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「石田三成の青春」第一話「美しい誤解~出会いの三献茶」

「新選組 試衛館の青春」「独白新選組」の著者 松本匡代先生による書き下ろしツイッター小説のまとめです。 第一話はこちらからどうぞ!
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松本匡代@早耳屋お花事件帳&試衛館の青春&独白新選組&夕焼け土方歳三はゆく&石田三成の青春 @mk106732

さて、寺での佐吉の暮らしだが、おもに住職から学問を授けられる。そのほかに、雑巾がけや庭掃除、住職の身の周りの世話などもこなさねばならない。家ではそんな用事は何もしてこなかった佐吉にとって、最初のうちは要領がわからず戸惑うことも多かった。 #石田三成の青春

2015-02-03 18:21:27
松本匡代@早耳屋お花事件帳&試衛館の青春&独白新選組&夕焼け土方歳三はゆく&石田三成の青春 @mk106732

そんな佐吉を気遣い、なにくれと面倒を見てくれたのが、一つ年上の大谷紀之介だ。  紀之介は、寺に住み込んでいる。  余呉湖の北、小谷と書いておおたにと読む村の、佐吉と同じ郷士の家の出らしい。 #石田三成の青春

2015-02-03 18:22:22
松本匡代@早耳屋お花事件帳&試衛館の青春&独白新選組&夕焼け土方歳三はゆく&石田三成の青春 @mk106732

らしいと言うのは、そのことについて、紀之介は佐吉に何も言わず、佐吉が訊いても巧みに話をそらしてしまう。それでも会話の端々をつなぎ合わせ、佐吉はそのように結論付けた。もうひとつ言うなら、両親は既になく、帰る家もないらしい。 #石田三成の青春

2015-02-03 18:23:44
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しかし、紀之介に暗いところは微塵もない。  いつも、明るく元気だ。学問も、寺の雑用も、決して真面目とは言えないが、要領よくそつなくこなし、馬鹿正直に何でも言われた通りにしようとする佐吉の事を嘲笑(わら)いながらも手伝ってくれていた。 #石田三成の青春

2015-02-03 18:24:40
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(二)  この日、住職は、二人に書見をしているように言いつけて、出かけて行った。  佐吉は言われたとおり、端座して経机の上に開いた『孫子』を読んでいる。その横で、紀之介が寝転んで退屈そうに、佐吉の顔を眺めていた。 #石田三成の青春

2015-02-04 18:32:48
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「紀之介殿、お師匠様が留守中、書見をしておれと言われたではないか」 佐吉がたまりかねたように、もう一度言葉を発した。 言われた紀之介は、大きな溜息をついた。 「何もそれほどに根を詰めてやることはない。 #石田三成の青春

2015-02-04 18:34:10
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お師匠様もお留守の間ずっとと言われわけではないはずだ。おぬしのように休まず本を読んでいても却って頭に入らない。頭を働かせるには適度な休息が必要なのだ。あ、それに、以前から紀之介殿はやめろと言うておるではないか。われらは朋輩。お互い呼び捨てでよい」 #石田三成の青春

2015-02-04 18:35:20
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「なれど、紀之介殿は兄弟子にして年上、長幼の序というものがござる」 「兄弟子と言うても、学問はそなたの方が進んでおるし、年上と言うてもたかが一歳ではないか」 「なれど…」  二人が言いあっていると、表から 「誰かある」 という声が聞こえた。 #石田三成の青春

2015-02-04 18:36:47
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「今頃、誰だろう」 「さあ」  二人が言いあって、佐吉が出ていくと、四十がらみの小柄な武士がひとり立っていた。着ているものからかなりの身分だと判る。  その武士は佐吉を見ると、 #石田三成の青春

2015-02-04 18:39:53
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「長浜の秀吉である。遠乗りの帰りじゃが、ちとのどが渇いてのう、茶を一服振るもうてくれぬか」  人懐こい笑顔を向けた。 #石田三成の青春

2015-02-04 18:40:36
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長浜の秀吉とは勿論(もちろん)、長浜城主・羽柴筑前守秀吉だ。小谷落城後、浅井家の領地を得た彼は、琵琶湖のほとり今浜と呼ばれていた地に城を築き長浜と改名した。 #石田三成の青春

2015-02-04 18:41:40
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城持ち大名になっても、譜代の家臣がないに等しい秀吉は、城下町を作り整える一方、遠乗り、鷹狩りと称しては近在の村々を回り適当な人材を探していた  それにしても、供も連れずに一人なのは妙である。秀吉の馬は上等なので駆けているうちに供を引き離してしまったのだろう #石田三成の青春

2015-02-04 18:43:25
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「承知いたしました。まずはお上がりくださいませ」  佐吉は秀吉を客間に案内した。 「暫時お待ちくださいませ」  そう挨拶して、厨に行くと、もう紀之介が湯を沸かしていた。佐吉の気配に振りかえると、 #石田三成の青春

2015-02-04 18:44:15
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「新しいご領主さまだ、粗相のないように気をつけねばならぬぞ」  それだけ言うと、かまどに向き直り火吹き竹を吹いた。暫(しばら)くして、 #石田三成の青春

2015-02-04 18:45:27
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「のどが渇いておられると仰(おっしゃ)った。長くお待たせもできぬ、少しぬるいが、まあいいか、佐吉、点てて持っていけ」  紀之介が佐吉に、指図するように言った。 「はい。え~と、茶碗は…ちょっと大きいけど、ま、いいか。あ、お湯、入れ過ぎた」 #石田三成の青春

2015-02-04 18:46:25
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どうしましょう。  佐吉が紀之介を見る。 「いい、いい。のどが渇いておられるんだ、少々多くても却(かえ)って喜ばれるぞ」  紀之介が、肩の力を抜けとでも言うように気楽に答える。 #石田三成の青春

2015-02-04 18:47:32
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「そうですね、ではお出ししてきます」 そういうと、今まで紀之介とバタバタ慌てていた佐吉が、お茶をささげてしずしずと厨を出て行った。  あいつ、大物になるぞ。  佐吉の姿を見送りながら、何やら楽しそうに、紀之介がひとりごちた。 #石田三成の青春

2015-02-04 18:48:23
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「お待たせいたしました」  佐吉がお茶をもっていくと、 「おお、待ちかねたぞ」  言うが早いか秀吉は茶碗をとり、ごくごくと喉を鳴らして飲み干し、 「もう一杯所望」 茶碗を差し出した。 「かしこまりました」 #石田三成の青春

2015-02-05 20:15:19
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空の茶碗を盆に受け取り、厨へ帰って来た佐吉が、紀之介に、 「お代わりを所望されました」  と言うと、 「ちょうどいい大きさの茶碗を見つけておいた。お湯もいい具合に沸いている。今度はうまく点てろよ」 と、前より少し小さい茶碗を渡してくれた。 #石田三成の青春

2015-02-05 20:16:21
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「はい」  前よりおちついて点てたこともあって、今度はうまく点てられた  それを持って、また、しずしずと行く 「お待たせいたしました」 「うむ」  秀吉はうなずくと、前より少しゆっくりと味わうように飲んだ。そして飲み終えると、意味ありげに微笑んでから、 #石田三成の青春

2015-02-05 20:18:43
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「いま一杯所望」  と茶碗を返してよこす。佐吉はそれを、 「かしこまりました」  と盆で受け、厨へ下がる。 「もう一杯、ご所望です」  言うと、紀之介が 「え~っ」  と、悲鳴とも何ともつかない声を挙げた。 #石田三成の青春

2015-02-05 20:19:46
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「もうお湯が…」  早く湧くように少ししか沸かしていなかったのだ。 「ないんですか」 「小さい茶碗に半分ほど。煮えたぎっている」 「どうしましょう。もう一度沸かしますか、あ、水をたして、うめましょうか」 #石田三成の青春

2015-02-05 20:20:45
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佐吉の言葉に、紀之介は暫(しば)し考えたようだ。  そして、 どんなにのどが渇いていたか知らないが、あれだけ飲めば、もう今は喉は渇いていないはずだ。なのにもう一杯飲みたいという。なぜか。ああ、そうか、休みたいんだ。 そう結論づけたらしい。 #石田三成の青春

2015-02-05 20:21:49
松本匡代@早耳屋お花事件帳&試衛館の青春&独白新選組&夕焼け土方歳三はゆく&石田三成の青春 @mk106732

「佐吉、この残りの熱い湯で点てろ。熱いままだ」 「え、何故に」 「秀吉さまは、もう今は、それほど喉は渇いてはいまい。さすれば何故、三杯目を所望なされたか。それは今少し、ゆっくりなされたいからではあるまいか」 #石田三成の青春

2015-02-05 20:22:53
松本匡代@早耳屋お花事件帳&試衛館の青春&独白新選組&夕焼け土方歳三はゆく&石田三成の青春 @mk106732

「そうか。だから少しのお茶を熱く点て、ゆっくり味わっていただこうというのですね」 「そのとおり」  二人は、顔を見合わせて微笑みあった。 #石田三成の青春

2015-02-05 20:23:55