オバケのミカタ第三話『オバケのミカタと吸血鬼』Cパート(3/3)

第三話Cパートです。
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アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

瞬間、アニタはいきなり横方向に引っ張られていた。一気に高度が下がり、地上がぐんぐん近づいてくる――咄嗟にスラスターで急制動をかける。そして脇腹に粘着していたピアノ線のごとき糸を、バックラーの刃で切断した。先ほど蹴られた瞬間に貼りつけられていたのだ。#OnM_3 191

2015-01-03 22:40:53
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《サーヤ・ドライブ》最大の武器は、手首と踵のレールから射出される強靭な糸だ。単体ではほぼ透明だが、幾重にも巻きつけると金色がかって見える。先端に粘液の塊を塗付したそれは何十メートルも遠くまで届き、霊動装甲の力をもってしても引き千切ることは容易でない。#OnM_3 192

2015-01-03 22:41:32
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

マコトは地上から糸を投射し、アニタを地上に引き下ろそうとするのみならず、それを駆使した変則的な空中機動で彼女を翻弄していた。放物線を描いて飛びかかってきたかと思えば鋭角的に急降下する。自由落下から突然真横に飛ぶ。ジグザグに低空を走る。アニタはそれを追い切れぬ!#OnM_3 193

2015-01-03 22:44:01
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上空というポジショニング、そして霊子マシンガンの火力。依然としてアニタの優位は揺らいでいない――それなのに攻め切れない。虫のように地上を這い回る相手一人を仕留めることができない。それどころか逆に振り回され、じわじわと消耗させられている――。#OnM_3 194

2015-01-03 22:44:20
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《ヘルオウル》は確かに強力な装備だが、本来はあくまで奇襲・急速離脱用に設計されたものだ。滞空しながらの格闘戦など想定外。それに加えてアニタ自身、先日譲渡されたばかりのこの武器に習熟しているとは言いがたい。対するマコトは、機体をまさしく手足のように扱っている。#OnM_3 195

2015-01-03 22:45:55
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『おのれ――』アニタは焦り、勝負を急いた。翼に二発のみ内蔵された、虎の子の熱感知ミサイルを発射しようとしたのだ。『地獄の炎で焼かれろ!』《白夜》をに照準を合わせ、ロック・オン。即座に発射コマンドを送る。瞬間、【ERROR】表示が視界を埋め尽くした。『!?』#OnM_3 196

2015-01-03 22:46:51
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ミサイルを格納している翼側面の蓋が開かない。空中格闘のさなか、糸で封じられていたのだ! 剥がそうと悪戦苦闘するアニタを尻目に、マコトは悠々と糸をリロードした。ウィンチから空の糸巻きが排出されると、バックパックから四本のアームが伸び、即座に次の糸巻きを装填する。#OnM_3 197

2015-01-03 22:47:45
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《ザンクト・ゲオルク》の顔面・胴・腰に、次々と糸がへばりつく。ウィンチで糸を巻き取りつつ地を蹴ったマコトは、弾丸のような勢いで飛来。勢いを載せた拳を叩きこんだ。左右の連打。蹴りの反発で飛び退きながら踵から糸を繰り出して再び引き寄せ、反対側の足で回し蹴りを放つ。#OnM_3 198

2015-01-03 22:48:26
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ついに《ザンクト・ゲオルク》は体勢復帰に失敗し、『椿ハイツ』の側面に激突した。そのまま壁を破って三階の部屋に飛びこみ、二フロア分の床をぶち抜いて、奇しくも両者が最初に対峙した廊下へと墜落する。マコトは音もなく中庭に着地すると、油断なく壁の穴を睨んだ。#OnM_3 199

2015-01-03 22:49:00
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

やがて――右脚を引きずりつつ、埃に塗れた《ザンクト・ゲオルク》が姿を現わした。衝撃で捻じ曲がった翼が使用不能になったと悟るや、制御装置ごとパージして振り捨てる。装甲はあちこちが歪み、片目の潰れた無惨な姿だが、戦意だけはいささかも衰えてないようだった。#OnM_3 200

2015-01-03 22:49:42
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『まだやりますか』『舐めるな害虫……地下を這いずる醜い虫ケラめ。貴様らを根絶やしにするまで、私の聖戦は――』『昔、この国にもいました。蟲の名で蔑まれ、追われた人々が』『?』『まつろわぬ民。権力者に従わぬ者たち。彼らはこう呼ばれました《土蜘蛛》。あるいは』#OnM_3 201

2015-01-03 22:50:02
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『大和朝廷に抗った飛騨の魔人、《両面宿難》をご存知ですか? 彼は二つの顔と四本の腕、四本の脚を持っていたといいます。手足が八本。何かを連想しますね』マコトの口調が僅かに笑みを含む。『彼らは果たして邪悪な存在だったのでしょうか――そうではないと思います』#OnM_3 203

2015-01-03 22:50:33
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『畢竟、歴史は勝者が作るもの。いつだって、どこだってそうです。敗者は死者。何一つ語ることを許されない。逆に一度、上に立ってしまいさえすれば、どんな悪逆非道も口先一つで善行・美談に早変わりします。それが戦争です。国家間の争いに限らず、会社でも、学校でも……』#OnM_3 204

2015-01-03 22:51:07
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アニタは反論した。『貴様は間違っている。この世に邪悪はある。成さねばならぬ正義もある! 滅びた者がいるのならそれも天意だ。罪の報いだ!』『そうかもしれません。でも、そうではないかもしれない。決める権利は、私にはありません。あなたにもない。……誰にもない』#OnM_3 205

2015-01-03 22:51:47
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『ただ、抗う権利くらいはあるのだと思います。運命の理不尽に、謂われなき悪意に抗う権利だけは。誰かが力や言葉でそれを潰そうとするのなら――戦争はそこにある。私の敵は、そこにいる』『ふん。正義の味方気取りか。何様のつもりだ!』『まさか』マコトは腰を低く落とした。#OnM_3 206

2015-01-03 22:52:20
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『『オーバードライブ!』』電子音声の叫び。装甲が眩く光り、山吹色のエクトプラズムを迸らせる。顔面を覆うシールドが割れた。その下から現われたのは――角と牙を持つ、鬼の顔だ。背中に格納された四本のアームが全て展開すると、その下からも鬼面が出現した。『……鬼面解放』#OnM_3 207

2015-01-03 22:54:13
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二面八肢の鬼となってマコトは走った。アニタがバックラーを装備した腕を引き絞り、迎撃の構えをとる。カウンターと同時に杭を撃ちこむつもりだ。マコトが跳ぶ。『私は――』アニタも動いた。飛び蹴りの構えを見せたマコトの予測軌道上に、杭の先端を合わせる。『戦争の敵で!』#OnM_3 208

2015-01-03 22:54:37
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獲った――! 串刺しになるマコトの姿を想像し、アニタが会心の笑みを浮かべたその瞬間、《白夜》の背面に出現した鬼の口から、山吹色の炎が噴き出し、機体を急加速させた。さらに四本のアームが下方に炎を噴いて軌道を変更。迎撃の拳を軽々と飛び越え、相手の頭上へ!『!!?』#OnM_3 209

2015-01-03 22:54:57
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

『お化けの味方です!』ほぼ垂直の踏みつけが《ザンクト・ゲオルク》を捉え、大地に縫いつけた。『リベリオニック・キック!』踵が延髄にめりこみ、高圧電流がスパークする。アニタは激しく四肢を痙攣させると、ぱたりと脱力したきり動かなくなった。『正義の味方じゃあ、ない』#OnM_3 210

2015-01-03 22:56:01
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

日は没した。戦いを終えた《白夜》から、山吹色の光が消えていった。残骸と化した『椿ハイツ』から、地下に避難していた吸血鬼たちがぞろぞろと現れる。充が手を振っている。マコトも振り返した。と、哀の素っ頓狂な声が聞こえてきた。「ちょっとマコト! 見て見てこれ!!」#OnM_3 211

2015-01-03 22:56:32
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

アザミは夢なき眠りから唐突に覚醒した。はじめに目に入ったのは、枕元に座る幼い少女――雛菊の顔だ。「……目が覚めた?」「雛菊さん。私……」「ハンターの車に、あなたの灰が積んであったのよ」クランの長、椿も傍らで微笑んでいた。「無事でよかった」「椿様……」#OnM_3 212

2015-01-03 22:57:32
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

白木の杭で心臓を貫かれたり、太陽の光を浴びてしまうと、吸血鬼は灰となって崩れ落ちる。だがそれは吸血鬼の滅びを意味しない。血さえ与えられれば、再び復活することができるのだ。真の死が訪れるのは、その肉体からエクトプラズムを搾り尽くされたそのときだけである……。#OnM_3 213

2015-01-03 22:57:54
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

かぶりを振りつつ、アザミは半身を起こした。雛菊が支えてくれる。アザミが寝かされていたのはベッドでも棺桶の中でもなく、中庭に敷いたビニールシートの上だった。その庭も、まるでトラクターで耕したみたいにほじくり返され、めちゃくちゃになっている。#OnM_3 214

2015-01-03 22:58:52