オバケのミカタ第二話『オバケのミカタと川獺』Aパート(1/2)

第二話Aパートです。
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アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「単行本も買わなくちゃいけませんし……。電子書籍もいいんですけど、装丁が綺麗な本はやっぱり紙で欲しいですし、雑誌はスクラップにもしますから」「あー、うん、うん。っていうか、アレ? 曲さんって、意外とコアな漫画好き?」「漫画は大好きです!」丸眼鏡の奥で瞳が輝く。 #OnM_2 24

2014-12-06 22:37:24
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「じゃあさ、今日の放課後、うち来ない?」「え」「『ビビル』のバックナンバー、確か取ってあったと思うから」「え」「……迷惑だった? 忙しい?」「いえ」マコトが痙攣じみた動作で首を振ると、ふわふわの髪が膨らんで顔にまとわりついた。「よかった」神奈は微笑んだ。 #OnM_2 25

2014-12-06 22:38:11
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

同時刻、関東某県、とある山奥。碌に舗装すらされていない山道を、大層大雑把な運転で走破してゆく、一台のワゴン車があった。外車である。車体の周囲は金柵で補強され、屋根には怪しげなパラボラアンテナ。車検を通るかと言われれば、極めて疑わしい。 #OnM_2 26

2014-12-06 22:39:39
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

一車線しかない道をはみ出さんばかりに占領しながら走っていたワゴンは、やがてスピードをゆるめ、止まった。道がそこで途切れていたからだ。その先には茫々と生い茂った雑草の中に、獣道めいた細い切れ目がかろうじて刻まれているきりである。 #OnM_2 27

2014-12-06 22:41:09
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

ワゴンから、男が降りた。がっしりした長身。テンガロンハットにサングラス、皮ジャンに薄汚れたジーンズ。モジャモジャの髪の毛と髭を伸ばし放題にしている。彼の名はジャンゴ=ジョンストン。アメリカ人。化物を狩ることを生業とする、UMAハンターである。 #OnM_2 28

2014-12-06 22:42:09
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

元々彼は、自国内でビッグフットやチュパカブラを狩っては、その肉体から搾り取ったエクトプラズムを売って生活していた。だが、ここ数年はめっきり収入が落ちこんでいた。何のことはない、米国内のめぼしいお化けが、彼や同業者によって粗方狩り尽くされてしまったためである。 #OnM_2 29

2014-12-06 22:43:37
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そこで彼は日本にやってきた。この国には、いまだ多くの化物が住んでいる。第二次大戦以降、戦争や内戦が起きなかったおかげでエクトプラズムの国内需要が生じなかったこと……60年代の妖怪ブームの影響で、お化けの生育に適した文化環境が整ったこと……理由はいろいろある。 #OnM_2 30

2014-12-06 22:45:06
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

とにかく今の日本は、E兵器産業に携わる人間なら垂涎ものの狩場なのだ。ジャンゴはデバイスの地図アプリで、エクトプラズム反応が出ているポイントの位置を確かめた。ここからはそれなりの距離がある。彼はぱんぱんに膨らんだザックを背負い、より深い森の中へ踏みこんでいった。 #OnM_2 31

2014-12-06 22:46:18
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そしてその様子を、幼い少年と若い女性の二人組が、低木の茂みの陰からじっと観察していた。少年はニット帽を目深にかぶり、やや大きめのパーカーを着こんでいる。とろんとした瞳とふっくらした頬が、いかにも内向的で大人しそうだ。名を、充(みつる)という。 #OnM_2 32

2014-12-06 22:47:13
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

対するに、女の方はひどく派手だった。髪は黒金メッシュの斑模様で、後頭部で縛った所からパイナップルの葉のように広がっている。胸の大きく開いた着物風ドレスに、ごついブーツ。着物の柄はセアカゴケグモだ。名前は沙綾(さーや)。彼女は唸った。「野郎、どこ行くつもりだ?」 #OnM_2 33

2014-12-06 22:48:15
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

と、一匹のアマガエルが充の肩にぴょんと飛び乗ったかと思うと、彼の耳の中に頭を突っこみ、何事か囁きはじめた。「うん……うん。えっ、本当?」真剣な顔でそれに耳を傾けていた充は、連れの方に向き直る。「沙綾お姉ちゃん、まずいかも」「何がだよ」 #OnM_2 34

2014-12-06 22:49:16
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「この先の淵で、新しいお化けが生まれそうなんだって。多分それが狙いなんだよ」「あァ?」沙綾はパイナップル頭を掻きむしった。「なんだってまたこんな時に――他所に逃がせねェのかよ?」「まだ身体が固まりきってみたいだし、絶対安静だと思う」「じゃあどうすんだ」 #OnM_2 35

2014-12-06 22:50:12
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「マコトお姉ちゃんに来てもらおうよ」「間に合わねえぞ」「……僕たちで時間稼ぐしかないと思う」「仕方ねえなァ。じゃあお前、さっさとマコの奴呼べよ」「さっきからそうしようとしてるんだけど、携帯の電波入らなくて」沙綾は舌打ちした。「仕方ねえなァ」 #OnM_2 36

2014-12-06 22:51:17
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沙綾が天に向かって手を延べると、袖口から、小さな蜘蛛が一匹這い出してきた。蜘蛛が尻から糸を繰り出すと、それは風に乗り、ヒラヒラとたなびいた。沙綾がフッと息を吹きかけると、蜘蛛は彼女の手を離陸して、どこへともなく飛んでいく。「あれちゃんと彩瓦に着く?」「多分な」 #OnM_2 37

2014-12-06 22:52:26
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

沙綾は肩をぐるぐると回し、好戦的な笑みを浮かべた。「どれ、そんじゃァひと暴れするとしますかい」「沙綾お姉ちゃん、分かってると思うけど……」「時間稼ぎだろ。わーってるわーってる」「相手は絶対、霊動装甲持ってるからね。勝ち目ないよ」 #OnM_2 38

2014-12-06 22:53:51
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「フン。しっかし、仲間を守るのに人間の手を借りなくちゃいけねェってのは、なんかこう、歯がゆいな。お化けが死ぬも生きるも、人間サマの手の平の上ってか?」「それはしょうがないよ」充がその外見に似合わぬ、達観した調子で言った。「お化けは人間が創るものだもん」 #OnM_2 39

2014-12-06 22:54:56
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「そうかい。……あらよっ!」沙綾は向かいの枝めがけて、指先からピアノ線のような糸を投射した。枝に糸がしっかりへばりついたのを確かめてから、地面を蹴る。充も手近な樹にとりつくと、その幹をスルスルと登った。猿のような身軽さで、そこから別の幹へ飛ぶ。 #OnM_2 40

2014-12-06 22:56:08
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

幹から幹へ、枝から枝へーー沙綾と充は驚くべき速さで森を駆けた。上空から見れば、二人の動きに沿って樹々が揺れる様が、海上に残る船の航跡のように見て取れたであろう。驚いた野鳥の群がパッと飛び立ち、山全体が不穏な予感にざわめきはじめた。 #OnM_2 41

2014-12-06 22:57:24
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

放課後。神奈は自宅のリビングを片づけながら、マコトの来訪を待っていた。ちょっと落ち着かない。初めての相手を家に招くときに特有の緊張感と、期待感――だけではない。なにせこれから来る相手は、パワードスーツを着こんで悪と戦ったりするような、非日常的女の子なのだ。 #OnM_2 42

2014-12-06 22:59:06
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

――ピンポーン。チャイムが鳴った。「来た!」約束の十六時半きっかりだ。神奈は玄関に走り、ドアを開けて、マコトを招き入れた。私服かと思いきや、彼女は制服姿だ。代わりに、と言うべきか、白い紙袋を大事そうに捧げ持っている。「いらっしゃい。さ、あがってあがって」 #OnM_2 43

2014-12-06 22:59:47
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

マコトはぎこちなく頷いた。「おじゃまします。……あ、あの、このたびはお招きいただき、ありがとうございました。これ、つまらないものですが!」突き出された紙袋に人気の銘菓のロゴを発見し、神奈は目を丸くした。「菓子折!? いいんだよそんなにかしこまらなくても!?」 #OnM_2 44

2014-12-06 23:01:06
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

リビングに案内される間も、マコトは見知らぬ場所に連れてこられた猫みたいに落ち着かなさげな様子だった。ついこの間、「その筋」の人たちの溜まり場に拳一つで殴りこんできたときの、ふてぶてしさや力強さは、ない。(あたしん家そんなに落ち着かないかな。それとも) #OnM_2 45

2014-12-06 23:02:28
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「曲さんって、あまりよそん家で遊んだりしないタイプ?」マコトはぎくっと身体を強ばらせると、なぜか言い訳がましく、ぼそぼそと答えた。「はい……じ、実は、今日が初めてで」「お、おおう」あまりよそで遊ばないタイプ、どころの話ではなかった。まさか初体験とは。 #OnM_2 46

2014-12-06 23:03:46