オバケのミカタ第一話『オバケのミカタと人面瘡』Cパート(3/3)

twitter連載小説『オバケのミカタ』第一話Cパートです。
4
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「人面瘡……足にできた腫れ物に目口ができて人の顔に……時には人語を喋る。うわ、これ! これだよ!」マコトはニコニコしながら言った。「対処法も書いてありますよね?」「ある。えっと、貝母を嫌がるので無理矢理食べさせたところ、消え失せた……バイモ?」#OnM_1 161

2014-11-29 19:39:44
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「アミガサユリの根のことですね。漢方薬の一種です。――はい、そしてそれを乾燥させて粉末にしたのが、こちらになります」料理番組みたいな手際の良さで差し出された薬包を、神奈はしげしげと眺めた。「……いいの?」「?」「だって、曲さんはお化けの味方なんでしょう」#OnM_1 162

2014-11-29 19:40:06
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「いいんです」マコトは眼鏡の奥で、瞳をきゅっと細めた。「むしろそうして頂かないと、完成しないので」「……?」神奈は促されるまま、腫瘍の口に貝母の粉末を含ませた。効果は覿面だった。人面瘡はみるみる小さくなり、消えた後には傷一つ残らなかった。#OnM_1 163

2014-11-29 19:40:42
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「ほ……本当に治った」「まだです」「え?」「本当は寝静まった後なんかに、こっそりするそうなんですけど。今回は特別に見せていただこうかと。……いいですよ、やってください」マコトの声に応えるように、神奈の手の甲からサンゴのような枝が生えた。「!?」#OnM_1 164

2014-11-29 19:41:00
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

春の南風が吹いた。と、サンゴ様の物体が身を震わせたかと思うと、まさしくサンゴの産卵そのままに、空中へ無数の光の粒を放出しはじめた。それは風に乗り、長くたなびく光の帯となった。まるで夕方の空に天の川がかかったようだった。神奈は我を忘れ、その光景を眺めていた。#OnM_1 165

2014-11-29 19:41:41
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

光を放出し尽くすと、サンゴは色褪せながらみるみる萎れ、神奈の手から剥がれて落ちた。マコトそれを拾いながら言った。「はい、これで今度こそおしまいです。もう何も心配要りませんよ」「い、今のは?」「種です」「種?」「人面瘡の、種ですよ」#OnM_1 166

2014-11-29 19:42:03
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

神奈は青ざめた。「じゃあまさか、あれが人に取り憑いたら、また……」「人面瘡になるでしょうね」「えーっ!?」「お化けとは文化、情報です。もしも情報の中に『退治の仕方』が含まれているのなら……それも当然、お化けの一部なのですよ」#OnM_1 167

2014-11-29 19:42:30
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「むしろ指定された対処法をなぞることで情報は補強され、ミームは拡散する。お化けは元気になるんです。それは力ずくで存在そのものを破壊しようという、あの男たちのやり方とは、一線を画すべきものなのです」神奈にはよく分からない。分からないなりに気になった。#OnM_1 168

2014-11-29 19:43:00
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「でも……そうしたらまた、あたしみたいに困っちゃう人が出るんじゃ?」「お化けが生きていくためには人間が必要です。本気で人間に危害を加えようとするお化けなんて、いませんよ」「そうかもしれないけど! 怖い思いはするじゃない!」マコトがくくっと喉を鳴らした。#OnM_1 169

2014-11-29 19:43:50
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「そこは私、お化けの味方ですから」神奈は凍りついた。最後の最後で突き放された気がした。言外に「お前を助けたわけじゃない」と言われた気分だ――同時に、腑に落ちもした。彼女が学校生活に身を入れない理由。彼女が帰属する場所は「そちら側」なのだ。#OnM_1 170

2014-11-29 19:44:30
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「マーコートーッ!」地上の駐車場から呼び声がした。見下ろせば、サイドカーの前で哀がこちらを見上げている。さらにニット帽を被った男子小学生と、黒い着物に金メッシュの髪をした派手な女性がその傍らにいた。「事件ですか!」「例のUMAハンターが関東入りしたって!」#OnM_1 171

2014-11-29 19:45:01
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「すいません上繁さん。仕事が入ってしまいましたので、私はこれで」「あ、ま、待って!」「はい?」「……最後に一つだけ。曲さんは……人間? それとも……」マコトは一瞬だけ、虚を突かれたような顔になると、苦笑気味に眉尻を下げた。「……人間です。でも、その前に」#OnM_1 172

2014-11-29 19:45:42
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

マコトは屋上の手すりに手をかけた。地上三階。「私は、お化けの味方です!」そして彼女は、一息に手すりを飛び越えた。神奈があっと叫んで除きこむと、マコトが壁の配水管を伝い、するすると滑り降りてゆくのが目に入った。#OnM_1 173

2014-11-29 19:46:07
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「人間である前に……かぁ」神奈は急発進するサイドカーを見送りながらひとりごちた。人間がいて、人間を怖がらせるお化けがいて、そのお化けを狩る者がいて、そしてさらにそれを打ち倒す者――お化けの味方がいる。それは多分、この世で一番怖いものだ。#OnM_1 174

2014-11-29 19:46:31
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

(……それでも)マコトは人間性を捨ててしまいたいわけではないのだと、神奈は思いたかった。彼女が学校に来ているのはその証なのだと。「……うん」今度機会を見つけて、お昼ご飯にでも誘ってみよう。なぜか神奈はそう思った。#OnM_1 175

2014-11-29 19:47:03
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

第一話『オバケのミカタと人面瘡』終わり  ~ 第二話『オバケのミカタと川獺』に続く

2014-11-29 19:47:45