形式主義と後期クイーン的問題

法月論考『初期クイーン論』『一九三二年の傑作群をめぐって』を中心に、後期クイーン的問題をめぐるあれこれをまとめました
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@quantumspin

最初に、死体―犯人―作者の関係について。死体と犯人との関係に着目すると、犯人は死体の創造主であり、死体に関する全てを認識する立場にある。この点において、死体は犯人の部分集合で例えることができ、犯人は死体の上位レベルにあると言える。

2014-12-12 19:23:04
@quantumspin

次に、犯人と作者との関係に着目すると、作者は犯人の創造主であり、犯人に関する全てを認識する立場にある。この点において、犯人は作者の部分集合で例えることができ、作者は犯人の上位レベルにあると言える。このように、作者―犯人―死体の関係を、タイプ理論になぞらえて理解する事は妥当に思える

2014-12-12 19:26:00
@quantumspin

では、死体―探偵―読者の関係について、同様の考え方があてはまるだろうか。いうまでもなくこれは否である。探偵は死体の創造主ではないし、読者は探偵の創造主ではない。法月の認識では、作者と読者、犯人と探偵とは、死体に対して同じ階層に位置するとしているが、この前提がすでに不自然に思える。

2014-12-12 19:34:25
@quantumspin

死体も犯人も探偵も、作者が創造したものであり、作者の下位レベルに位置する。読者は作者の創造した作品世界を、小説という文字情報でしか認識する事ができないのならば、読者の作品世界の理解レベルは、犯人や作者に劣るばかりか、探偵にすら劣り、彼らの下位に位置すると見るべきではないだろうか。

2014-12-12 20:20:39
@quantumspin

仮に、読者だけが認識できる手掛りがあれば、探偵はそれを知れず謎を解決できない。探偵が、知りえない筈の手掛りに基づき推理できたら、それは不健全である。他方、探偵のみ認識できる手掛りがあればアンフェアになる。こうして、フェアな探偵小説には探偵と読者に認識の平等性が求められる事になる。

2014-12-12 20:48:52
@quantumspin

探偵と読者との間に求められる、この認識の平等性の扱いの違いが、法月とヴァン・ダインとの、フェア・プレイ観の違いを現していると考えられる。法月が、作者と読者との間のフェア・プレイを重視しているのに対し、ヴァン・ダインは、探偵読者との間のフェア・プレイを重視している。

2014-12-13 11:48:02
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@quantumspin お待たせしました。法月論考のまとめの疑問点ですが、こちらのつぶやきの「20則を満足する探偵小説は、~と言う事になる」というのは具体的にはどの論考によるものでしょうか。実はそこからつまずいております。

2014-12-13 00:51:35
@quantumspin

@tsuruba ご指摘の点は、法月"複雑な殺人芸術"p.211注(4)に拠ります。法月は、「本格推理小説」をひとつの「公理系」に例えると、20則(のうち、フェアプレイ原則に言及している部分の分類)は、公理系の完全性、独立性、無矛盾性の基準に対応するものと見なしうる、としています

2014-12-13 08:11:27
@quantumspin

@tsuruba 『「本格推理小説」をひとつの「公理系」に例える』という表現はあいまいですが、文脈からは、『「全手掛かり」をひとつの「公理系」に例える』と主張しているように思われます。もし全手掛かりが完全性、独立性、無矛盾性を満足するなら、演繹推論により唯一解に辿り着けます。

2014-12-13 08:27:01
@quantumspin

@tsuruba 20則には、直接的に唯一解に言及した個所はありませんが、もし20則が手掛かりに完全性(Aが犯人であることがその手掛かりから得られること)、無矛盾性("Aは犯人である"と"Aは犯人でない"とを同時証明することが不可能であること)を要請するなら、唯一解が導かれます。

2014-12-13 08:47:30
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@quantumspin ご返信をどうも。僕の思うあやうさというのは、当該箇所から「20則を満足する探偵小説は、~と言う事になる」ということは導けないはずなのに、そのように書かれていることです。カッコ書きにもあるとおり、法月さんは「二十則」と「フェアプレイの原則」をわけています。

2014-12-13 16:01:05
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@quantumspin これはなかなかに重要なのは、法月さんが言及していない二十則残りを参照いただければわかっていただけるかと思います。

2014-12-13 16:05:05
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@quantumspin また、なぜ「手掛りからの演繹推論のみ」というなかで「演繹推論」という言葉が選ばれているのかもよくわからないところです。「推論」ではなく「演繹推論」なのですよね。すくなくとも法月さんはこの言葉を本文中では使用しておりません。

2014-12-13 16:23:55
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@quantumspin このように一概には間違いでもないのですが、法月論考のまとめのニュアンスが変わっていて、あやうさを感じさせるところがあるもので、先のようなツイートになりました。とまれ論文ではなくつぶやきなのに細かい指摘をしましてすみません。どうぞ続けてつぶやいてください。

2014-12-13 16:49:44
@quantumspin

@tsuruba お待たせしました。確かに、法月さんは二十則とフェアプレイの原則をわけていますが、同時に、二十則はフェアプレイの原則に言及しており、これらの信条が本格推理小説の完全性、独立性、無矛盾性の基準に対応するものと見なしうる、と主張しています。

2014-12-13 22:33:47
@quantumspin

@tsuruba 一方の演繹推論については、アブダクションを含まない、ということを強調する為に用いていましたが、確かに、あまり正確な表現ではなかったかもしれませんね。ご指摘ありがとうございます。

2014-12-14 00:03:08
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@quantumspin いえいえ、アブダクションを思ってのこととは思いませんでした。あと、そうであるならば、推理小説の作中で行われている推理の多くは「仮説演繹法(=帰納法)」なので、それがのぞかれるように読めることも気にはしておりました。

2014-12-14 00:18:39
@quantumspin

@tsuruba 念の為、法月さんの議論は二十則を満足する探偵小説(=完全性、独立性、無矛盾性の基準に対応する信条をクリアする探偵小説)に関する事、従って、“(既存)推理小説の作中で行われている推理の多く”を問題にしているわけではない事を、蛇足ながら補足させていただきます。

2014-12-14 08:56:07
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@quantumspin では、私も念のため。法月さんの「初期クイーン論」「1932年~」は、フェアプレイの原則が既存の推理小説のなか、つまり「犯人と探偵の関係性」においても、かつ「読者と作者の関係性」においても成り立つかどうかを検証したものです。

2014-12-14 09:25:05
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@quantumspin そして、それは結局、成り立つとはいえないという結論になります。それが「後期クイーン的問題」の核心です。

2014-12-14 09:25:53
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@quantumspin あと、琳さんは「完全性、独立性、無矛盾性」を全面に出して議論をすることを続けておりますが、法月さんは論考の本文では、「無矛盾性」以外については、主体的に検証を行っておりません。注の中で「たとえ」のひとつとして言及されるのみです。

2014-12-14 09:31:55
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@quantumspin もちろん、法月さんの論考を解釈すれば、フェアプレイの原則を議論するなかで、「完全性」や「独立性」について考えているかのようなところもあるかと思います。しかし、それを第三者に示すには、そのように読める箇所を明示し、立証する必要があります。

2014-12-14 09:36:22
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@quantumspin なので、今回のやりとりで「当該箇所から『20則を満足する探偵小説は、~と言う事になる』ということは導けないはずなのに、そのように書かれている」という僕のあやうさへの懸念はさらに強まったと言わざるをえません。

2014-12-14 09:42:19
@quantumspin

@tsuruba 二十則のフェアプレイに関する信条が、公理主義的に厳密な意味での『形式化』を指向している事を法月が読みとった点こそ、私は重要と考えます。従って、その「注」の「たとえ」が、「」にすぎないとは思いません。ともあれ、蔓葉さんのご意見を参考に、考察を先に進めたいと思います

2014-12-14 11:56:30
@quantumspin

笠井は『探偵小説論Ⅱ』の中で、『十日間の不思議』で(…)『後期クイーン的問題』が不可避的に生じる、とし、同時に、『十日間の不思議』の特異性は、(証拠や証言は作品空間の内部で真偽を判断しうる)そうした本格探偵小説のルールから逸脱している点にある、としている。

2014-12-15 10:44:42