徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』(先行版)
「だが、俺は思ったね」酒の勢いからか、ガンジーの口はいつもより軽い。「今回のソクシンブツは、天啓に違いないって」「……また、その話か」「考えてもみろ。あれほどのブツが見つけられたんだ。いけるって」「有るかどうかも怪しい代物だろう」クーカイはグラスの中身を喉へ流し込む。20
2015-03-11 23:01:16「……無限の徳エネルギーなんてな」「でもあの爺さんは、『有り得ない話じゃない』、って言ってたぜ」「『有り得る』と『見つかる』は別問題だ」アルコールが潤滑油となり、二人の議論はエスカレートする。 無限の徳エネルギーを生む伝説の遺物……その名は、『仏舎利』。21
2015-03-11 23:05:13徳エネルギー工学の基礎を解しない彼らには知り得ぬことだが……それは『有り得る』ことなのだ。 風力、太陽光、バイオマス、地熱、化石燃料、そして原子力。エネルギーは数あれど、人類が徳エネルギーを用いるようになった理由。それは『再生率が極めて高い』という点にある。22
2015-03-11 23:07:59ある上人が徳を積み、徳エネルギーを放出する。そこまでは普通のクリーンなエネルギー源にすぎない。 だがその上人は、徳エネルギーを人々を助けるために使うことで……更に徳を高めることができるのだ。徳エネルギーが徳を生み、徳が徳エネルギーを生み出す。故に、「再生可能」。そして……23
2015-03-11 23:13:56もしも仮に、徳と徳エネルギーの変換を、100%に近付けることができれば。それは、永久機関たりうる。即ち『徳エネルギーによって人々が救われる限り、徳が積まれ、徳エネルギーが供給される』ことになってしまうのだ。 だが……そんなものの存在を、この宇宙の法則は本当に許すのだろうか?24
2015-03-11 23:17:18ガンジーとクーカイは貴重な酒瓶を開け、料理を平らげる。『仏舎利』などという争いの種はその辺に置き捨てて。 彼等はまだ知らない。徳エネルギーの意味を。自分たちが見つけてしまったのが、如何なるものか。25
2015-03-11 23:21:27そして『仏舎利』の存在、『永久機関』の矛盾……だがその答えは次節に譲り、ここでひとまず幕としよう。 若人達は勝利の美酒を浴び、夜は静かに更けて行く。26 オリジナル徳パンク小説『ガンジー&クーカイ(仮)』#1終わり #2へ続く
2015-03-11 23:24:02◆お知らせ◆ ◆タイトル&ハッシュタグの募集◆ このアフター徳カリプス徳パンク小説には、まだタイトルがありません。なので、タイトルを募集します。仮題は『ガンジー&クーカイ』ですが、より徳の高いタイトルをお待ちしております。応募することで徳ポイントが溜まる可能性があります。
2015-03-11 23:28:59◆お知らせ2◆ また、タイトルの放出する徳エネルギーによってマニタービンが回り、執筆速度が加速される効果があると言われています。タイトルが多分実況ハッシュタグにもなるので、応募とかお待ちしております。
2015-03-11 23:30:33◆タイトルについて◆ 徳パンク小説のタイトルは、ノッカラノウム=サン(@nokkaranoumu)とふらぅ=サン(@Titanfang)の提案を合体&アレンジし、『黄昏のブッシャリオン』となりました。実況タグは #bussharion となります。
2015-03-12 12:24:06徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』#2
得度の行方は
【これまでのあらすじ】 徳エネルギー文明の崩壊、『徳カリプス』後の世界。それでも人は解脱を夢見て徳を積み続ける。だが、一方で徳を諦めた者達も居る。彼等は過去の徳の遺産を漁り、命を繋ぐ。そんな採掘屋の二人、ガンジーとクーカイは久方振りの大物を発見し、勝利の美酒に酔っていた。
2015-03-12 12:33:11「……良し」その夜、ラマ・ミラルパ20世は人知れず徳ジェネレータの復旧に取り組んでいた。 「『マニタービン』は問題なし、か」自身が徳エネルギーに精通する人間であることを隠すため、彼は人目につかぬこの時間帯に作業を行っているのである。1
2015-03-12 12:42:58自身の産んだ、徳カリプスの一因となった忌まわしき技術。一方でそれはこうして今、徳を持たぬ人々の命を繋いでいる。 「……いや」技術そのものに、善悪は無い。観音菩薩めいて幾つもの顔を持つのが、技術というものの本質なのだろう。 「後は徳ジェネレータ本体を稼働させれば……」2
2015-03-12 12:46:41老人は傍らに安置されたソクシンブツを見やる。骨と皮ばかりになったその顔に、表情は無い。だが……このソクシンブツもまた、衆生救済を願いながら入定していったのだろう。 「……有り難く、使わせて貰う」 そう呟き、ラマ・ミラルパ20世は徳ジェネレータの中へソクシンブツの搬入を開始する。3
2015-03-12 12:53:58徳ジェネレータの内部には、曼荼羅めいた空間が広がっている。それは形而上と形而下とを繋ぐ場……即ち禅の思想に通づるところがある。 「試運転を……」内部点検を終了した高僧が、試運転プログラムを実行するためジェネレータの内部から出ようとした、その時。4
2015-03-12 13:00:42「……馬鹿な!」徳ジェネレータの曼荼羅模様が光る。「起動しているだと」 それは高齢の徹夜作業によるミスか、或いは機械の故障か定かではない。だが、事実としてジェネレータは起動していた。ソクシンブツがコロナめいた発光を纏う。「ぐっ……」そして、老人……ラマ・ミラルパ20世もまた。5
2015-03-12 13:05:29徳ジェネレータは、生身の人間から徳エネルギーを抽出することも想定した設計だ。故にその動作そのものに危険は無い。 「……不味い」 問題があるとすれば、二人分から一挙に徳エネルギーの抽出を行っているという事実。そして、それが『人々の役に立つ』という事実。6
2015-03-12 13:09:45「このままでは……徳エネルギー密度が飽和し……」老人は、徳ジェネレータから脱出しようと藻掻く。だが、慌てたことが災いし、転倒してしまう。 「あの時と……同じだ。『あの時』と」尚もあがく老人。徳エネルギー密度が臨界を超える。「まだ……成仏するには、早すぎるというのに!」そして
2015-03-12 13:14:47老人とソクシンブツの周囲に蓮の花が咲き乱れ、光の柱がジェネレータを突き破り、天へと伸びる。 『強制成仏現象』。徳エネルギー飽和によるアセンション。一定以上の徳を積んだ人間は、徳エネルギーと共にこの世の法則から解き放たれ仏となる。それは、嘗ての徳カリプスの正体でもあった。8
2015-03-12 13:21:44