- OBAKEnoMIKATA
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両者が間合いを切った瞬間。『レーザー照射!』『ゲイザー・ミームビーム!』《ザンクト・ゲオルク》の肩から高出力の紫外線レーザーが、《白夜》のバイザーから真っ赤な熱光線がそれぞれ発射され、空中でぶつかり合った。拡散したエネルギーが壁を、天井を、廊下を焼く。#OnM_3 146
2015-01-03 22:01:09流れビームが階段の方へ飛んで行き、髪の毛を焼かれた沙綾が慌てて身を伏せる。「わーッ! バカ、マコ、気をつけろィ!」彼女はミルノフとホルスキーの傷を荒っぽく止血し、ついでに手足を縛り上げて、階段の手すりに拘束している最中であった。#OnM_3 147
2015-01-03 22:01:51爆炎と煤塵を突き破り、アニタが突進した。スピードの乗った強力な刺突を繰り出す。マコトは半身になってそれを避けると、装甲のない頸部めがけてナイフを振るう。咄嗟にアニタは身を沈め、その勢いを利用して回し蹴りを放つ。その蹴り足を、マコトは難なく掴みとった。#OnM_3 148
2015-01-03 22:02:52ナイフはフェイント。まんまと誘いにかかったのだと気づいたが、既に遅い。赤熱した刃が振り下ろされたかと思うと、大腿部と腰部の継ぎ目に露出する電動ケーブルを断ち切った。『ぐあっ!』青白いスパークが迸り、アニタの右脚が鉛のように重くなった。『こいつーッ!!』#OnM_3 149
2015-01-03 22:04:00苦し紛れの刺突を軽く飛び退いてかわすと、マコトはその腕の戻りに合わせて鞭のようにしなるハイキックを見舞った。インパクトの瞬間、足先が巻きつくように相手の頭部へ密着し、キックの衝撃を余さずメット内に浸透させる。アニタがたたらを踏み、倒れた。#OnM_3 150
2015-01-03 22:04:47片膝をついて身を起こすが、スーツのケーブルを断たれた右脚は思うように動かない。蹴りやすい位置に降りてきた《ザンクト・ゲオルク》の顔面に、マコトは横蹴りを食らわせた。後頭部を壁に打ちつけられ、はねかえってきた顔へ、さらに駆け寄っての膝蹴りを浴びせる!#OnM_3 151
2015-01-03 22:06:42霊動装甲の頭部は強固な装甲に守られているが、カメラ類やセンサーが集中する繊細な部位でもある。マコトは決着を急がず、着実に相手の戦闘能力を削いだ上でとどめを刺すつもりだった。《ザンクト・ゲオルク》の右目カメラが砕け、四色のコードが視神経のように飛び出す。#OnM_3 152
2015-01-03 22:07:03『貴様……なぜだ。なぜだ……?』ぜいぜいと荒い息をつきながら、アニタがうめいた。『吸血鬼には人を殺す力がある。駆除する理由はそれで十分だろうが。奴らの暮らしぶりなど関係ない。興味もない。害虫は、害虫に生まれたというだけで死に値する存在なのだ! そうだろう!?』#OnM_3 153
2015-01-03 22:07:52更なる蹴りを放とうとしていたマコトの動きが、ぴたりと止まった。『……なるほど。それが理由ですか』そして驚くほど無造作な歩みで、《ザンクト・ゲオルク》に歩み寄る。『マコトっ?』ミームドライバーのトレイに収まった哀が、思わぬ行動に不安げな声を発した。#OnM_3 154
2015-01-03 22:08:51(好機……!)相手がリーチ内に入ったと見るが早いか、アニタは右拳の突きを繰り出した。片足を潰された状態では碌に威力も乗せられないが、パイル・バックラーの杭打ち機構は拳速の助けを借りずとも、《白夜》の装甲を貫くのに十分な破壊力を持っている。『死ねーッ!』#OnM_3 155
2015-01-03 22:09:33マコトは避けなかった。逆に自分から突っむことで狙いをズラし、致命傷を避けると同時にアニタの懐に潜りこんだ。杭がマコトの肩を浅く貫く。マコトは右手で相手の首をがっちり掴むなり、後頭部を壁に叩きつけた。万力のような五指が喉笛に食いこみ、アニタの首を圧迫する!#OnM_3 156
2015-01-03 22:10:08『人間を殺す力があるから、滅ぼす? なら人間はどうなのです。生身の人間だって腕一本ありさえすば、人なんて簡単に殺せます。ひと振りの包丁、一本の紐、僅かな青酸カリがありさえすれば、子供にだってできる! それすら脅威だと言うのなら、あなたは人間も排除しますか!』#OnM_3 157
2015-01-03 22:11:53指の力が、首を握り折らんばかりに強まった。アニタは杭を引き戻そうとするが、マコトの左手にバックラーを掴まれている上、貫通した装甲に杭が引っかかり、果たせぬ。『そんな戦いを続けてどうなるんです。誰が幸せに? 一体何が残るというんです!』#OnM_3 158
2015-01-03 22:12:44神奈は呆然と、相手の繰り返した。「……傭兵?」自分で口にしてみると、驚くほど嘘っぽい。六実は妙な角度に首を曲げ、しかし真面目な顔で眉間に皺を寄せた。「うん。今風に言うとPMC? って言うのかな? 民間軍事会社、とか言うやつ。マコちゃん、そこで育てられたのね」#OnM_3 159
2015-01-03 22:14:43「え。あの、ごめんなさい。全然分かりません」「ああ。待って、順を追って説明するから~……マコちゃんのご両親って外交官でね。ずっとアフリカにいたんだって。で、マコちゃんも一緒にそこで暮らしてたの。でも、マコちゃんが七歳ぐらいのとき、クーデターが起こってね――」#OnM_3 160
2015-01-03 22:15:10「ご両親はマコちゃんだけでも脱出させようとしたらしいんだけど。運悪く、反政府派の攻撃に巻きこまれて――」六実の背後に、神奈は異国の戦場を見ていた。爆発で舞い上がる赤土。銃撃で穴だらけになったジープ。血と硝煙の臭い、キャタピラの音と振動……。#OnM_3 161
2015-01-03 22:15:36「奇跡的に生き残ったマコちゃんは、政府に雇われて事態の鎮圧に当たってたPMCに拾われた。でも果たして救出されたんだか拉致されたんだか、って感じで……。そいつらもね、碌でもない連中だったのよ。子供さらってきちゃ少年兵に仕立て上げて、二束三文で売り飛ばすっていう」#OnM_3 162
2015-01-03 22:16:10「……最初の戦場で何があったかは、あたしも……支部長も知らない。確かなのかマコちゃんがそこで生き残り……『見込みアリ』って判断されたこと。組織の連中はマコちゃんを買い戻し、訓練を受けさせた。格闘、射撃……人の殺し方。そして、お化けの殺し方」#OnM_3 163
2015-01-03 22:16:44「え?」空想の景色が突如、悪夢のようにぐにゃりとねじれた。「マコちゃんを育てた組織は、エクトプラズムの売買にも手を染めてたの。ある日は紛争地域で人を撃ち――違う日はジャングルの奥地でお化けを狩った。ハイエナ憑きや、ササボンサムや、モケーレ・ムベンベなんかを」#OnM_3 164
2015-01-03 22:17:27マコトの肩から流れ出した血が杭の溝を伝って流れ落ち、《ザンクト・ゲオルク》の指先を濡らした。その人差し指には、青白く光る指輪型デバイスが嵌まっている――酸欠で震える親指がそれを撫でると、たちまち新たな霊子の輝きがアニタの身体を包みこんだ。『!!』#OnM_3 165
2015-01-03 22:18:21このまま相手を絞め落とすつもりだったマコトは、身を引くのが間に合わない。突如出現した巨大な質量にはね飛ばされ、マコトの身体は反対側の壁に激突した。そのまま壁を突き破り、室内に転げこむ。#OnM_3 166
2015-01-03 22:18:55「マコっ!?」沙綾が叫び、そして見た。《ザンクト・ゲオルク》の装飾的なボディに、まるで不釣り合いな翼――宇宙戦闘機のように幾何学的な翼が装備されているのを。『ハァ……ハァッ……』スラスターから青い炎を噴く翼に吊り上げられ、アニタは操り人形のように立ち上がった。#OnM_3 167
2015-01-03 22:19:21