「石田三成の青春」第4話「三成の恋」

「試衛館の青春」「独白新選組」の著者松本匡代先生によるツイッター小説「石田三成の青春」の第4話まとめです。
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松本匡代@早耳屋お花事件帳&試衛館の青春&独白新選組&夕焼け土方歳三はゆく&石田三成の青春 @mk106732

お待たせしました。「石田三成の青春」第4話「三成の恋」第1回 ゆるゆると始めて行きたいと思います。 #三成の恋 pic.twitter.com/LY7tJ2aBw8

2015-06-04 17:31:23
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松本匡代@早耳屋お花事件帳&試衛館の青春&独白新選組&夕焼け土方歳三はゆく&石田三成の青春 @mk106732

石田三成の青春 第四話   #三成の恋 三成の恋        (一) 花冷えという言葉がある。 桜の咲くころに、まるで過ぎ去ったはずの冬が名残を惜しんで戻って来たかのように冷え冷えとした天候を表す言葉だ。  #三成の恋

2015-06-04 17:32:32
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天正六年三月のある日。 この日の長浜は、まさにその花冷え。午前中に降った雪が昼になっても、五分咲きの桜の枝に残っていた。 #三成の恋

2015-06-04 17:33:35
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石田三成は数日前に、中国攻めの陣中から、兵糧の運搬のため、大谷吉継とともに長浜へ戻ってきていた。 こちらでの仕事も済み、明日は戦場へ出発するつもりだ。 午前(ひるまえ)に、蔵屋敷での荷出しの指示を終えた三成は、いったん拝領屋敷に帰った。 #三成の恋

2015-06-04 17:34:27
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門をくぐると供をしてきた若党の嘉助が、勝手場の方に駆けて行き、 「お帰りだ」 と、女中のおもよに知らせる。そして、濯(すす)ぎの用意に井戸端に走る。玄関で 「お帰りなさいませ」  と、出迎えたおもよが、嘉助の運ん出来た桶の水で三成の足を洗い、奥へと従う。 #三成の恋

2015-06-04 17:35:58
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「お着替えはなさいますか」 「いや、少し休んでから、御殿に上がる故、このままでよい」 「ではお茶をお持ちしましょうか」 「少し腹が減っておるのだ」 「あら、お珍しい。お餅でよろしゅうございますか」 「ああ、頼む」 #三成の恋

2015-06-04 17:36:50
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おもよが台所に下がり、ほどなく、焼いた餅を二個、皿に載せて持ってきた。その様子が、何とも嬉しげだ。 「おもよも、母上やとみと同じように、私がものを食べるのが、よほど嬉しいと見える」  三成が面白そうに言った。 #三成の恋

2015-06-04 17:37:49
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三成は、子供のころから胃腸が弱く、しょっちゅうおなかを壊していた。それ故かどうか、食が細かった。  だから、偶(たま)に、三成が自分から食べ物を欲すると、母親も女中頭のとみも、嬉々として三成の好物を用意してくれたものだ。 #三成の恋

2015-06-04 17:38:55
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おもよは、そのとみの娘だ。三成が元服して屋敷を拝領した時、三成自ら希望して、若党の嘉助とともに、石田村の実家から貰い受けた。 三人は石田の家で一緒に育った、いわば幼馴染。気心は知れている。と言うか、一つ年上のおもよは、三成にとって姉のような存在でもあった。 #三成の恋

2015-06-04 17:39:45
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「お出しした御膳のものが無くなっておりますと、ほんとうに嬉しゅうございます。ましてや、ご自分から何かを食べたいと仰せられれば、もう……」  おもよが満面の笑顔で答える。 「おやおや、おもよにとって私は、未だに石田村の頃の佐吉のままと見える」 #三成の恋

2015-06-04 17:40:42
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三成がからかうように言うと、 「そんなことはございません。若様はご立派におなりです」  おもよがむきになる。 「そうら、語るに落ちたぞ、おもよ。やはり、おもよにとって私は『若様』なのだな」   三成が笑った。 #三成の恋

2015-06-04 17:41:43
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三成が笑った。 「あれま、どういたしましょう。つい昔のくせが出てしまって。旦那様を若様などと。申し訳ございません」  おもよが小さくなって詫びると、 #三成の恋

2015-06-04 17:43:28
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「よいよい。私も、おもよに『旦那様』などと呼ばれると、尻の辺りがもぞもぞするわ」  三成は実に楽しそうに笑った。 「まあ、若様ったら」  おもよも照れたように笑う。  暫く二人して笑いあった。 #三成の恋

2015-06-04 17:44:22
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ふと、三成がおもよをみると、おもよが笑いながら、そっと涙をふいた。笑い過ぎて涙が出たというのとは違う。泣いているのだ。と言って、もちろん哀しくて泣いているのではないようだ。 「どうした」  三成が真顔に戻り、訊ねる。 #三成の恋

2015-06-04 17:46:51
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「嬉しいのでございます」 「おいおい。おもよは私が自らものを食べたいと言うただけで泣くほど喜ぶのか」 三成がまた笑った。 「それだけではございません」 「うん?」 #三成の恋

2015-06-04 17:48:27
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「若様がこのようにお笑いになるのは、何年ぶりでございましょうか。ああ、若様が笑うてなさる、そう思うたら、嬉しくて思わず涙が出たのでございます」 「そんなことは……」 #三成の恋

2015-06-04 17:51:03
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ない。  三成は否定しようと思ったが、出来なかった。長浜へ来てから、いや、もっと前、長兄が亡くなってから、おもよの前でも心から笑ったことはなかったような気がする。今、おもよに言われて気がついた。 #三成の恋

2015-06-04 17:52:19
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自分が風邪を伝染(うつ)したせいで病弱の長兄を死なせてしまった。  そう思い込んだ三成は、羽柴秀吉への出仕が決まった時、  兄上の分も世のため人のために役に立つ人間になろう。  そう決心して、長浜へ来た。 #三成の恋

2015-06-04 17:53:07
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約二年、秀吉の手許で小姓として仕えながら、様々なことを覚え、修業した。我ながらかなりの仕事が出来るのではないかと思えるほどになって、元服して屋敷を拝領。さて、これから一人前の働きをと張り切ったが、なかなか本格的な仕事は与えられなかった。 #三成の恋

2015-06-04 17:54:05
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ほぼ同時に小姓を終えた、福島正則、加藤清正が、早々と初陣を手柄で飾り、戦ごとに目覚ましく活躍するのを横目で見ながら、自分に与えられる兵糧の計算や調達の手伝いを、溜息が出る思いでやっていく毎日だった。 #三成の恋

2015-06-04 17:55:01
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三成と正則や清正とでは、性格や得意分野がまるで違う。それに彼らは秀吉と同じ尾張の出。近江生まれの三成は、なんとなく対抗心があり、悩みや弱みを素直に見せられなかった。 #三成の恋

2015-06-04 17:55:46
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去年の秋、大谷吉継が秀吉に召抱えられ、三成の前に現れるまでの間、与えられる仕事への不満、正則や清正に遅れをとる焦りなど、誰にも話すことが出来ず、自分の心の中に溜めこみ悶々とする日々が続いていた。 #三成の恋

2015-06-04 17:56:29
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それをおもよは感じ取り、心配してくれていた。三成には何も言わず、一人気をもんでいたのだ。  愛しい。  おもよに対して、初めての感情だ。  いや、おもよに限ったことではない。女性に対しての初めての思いが三成の心に宿った。 #三成の恋

2015-06-04 17:57:24
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吉継と再会してから、三成は徐々に明るく元気になっていった。  人間、心に溜めこんだ愚痴や不満を吐き出す場が出来ることは、健全な精神を保つ上でかなり重要らしい。  #三成の恋

2015-06-05 17:32:41
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それに加えて、三成に、秀吉軍の兵站一切が任された。  これで漸く三成は、自信と誇りをもって、自分の仕事にあたることが出来た。 #三成の恋

2015-06-05 17:33:47
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