オバケのミカタ第三話『オバケのミカタと吸血鬼』Cパート(3/3)

第三話Cパートです。
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アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

『あ、遊びはここまでだ……。そこまで害虫どもに与したいと言うなら! 望み通り貴様も、奴らともども駆除してくれる!』スラスターが角度を変える。《ザンクト・ゲオルク》は銀色の矢となり、マコトが開けた穴から室内へと突っこんだ。衝撃が『椿ハイツ』を揺らす。#OnM_3 168

2015-01-03 22:20:05
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

(ヤバいか……!?)沙綾は慌ててそれを追った。穴から室内を覗きこむと、もつれ合う二機の霊動装甲がベランダに面する窓を破壊し、中庭へ転がり出るところだった。薔薇の花壇に叩きつけられるマコト。対するアニタは空中で巧みな姿勢制御を行い、即座に上空へ舞い上がる!#OnM_3 169

2015-01-03 22:20:43
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

空高く浮かんだアニタは、翼のオプション兵装である二挺の霊子マシンガンを抜いた。翼本体から伸びるチューブでエクトプラズムを供給――銃身内で高威力の光線に変換し、雨あられと連射する。マコトは地上を駆けながらバイザーからの光線で反撃するも、火力差は圧倒的だ。#OnM_3 170

2015-01-03 22:21:03
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

『あれは……EAW-3《ヘルオウル》? 米海兵隊の制式武装を、どうして一介のヴァンパイアハンターが……』『いいからマコト、走って! やられちゃう!』哀が悲痛な叫びを上げる。マコトが駆け抜けた後をエネルギーの弾丸が舐め、地面に無数のクレーターを穿っていった。#OnM_3 171

2015-01-03 22:22:02
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

マコトは駐車場を駆け抜けながら外灯を掴んで折り取り、投げた。投擲の瞬間、それは鋭利な先端を持つ投槍と化している――だがアニタはそれを難なく蹴り落とすと、先程に倍する光弾を浴びせかけた。高所の有利を取った相手に対し、《アイ・ドライブ》は有効な攻撃手段を持たない!#OnM_3 172

2015-01-03 22:22:39
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『沙綾っ!』駐車場の出口を塞いでいたバンを踏み台に跳躍、前転で受け身をとりつつ、マコトは呼ばわった。『沙綾、いますか!』「いるとも」マコトを追って来た沙綾は、ちょうどすぐ傍の外灯に飛び移り、逆さまにぶら下がったところだった。そのままスルスルと下りて来る。#OnM_3 173

2015-01-03 22:23:42
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

太陽は緩やかな稜線の向こうに姿を消しつつあった。逆光が、片手をついて地上に降り立った沙綾を照らす――そこから伸びた影は人間のものではない。毛むくじゃらの八本脚で地を這う、巨大な女郎蜘蛛のそれである! 『ドライブチェンジ』マコトが胸のイジェクトボタンを叩いた。#OnM_3 174

2015-01-03 22:24:09
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哀の変身したミームディスクが排出され、光の文字列を経由して、セーラー服の少女に戻る。哀はバンにもたれかかり、息を切らせながらずるずるとへたりこんだ。入れ替わりに沙綾の姿が分解され、ディスクトレイに吸いこまれた。鮮やかな黄色のディスクが高速回転をはじめる。#OnM_3 175

2015-01-03 22:24:30
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

一瞬、マコトの姿を見失っていたアニタは、バンの陰から漏れる山吹色の光を目聡く見つけ、スラスターを噴かして急行した。霊子マシンガンを構える。だが彼女が発砲するより一瞬早く、象牙色の影が驚異的な跳躍力でバンを飛び越え、降り立っていた――駐車場の外灯の、その上に!#OnM_3 176

2015-01-03 22:25:10
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

《白夜》の体表を、黄金色の電光が駆け巡っていた。それはやがて凝縮され、固着し、新たな装甲を形作ってゆく。内から淡く発光するスモークイエロー。さらにブラックの縞模様が走り、鮮烈な危険色を成す! 電子音声の叫び――『『ジョローグモ!』』#OnM_3 177

2015-01-03 22:26:46
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

細身である。軽装なためか、相対的に《アイ》《ミツル》の二形態より手足が長く見える。手首と踵にはレール状の構造体。それぞれ肘と脹脛のウィンチに直結している。背にやや大振りなバックパック。顔全体を覆う黒いシールドは、銀のフレームで八つに区切られている。#OnM_3 178

2015-01-03 22:27:28
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

『さあ、反撃ですよ』『任せとけ』回転するミームディスクが、沙綾の声で力強く応じる。『あたしとお前が揃えば、“蜘蛛に金網”ってヤツだ!』霊子マシンガンの射撃をかわし、《白夜》が――《サーヤ・ドライブ》が再度跳躍する。迫る宵闇を背景に、山吹色の軌跡が伸びた。#OnM_3 179

2015-01-03 22:28:21
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

ふと我に返ると、既に六実はいなくなっていた。小会議室のテーブルに、コーヒーの空き缶だけが残されている。つい先刻まで橙色の光が漏れていたブラインドの隙間は、暗く沈黙していた。神奈はかぶりを振りつつ立ち上がった。恐怖映画を観た後みたいに頭がぐらぐらする。#OnM_3 180

2015-01-03 22:32:12
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『マコちゃんは傭兵たちと世界中を転戦したわ』六実の語りが頭の中で反響する。『中東、東南アジア、南米。そして二年ちょっと前、日本に帰ってきた。お化けを狩るために――』そして彼女は戦ったのだ。当時、この地を守っていた《お化けの味方》と。哀は元々、彼の相棒だった。#OnM_3 181

2015-01-03 22:32:57
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マコトは敗北し、捕らえられ――そこで彼女の数奇な半生が、特殊文化財局の知るところとなった。……そこから現在に至るまで何があったのか、六実は多くを語らなかった。支部長からの呼び出しを受け、話を急ぎ切り上げたためである。#OnM_3 182

2015-01-03 22:33:22
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

それでも神奈は想像することができた。マコトに降りかかった苦悩、葛藤。自己嫌悪――おのれの運命への憎悪。『君、聞いたわよね。なんでマコちゃんじゃなきゃいけないのか。……半分は彼女自身のためよ。マコちゃんが贖罪を求めたから。それがあの子を、現世に繋ぎとめてる』#OnM_3 183

2015-01-03 22:34:26
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

『……残りの半分は』神奈は問うた。『支部長が言ってたわ。お化けの味方になれる者は少ない。でもこの平和な日本で、戦争の敵になれる者はさらに少ない。マコちゃんはE兵器が人を殺すところを嫌ってほど見てきた――。あの子には、戦争の敵を名乗るに足る動機がある』#OnM_3 184

2015-01-03 22:36:39
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

神奈は打ちのめされた。重すぎる。軽々しく踏み入った自分と、口の軽い六実を恨んだ。こんなことを――自分が彼女の背負っているものに対して、全く無力であるなんてことを、知りたいんじゃなかった。だが。重い泥のように沈殿した心の中から、なおも立ち昇ってくる思いもあった。#OnM_3 185

2015-01-03 22:37:35
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

つい先ほど、神奈は言った。マコトと友達になりたい、と。あれは嘘だろうか? (嘘じゃ――なかった)六実の話を聞いて心変わりはしたろうか? (してない――と、思う)ここで自分が尻ごみして引き下がったとして何になる? 少なくとも、新しい何かが生まれることはない。#OnM_3 186

2015-01-03 22:38:08
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

神奈は立ち上がった。図録の重みを、ずっしりと感じる。自分はマコトの何だ? ――隣の席の、クラスメイトだ。だったらそのように振る舞えばいい。居眠りしてるところを起こしたり、一緒にお昼を食べたり、時々遊びに誘ったりすればいい。それでいいのだ。少なくとも、今は。#OnM_3 187

2015-01-03 22:38:30
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

神奈は立ち去った。無人の小会議室に、コーヒーの空き缶だけが残された。#OnM_3 188

2015-01-03 22:38:41
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

空気を切り裂き、危険色の足先が頭上から飛来する。アニタは咄嗟にバックラーを掲げ、これを防ごうとした。だが《白夜》の身体が空中でぐるりと回転すると、それに伴って蹴り足の軌道も変化。飛び蹴りは変則的なソバットとなり、アニタの脇腹に突き刺さった。『ぐうーッ!?』#OnM_3 189

2015-01-03 22:40:00
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

反撃として繰り出したバックラーの刃は虚しく宙を薙ぎ、霊子マシンガンによる追撃も全弾回避される。山吹色の光を引きながら地上から樹上へ、樹から建物の壁へ、壁から塀の陰へと立体的に駆け回る《白夜》の姿はまさに稲妻だ。見失ったかと思えば、即座に死角から急襲してくる。#OnM_3 190

2015-01-03 22:40:28