神奈の手を引いて屋上へのぼった。#OnM_1 159

2014-11-29 19:38:09
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「ここなら人目につきませんから」「あ、うん」少し心配になった。自分は何も学習していないのかも。「上繁さんの胸にいるのは《人面瘡》というお化けです。これをご覧ください」彼女が差し出したのは、角の擦り切れた妖怪図鑑だった。一反木綿の栞がはさんである。#OnM_1 160

2014-11-29 19:39:04